修正記

山田 花太郎

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四章

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第4章 決戦 本能寺!

 料理勝負の後、鞍馬の屋敷に大樹達は招待された。
カラス天狗に案内され客室らしい部屋に通された。
「偶然とはいえどうにかうまくいったな」
「でも、うちは納得でけへんよ。うちの料理が駄目で、あんなインスタントラーメンが合格やなんて!」
 真白が不満そうに頬を膨らませる。
「いいじゃないですかあ。目的は果たせたんですし」
「そうだぜ。これでようやく信長を助けられるんだから」
 大樹と陽菜が真白をなだめる。
「せやけどなあ」
「まあ、確かに真白の料理はうまかったけどな」
 大樹が真白の料理の味を思い出す。
「せやろ。うちの料理はうまいんや!」
 その一言に一転、機嫌を良くする。
「よし、酒じゃあ。祝いの酒をもてえい」
 調子に乗って真白がカラス天狗を呼んでいる。
「俺はちょっと外を散歩してくるわ」
「おお、気い付けてな」
 大樹は一人部屋から出ていった。

「空気が濃いってのはこんなのをいうんだろうな」
 森の中を歩きながら大気が呟く。
周囲は高い木々の葉に遮られ、昼でも薄暗い。
「なんか、ひさびさに落ち着くなあ」
 手ごろな岩に腰かけて座る。
岩はひんやりして冷たかった。
 がさっ!?
「うぉっ!?」
つるっ。ごんっ。
「痛ってぇぇええ」
 大樹は驚いて立ち上がろうとして、滑って岩に後頭部を強かに打ちつけた。
「一体なんの音だ?」
「キュイ~ンキュイ~ン……」
 どこかで、なにかの鳴き声が聞こえる。
「な、なんかいるのか?」
 大樹は恐る恐る鳴き声のするほうに近づいていった。
 茂みをかき分けてみると、白い子狐がトラバサミに挟まれてじたばたしていた。
「狐だったのか。でもやっぱり、狐ってコンコンとはなかないんだな」
 大樹を見た子狐は猟師だとでも思ったのかさらに暴れだす。
挟まれた右の前足からは血も滲んでいる。
「痛そうだな、ありゃ」
 大樹は、それをみてトラバサミを外してやろうと手を伸ばす。
 がぶっ。
「痛ってぇえええ!」
 子狐が大樹の指に思い切り噛み付いてきた。
(そ、そうだ今こそ、あの映画のワンシーンみたく……)
 目を細めてやさしい顔を表情をする。
「怖くない、怖くない。怯えていただけなんだよね. ウフッ ウフフ」
 子狐の攻撃。がじがじ。
大樹の攻撃。大樹は子狐を優しくみつめている。
 子狐の攻撃。さらにガジガジ。
大樹の攻撃。大樹は子狐をみつめている。
 さらに……。
「って無理だああ。こうなりゃ、実力行使だ!」
 子狐を片手で押さえ込み、もう一方の手と足で罠をこじ開けた。
 ついでに虫刺されように持っていたオ●ナインをぬり、包帯代わりにハンカチを巻いてやる。
手を離すと子狐は矢のように走り去った。
「まあ、あれだけ走れれば大丈夫だろう。でも、罠をしかけた猟師には悪いことをしたかも」
 少し考えて、大樹はトラバサミに違うものを挟んでその場を去った。懐から出したチョコバーを挟んで。

「ただいま」
 散歩から戻った大樹は部屋の襖を開けた。
「おっかえりいい!」
 やけにハイッテンションな声で真白が出迎える。
 真白の色白の顔がほんのり赤く染まっている。片手には一升瓶。
「酒くさっ!?」
  部屋には飲み干した酒瓶がいくつも転がっていた。ついでに陽菜も赤い顔で転がっていた。酔いつぶれて眠っているようだ。
「あんたものみいや!」
 真白が大樹に寄りかかってくる。
着物が着崩れして、肩や胸元が大きく露になっている。白いきめ細かい肌。女性特有の甘い匂いが大樹の脳を揺らす。
「あん? 指ぃ、血い出とるで。貸してみい」
 大樹の手を取ると、パクッと咥えた。
「わっ。な、なにすんだよ」
 顔を赤くして慌てて真白の口から指を引き戻す。
「消毒や、消毒。なんやうぶやな。くすっ」
「いいから、酔っ払いは寝てなさい」
 からす天狗を呼んで布団を持ってこさせ、大樹は二人を寝かせた。
「なにか、食事を用意しましょうか」
 からす天狗が気を利かせる。
「ありがとう、でもその前に、風呂ありますか」
「はあ、わかりました。案内します」
 大樹は風呂場につくと、桶で冷水を頭から被った。
「静まれ。おれのパトスううう」
 思春期の叫びが風呂場に響き続けた。
 結果、大気はその後三日寝込んだ。
風邪で一日、陽菜のおかゆを食べて二日の意識不明。

「ぐぉ、ここは」
 大樹が二日ぶりに目を覚ました。横を見ると真白と陽菜が心配そうに布団の横に座っていた。
「よかったですぅ。目を覚ましましたよ。二日間も風邪で眠っていたんですよぉ」
「風邪で? いやなにか変な物を食べた気が……」
 思い出そうとするが記憶がぼんやりとしていて思い出せない。
「風邪やて? 実際寝込んだのはあんたのおかっもが、もが」
 なにか言おうとした真白の口を後ろから陽菜が手のひらで塞ぐ。
「ま、真白さんあっちでからす天狗さんが、お酒飲ませてくれるそうですよ。さあ、行きましょうね」
「なんやて! 酒やて! ほないかな」
 あっという間に部屋を出て廊下を走っていく。
「あ、待ってください」
 陽菜も真白を追って部屋から出て行く。
「なんか腑に落ちねえな」
 ぐう~。
 腹の音で自分がひどく空腹なのに気付く。
「とりあえず、なにか食うか」
 大樹も食事をする為部屋を出た。

「ごちそうさま!」
 大樹は食事を済ませ、お茶をすする。
「うまかったな。この料理はからす天狗たちが作ってくれたのか?」
「いや、うちやで」
 隣で酒を飲んでいた真白が言う。
「狐うどんと稲荷寿司以外もつくれたのか!?」
「あたりまえやで。なんでもつくれんで」
「すごいな、マジで料理人並だな」
「せやろ~」
 真白が機嫌よくする。
 隣でお菓子をつまんでいた陽菜が、
「大樹さん、今度はわたしも料理作ってあげますね」
 屈託のない笑顔をみせる。
「それは、謹んでお断りします」
 大樹は間を置かずに丁寧に断った。
「やめとき、やめとき。次はなにを作るきや。いいかげん、料理で凶器を作るのはやめ。そのうち暗黒物質でも作るんちゃう」
「それか、ブラックホールとかな」
「そりゃ言い過ぎちゃうぷぷ」
「あはははは」×2
 二人は思わず爆笑する。
「ひ、ひどい」
 陽菜が涙目になる。
「泣くなって! 人にはできることとできないことがあるんだから」
「夜空の星に手が届かないようにやな、届きそうに思えても絶対できないこともあるんや」
 大樹と真白が慰めてるんだか、けなしてるんだかわからない励ましを贈る。
「うう、ありがとうございます」
 陽菜が素直に慰めと受け止め涙を流す。
「それで、これからのことなんやけど、どうするんや?」
 唐突に真白が真剣な顔になる。
「そうだなあ」
 本能寺の変まであと18日。期日までいくらか日数が残った。
「どうするかな、特にやることもないけど」
「そんなら、あんたちょっと、鞍馬に鍛えてもろたらどうや」
 真白が突然に予想外の提案をする。
「な、なんで俺がそんなことを」
「だってあんた、弱いやろ」
「そうですねえ。体力もないですし」
 すっかり立ち直っている陽菜が同意する。
(忍者と妖怪を基準に判断しないでくれ)
「それは、面白そうじゃん。人間を鍛えるのは義経以来じゃん♪」
 いつの間にか近くにいた鞍馬が興味津々の眼で大樹をみる。
その眼は新しいおもちゃを見つけた子供かまたは、ねずみを前にした子猫のような眼だ。
「いやあ、僕的には遠慮したいなあって」
 大樹は引きつった笑みを浮かべる。
(子供はおもちゃで遊び過ぎて壊してしまう。。子猫は、捕まえたねずみを無邪気にいたぶって殺してしまう。なら、鞍馬天狗は、俺を……)
 ぼろ雑巾のようになった自分を想像し、寒気を覚える。
「遠慮はいらないじゃん!」
 がしっと大樹の襟首を掴む。
「え、遠慮じゃなくて」
「しゅっぱーつ!」
大樹を持ち上げて鞍馬は部屋を飛び出していった。。
「ちょっと、待ちい。うちも行くわ」
 もう一匹猫が飛び出す。
「あ、待ってください」
 さらにもう一匹が後を追う。

「これは一体なんなんだ?」
 大樹が目の前の鞍馬天狗に尋ねる。
大樹の今の状態は人間大の樽に顔だけだして嵌められている。
樽の表面にはいくつか等間隔に細長い穴が開いてある。剣を刺すと人形が飛び出すあのゲームに類似している。
真白と陽菜は近くの切り株に座って大樹をおもしろそうに眺めている。
「だから、修行じゃん♪」
 鞍馬がうれしそうに答える。
「なんの?」
「運」
「運!?」
 鞍馬は続ける。
「例えどんなに才能があっても、運がなければ大成はしないじゃん。運が悪けりゃ道を歩いても死ぬ。つまり! 運あっての人生! そしてその為の修行!」
 鞍馬は自分で言いながらテンションを上げていく。
「内容は至って簡単。穴は全部で10個。それに剣が9本。一本ずつ刺していき最後まで当たりを引かなければ修行成功じゃん!」
「当たりを引くとどうなるんだよ」
―どうせ俺が上に吹っ飛ぶとかだろう。
「飛び出るだけじゃん」
―やっぱりか。
 思った通りの答えに大樹がやれやれといった感じにため息をつく。
「血とかなにやらが。口や傷口から」
 しれっとした顔で言う。
「人権保護団体をよんでくれぇぇええ」
 自分の危機的状況を理解し、大樹が暴れ出す。
「落ち着くじゃん。刺さったとしても大丈夫じゃん。刺さるのは数…」
―数センチってか。それでも十分やばいっての!
「数十センチだから」
「突き抜けるわ! 余裕で貫通してるわ!」
「大樹ぃ。少し落ち着きぃ」
 切り株に陽菜と今まで座っていた真白がゆらりと立ち上がる。心なしか顔が赤い。
どうやら、酒を飲んでここまで走ってきたためアルコールが回ったようだ。
「ひっく。昔からこういうやろ。当たるも八卦、当たらぬも八卦」
「おみくじ感覚で俺の命を使わないでくれええ」
「それじゃあ、いくでぇえ」
 剣を両手の指に挟み、9本中8本を構える。
「人の話を聞けえええ」
「そりゃっ!」
 ズギャンッ!
 8本の剣はそれぞれ違う軌道をとり、全部樽の穴に吸い込まれるように突き刺さる。
ぐらぐらと衝撃で樽が揺れる。
「し、死ぬ。マジで。殺されてしまうぅ」
 大樹の両目が涙目になる。
「よしゃあ、最後の一本や」
 真白が残りの一本の剣を構えた。大樹はあきらめて目をつぶった。
 残りの穴は左右に並んで二つ。確立は二分の一。
「右かな、左かな」
 真白がふらふらと最後の一本の的を選ぶ。
「ちょっと待ってください。最後はわたしも投げますぅ」
 いままで、傍観していた陽菜が立ち上がった。
―わたしもって残りは一つだろ。
 目をつぶりながら大樹は思った。
「じゃあ、うちは、右、あんたは左や」
「わっかりましたあ!」
―なにか今変なやり取りしてなかったか。
 状況を確認しようと大樹が目を開けると、真白と陽菜が剣を振りかぶっていた。
陽菜が持っているのは自前の忍者刀だ。
「や、やめれえええ」
 大樹の叫びを無視して2本の剣は、ほぼ同時に投げられた。
―死んだ。
 大樹は死を覚悟した。
 まず、真白の放った一投が樽の穴に突き刺さる。次に陽菜の投げた剣が突き刺さる。はずだった。
 が、そこで予期せぬ事態が起こった。真白が投げた剣の威力が強すぎ樽が大きく後ろに傾いた。その為、陽菜の投げた剣は穴のわずかしたに突き刺さった。
「「「おしい!」」」
「おしいじゃねえええ!」
 三人のリアクションに大樹は激怒する。
「人の命をおもちゃにしやがって。なんだこれは、新手のいじめか!」
「まあ、落ち着きぃ。無事やったんやし」
「そうですよう」
「なかなかの運じゃん」
 大樹の怒りに対しあくまでマイペースな三人。
―くっ。こいつらは。
「もういいから、ここから出してくれよ」
「わかったじゃんよ」
 鞍馬が指を鳴らすと、樽が二つに割れた。
「で、修行はクリアしたんだ。なにかいいことあるんだろうな」
 樽から開放された大樹が鞍馬を睨む。
「もちろんじゃん!」
 鞍馬天狗がもったいぶりながら懐から何か取り出した。
「これじゃん」
 鞍馬が懐から出したのは丸薬だった。
 大樹が差し出された丸薬をじろじろ眺める
「効果は?」
「風邪が治る!」
「風邪薬ぃぃぃ!」
 バシッと地面に叩きつける。
「あーっ!」
「あーじゃねえよ。そんなもん薬局で買うわ! なんかもっと違うのあんだろ」
「欲張りな奴じゃん。じゃあ、とっておきを……」
 やれやれといった様子でまた違う丸薬を取り出した。しかも今度は2個。
右手と左手の手のひらに一つずつ乗せて大樹の前の差し出す。
「で?」
「でって、失礼じゃん! どっちかひとつ選ぶじゃん」
「効果は?」
「右が少し力が強くなる薬、左がすごく力が強くなる薬」
「じゃあ左!」
 大樹は迷わず左手の丸薬を受け取り、飲み込もうと口に入れた。
「副作用として寿命が半分に!」
 ブフーっ!
 大樹は口の中に入れた丸薬を即座に吐き出した。
「な、なんてもの飲ますんじゃぃ」
「どっちにする?」
「右だよ! 右にするよ!」
 そういってもうひとつの丸薬を乱暴に奪った。
「一応聴くけど、副作用はないんだろうな?」
 疑うような目で鞍馬を見る。
「効果が少ないかわりに、副作用はないじゃん。でも人生は太く短くってのがいいじゃんのに」
 鞍馬はつまらなそうに、うつむいてつま先で小石をける。
「で、どんくらい効果あるんだ?」
「なんと! 驚きの当社比三倍!」
 鞍馬がびしっと三本指を立てる。
「意味わかんねえよ! 元の基準知らないし」
「まあ、飲む前の筋力1.2倍ってとこじゃん」
「ん~微妙」
 そういいながら、大樹は丸薬を飲み込んだ。
「で、修行はこれで終わりか。それなら……」
「なに、言ってるじゃん。修行はこれから! こんなのはただの余興じゃん! 日数も少ないから大したことは、教えられないじゃん。だから、まあ剣術くらい教えてやるじゃん」
いつの間にか持っていた木刀を大樹に放り渡し、鞍馬自身も木刀を構える。
「じゃあ始めるじゃん。修行は生かさず殺さずって言うじゃん?」
 鞍馬天狗はSっぽい笑みを浮かべる。
「うそ~!?」
 修行の始まりを告げる叫びだった。

「じゃあ、修行はこれで終わりじゃん」
修行を開始して15日後のことだった。
鞍馬の修行は、相撲のかわいがりがやさしく思えるほど過酷だった。大樹の姿は小学生の学期末の雑巾並みにぼろぼろである。
「逃げ出さず、よく耐えたじゃん!」
 そういって鞍馬がうんうんと感慨深く頷く。
「逃げ出さずってなぁぁああ」
 わなわなと大樹は拳を震わせる。その拳も傷だらけであちこち血が滲んでいる。
「修行にくたびれて動かなくなっている俺を毎晩、檻に鍵つけて閉じ込めていたからだろうが」
 よくみると全身あざだらけである。
「まあ、なんじゃん。何かを欲すれば、代わりの何かを犠牲にしなければならないじゃん。時間とか、自由とか、尊厳とか、希望とか、命とか」
「最後のひとつは、失くしちゃまずいだろ!」
「にしししっ。それは、極端な例じゃん」
 軽く笑う。
「さあ、山を降りるじゃん。二人がが出所祝いに料理作って待ってるじゃんよ」
「マジで! ってか、俺は、犯罪者か!」
 不満を口にしながらも、気分は高揚する。
なんせ、修行の間の食事といったら、謎の丸薬やらひたすら苦い飲み物、見たこともない奇妙な生物の丸焼き。まともな食べ物は口にできていない。
「面倒だから、行きと同じで運んでやるじゃん」
「え? ちょ、ちょっと」
 来るときと同じように肩を掴んで飛び上がった。
「やめれええ」
 山に悲鳴がこだました。

 屋敷に到着し、大樹達が泊まっていた客室の襖を開けた。
 部屋の座卓にはご馳走が所狭しと並べられている。
「おかえり。大変やったみたいやな」
 真白がぼろぼろの大樹を見て言う。
「まあな、それで、あそこに転がってるのはなんだ?」
 料理が座卓の上に並べられているその隣に、縄でぐるぐる巻きにされている陽菜を指す。
「ああ、あれか? せっかくの料理を未確認物体にしようとするんやもん」
「ふごーふごーっ!」
 陽菜がなにやら文句を言っているようだが猿ぐつわをはめられてるため聞き取れない。目には涙も浮かんでいる。
「グッジョブ! イェイ!」
 大樹と真白がハイタッチする。
「もがーっもがーっ!」
「わかった、わかった。今ほどくから」
 大樹が猿ぐつわとロープを外してやる。
「ぷはぁっ。ひどいですよお。もう!」
「「まあ、まあ」」
 騒ぐ陽菜をなだめる。
「それで、もう食べていいか? この料理」
「せやな。冷めたらうまないし」
「よしゃ! いただきます!」
「あ、ずるいです。わたしも食べます」
 大樹と陽菜が我先にと料理に手を出した。
 その隣で真白は鞍馬の方に振り返る。
「で、修行の成果はどうやったんや?」
「ん~まあ、多少は強くなった程度じゃん。期間も短かったし」
「そやなあ」
 少し残念そうにする真白。
「でも、度胸はついたじゃんよ。だから、ある程度は、普通に戦えると思うじゃん。ってことで、おれも頂くとするじゃん」
 鞍馬天狗も料理を食べ始めた。
「そんじゃ、うちも」
 真白も空いた席に移動して食べ始めた。

 食事も済まし、四人で和んでいると、
「で、これからどうするんですかあ」
 お腹を満たし、すっかり機嫌も直った陽菜が大樹をみる。
「そんなの信長を本能寺から連れ出すに決まってるだろ」
「あ、そうでした。そうでした」
 ぽんっと手を叩いてうなずく。
「ほんまに、忘れてたんかい」
 真白があきれてため息をつく。
「ここまで、くれば楽勝だな。さらって近くの織田軍の城においてくればいいだけだから。これでやっと家に帰れるぜ」
 それだけ聞くとまるっきり誘拐犯の発言にしか聞こえないが。
「家といえば、二人はどこから来たんですか? 出会った時、あまりみたことない服着てましたよね」
 陽菜が珍しく頭を働かせる。
「そ、それはやな、まあ、遠いところや!」
 ものすごくアバウトな言い方だ。
「遠いところ。わかった! 外国からきたんですね」
「あ、ああ。そうやねん。なあ、大樹」
「うん、そうそう」
 二人はとっさに口裏を合わせる。
「そ、そういえば、信長ってどんな奴なんだろうな、陽菜知ってるか」
 話をそらそうと大樹が違う話題を振る。
「そうですねえ、あったことないんですけどお、お寺を焼いちゃったり、お坊さんを殺したりやんちゃな人らしいです」
「やんちゃってレベルじゃないけどな」
「悪魔みたいなやっちゃな」
「自分のことを第六天魔王って言っているらしいですよ。でも、本当に魔王だったら大変ですよね」
「あっはっは。んなこっちゃあるわけないやろ」
「非常識じゃんよ」
「そりゃそうだ」
 そう言いつつ、大樹は真白と鞍馬を見る。
―妖怪がいるなら魔王もいるんじゃねえの?
 そんな考えが大樹の頭をよぎったがすぐに馬鹿らしいと思い忘れた。

「ここを抜ければ、信長さんの部屋ですう」
 陽菜の案内で、本能寺を進む大樹と真白。
奇跡的にここまで迷わっていない。どうやら、陽菜が前もって調べていたらしい。
「忍者のわたしにかかれば、このくらい楽勝ですう。なんたって忍者ですから。一流のに・ん・じゃ! ですから!」
「「はい、はい。すごい、すごい」」
 呆れながら、二人は返事をする。
 今三人は、鞍馬から借りてきた隠れ蓑を着て潜入している。
三人とも姿が消えていて他の二人の姿はみえない。その為、手を繋ぎながら移動する。先頭が陽菜、次に大樹、最後が真白の順で廊下を進む。
 本能寺の周りに織田の兵が厳しい警備していたが、いざ寺の中に入ると全くといって人の姿がみられない。
―人払いでもしているのか? 無用心だな。
疑問に感じながらも大樹は寺の中を進んでいった。
「この襖を開ければ到着で~す!」
 信長のいるらしい部屋の前に到着した。
「まず、中の様子を確かめるか」
 大樹がそっと襖を少し開け中の様子を覗いた。
「!?」
 まず、目に入ってきたのは、赤。
それは部屋中にぶちまけられた大量の血の色だった。床に目を移せば、先ほどまで人間であったであろう物体がいくつも転がっていた。
部屋の中央には、玉座の如き椅子に座った人影が一つ。
「も、もしかすて、あいつが信長?」
 大樹が玉座の人物を指差して陽菜に訊く。
筋肉隆々の体に、黒一色の甲冑を身に纏っている。暗闇の中にあって両方の瞳が赤く不気味に輝いている。どす黒いオーラさえ感じる。真っ当な人間には見えない。
「多分」
「あきらかに人とちゃうやろ。あれ」
「魔王じゃん。見るからに。わたし、魔王ですからって全身で語っちゃてるからね。あれ!」
「でもお、人は見た目じゃないって、田舎のお母さんも言ってましたよ?」
「限度があるやろ。あれがまともな人間だっていうよりまだ、マツコデラックスがバク転できますっていわれたほうがまだ信憑性あるわ」
「え、まつこってだれですか」
「あ~まあええわ。でも、あれどおすんねん」
「真白でも勝てなそうなのか」
 微かな希望を込めて大樹が真白に視線を向ける。
「たぶん無理やわ。RPGでいったら、ラスボスやん。完璧。こんなパーティで勝てるかい。仲間が、えせ剣道少年と忍者もどきやん」
「え、えせ」
「も、もどきってひどすぎです。じゃあ、真白さんはなんなんですか?」
 陽菜が頬を膨らませ言う。
「ん、うちかうちはな」
 一呼吸置いて、言葉を繋げた。
『麗しの妖狐、真白!』
「「……」」
『麗しの妖狐、真白!』
「「……」」
『麗しの妖狐、真白!』
「「…………」」
「突っ込めや! ぼけに突っ込みを入れるんは、人としての基本やぞ。それを無視するなんて、それでも芸人か!」
「だれが芸人じゃ!」
「でも、これからどうするんですか。わたしたち。あんなの誘拐しようとしたら食べられちゃいますよ」
 陽菜がおろおろしだす。
「ん~お前はどうかしらないけど、俺はいやだな」
「うちも」
「わたしだっていやに決まってるじゃないですか!」
 陽菜が怒って顔を赤くする。
「まあ、冗談はおいといてどうするよ」
「あのままで、いいんちゃう? あの様子やったら光秀が来ても殺されないやろ?」
「まあ、そうだろうけど……」
―でも、この信長が天下を治めたらどうなるだ?
 大樹がこのまま現代に帰ったことを想像した。

もやもや~
 空は暗雲に包まれ大地に光は差さない。プラダを着た悪魔が鞄を持って会社に出勤する。
ゾンビの女子高生が、生肉をくわえ登校し、転校生のミイラと激突する。
花壇には食人植物が植えられている。
そんな世の中。
もやもや~終了

「やっぱり放っておいたらまずいだろ。帰ったら日本が魔界になってたらしゃれにならないからな」
「でも、どうやって……」
 あーだこーだ言っているうちに、廊下から、複数の走る足音が近づいてきた。
 気付かれたかと大樹達に緊張が走る。
が、甲冑に身を包んだ5、6人の集団は、大樹たちの前を通り過ぎ信長を取り囲んだ。
「観念しろ! 信長! 我等が天誅を下す!」
 言動からみて信長の敵らしい。
 敵を目の当たりにしても信長は微動だにしない。
「ひい、ふう、みい…全部で六人、三十六文か」
 信長が呟く。
「なんだと?」
「一人六文。三途の川の渡し賃だ!ぬん!」
 椅子に腰掛けたまま、刀を抜き、一閃させた。
その動作だけで、男たちの上半身と下半身はさよならしていた。
「敢え無し」
 チャキっと刀を鞘に納める。
「「「……」」」
 それを見ていた三人は、言葉を失った。少しして大樹が口を開く。
「あ~~なんだ。オレは、戦略的撤退を提案したいんだが」
「「異議なし」」
 全員一致ですごすごと三人は本能寺から撤退した。
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婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

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