精霊師

雪飴

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第二章 全ての始まり

Chapter2-6

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 兄に誘導されるがまま着いた先は森の端にある滝で、流れる水はそのまま海へと繋がっている。高さが約815メートルもある滝は落ちたら命は無いだろう。周りも崖しかないので此処からはとても逃げられそうにない。いつもなら、陽に当たる水飛沫がキラキラと光って綺麗な滝が見れるのだが、暗い夜の中だからなのか滝の下の方に行くに連れ、真っ暗な闇に飲み込まれそうな恐ろしさをレティシアは感じた。

「ティア、僕の前に来てくれ」
 態々わざわざ滝の直ぐ近くの崖に呼び寄せた事に、不思議そうな顔をする妹を無視して、精霊エリアスぶ。そして自分と妹を囲む様にして周りが光り出し、レオネルトは言葉を紡ぎ始めた。
 
「我れ、此処に己の精霊の契約解除を求める。」
「(これは!!)兄様!!! だめ!!」
「レオネルト・テオ・リザレスの名において、レティシア・テオ・リザレスへ精霊の譲渡を執行う、水の精霊王アクアディネの祝福を……」
 
 レオネルトが唱えたのは精霊譲渡の契約呪文だ、禁術であるこの呪文を阻止する為に、レティシアは必死で兄を止めるが、兄は言葉を口にするのを止めない。
 
「なんで!! なんでこんな事したの!!」
 全てが終わった時には既に兄の精霊は、自分レティシアの契約精霊となっていた。

「僕には、まだ剣術と魔術がある」
「そういう問題じゃない!!」
 レティシアは、戸惑いと怒りで気持ちが追いつかず兄に掴みかかるが、こんな感情を兄に持ったのは生まれて始めてだった。

「兄様は……兄様の精霊エリアスとは2度と契約出来ないんだよ!?」
 自分レティシアよりも兄の方が背が高い為、首周りを掴めず、お腹の辺りに縋る様になっている妹をレオネルトは強く抱きしめ、その近くにいる竜の落とし子の形をした精霊エリアスを寂しそうに見た。

「……分かってる……全部分かってるよティア」
「₰¢∡∵∞!!!!」
(あぁごめん。怒るなよ)
 もう自分の精霊ではなくなった為に、何を言っているのか分からないが、確実に怒っているのは長年の付き合いから手に取るように理解できる。
(お前エリアスに頼るしかないんだ)

 そして、レオネルトは優しく妹に囁いた。
      「ティア、愛してるよ」

 レティシアが兄に言われた言葉に顔をあげようとした時にはドンッ!!と強い衝撃が伝わり、気づいた時には身体が後ろに傾いていた。
 (……え?)
 たった今抱きしめられていた筈の腕は、自分レティシアを突き飛ばした為に腕が前に伸びている。
 予想もしていなかった突然の出来事に、思考が追いつかないまま視界がどんどん兄から離れて行く。

「お兄さまぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
 レティシアは無意識に手を必死で兄へと伸ばすが、その伸ばした腕をレオネルトは掴まない。
 重力に従って身体は滝へと落ちて行く。最後、レティシアの視界に映った兄は微笑んでいた。

「僕の代わりに護ってくれっ」
 妹が見えなくなる瞬間、託した言葉が聞こえたかは分からない。それでも、精霊エリアスなら聞こえている筈だと確信している。

「っ生き延びるんだ…ティアっ!」
自分レオネルトしかいないその場所で、呟いた言葉を拾う者は誰もいないが、それでも願わずにはいられなかった、レティシアの無事を祈ってレオネルトは踵を返す。この後どうなるかは自分レオネルト自身も知り得ない、背の後ろでは滝のゴウゴウとした音がやけに鮮明にレオネルトの耳に残り続けた……。

          
 
 ーーこの日をもって、リザレス王国は滅亡する事となる。1000年以上続いた歴史はある夜、突然終わりを告げたのだ。何故人々が殺されたのか、何が目的なのか……
知っているのはヴィエトルリア帝国の1部の者達だけ。
 春が始まったばかりの美しく芽吹いた花や緑は焼け、家々は崩れ落ち、大地は多くの血で染まった。

これが少女レティシアに起きた全ての始まり。
 

            *
 
――1人の青年が日が昇り始めた時間に目を覚まし、顔を洗う。黒いズボンに履き替え、適当に選んだ白いシャツ
 を着てから、部屋の扉の横に立て掛けてあった剣を掴んで外に出た。
 外は少し薄暗く、肌寒い。何か上に羽織ってこればよかったかと思ったが、どうせ身体を動かせばすぐに暑くなると思い直して海岸へと向かった。
 朝の澄んだ空気は肌寒さも合わさって濁りがない爽やかさを感じ、嗅ぎ慣れた海の潮の匂いが心を落ち着かせる。
 朝の日課になっている素振りをする為に、いつもの場所に辿り着いた時、いつもと同じでは無い何かが目に入った。
 海岸にはごく稀に何かが流れ着く、それらは大抵流木やら瓶やらそんな漂流物ばかりだ。
 (……片付けるか)
 身体を動かす前にと、打ち上げられた物を片付ける為に近づいていく。
 (? 何だあれは……)
近付けば、近付くほどが流木なんかでは無いということが分かり、人だと気付いた瞬間走り出した。

「おい!!! おい!!! どうした!?    大丈夫か!!!」
 うつ伏せになって倒れている人物は全身びしょ濡れで、服はドレスを着ているがよく見れば血で汚れている、身体に触れればその冷たさに酷く驚いた。
(息は……している!)
 死んでいるのかと思われたが、息をしている事を確認して安堵し、直ぐに少女を横抱きにして来たばかりの道を急いで戻るのだった。





 

 
       
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