12 / 16
第二章 全ての始まり
Chapter2-6
しおりを挟む
兄に誘導されるがまま着いた先は森の端にある滝で、流れる水はそのまま海へと繋がっている。高さが約815メートルもある滝は落ちたら命は無いだろう。周りも崖しかないので此処からはとても逃げられそうにない。いつもなら、陽に当たる水飛沫がキラキラと光って綺麗な滝が見れるのだが、暗い夜の中だからなのか滝の下の方に行くに連れ、真っ暗な闇に飲み込まれそうな恐ろしさをレティシアは感じた。
「ティア、僕の前に来てくれ」
態々滝の直ぐ近くの崖に呼び寄せた事に、不思議そうな顔をする妹を無視して、精霊を喚ぶ。そして自分と妹を囲む様にして周りが光り出し、レオネルトは言葉を紡ぎ始めた。
「我れ、此処に己の精霊の契約解除を求める。」
「(これは!!)兄様!!! だめ!!」
「レオネルト・テオ・リザレスの名において、レティシア・テオ・リザレスへ精霊の譲渡を執行う、水の精霊王アクアディネの祝福を……」
レオネルトが唱えたのは精霊譲渡の契約呪文だ、禁術であるこの呪文を阻止する為に、レティシアは必死で兄を止めるが、兄は言葉を口にするのを止めない。
「なんで!! なんでこんな事したの!!」
全てが終わった時には既に兄の精霊は、自分の契約精霊となっていた。
「僕には、まだ剣術と魔術がある」
「そういう問題じゃない!!」
レティシアは、戸惑いと怒りで気持ちが追いつかず兄に掴みかかるが、こんな感情を兄に持ったのは生まれて始めてだった。
「兄様は……兄様の精霊とは2度と契約出来ないんだよ!?」
自分よりも兄の方が背が高い為、首周りを掴めず、お腹の辺りに縋る様になっている妹をレオネルトは強く抱きしめ、その近くにいる竜の落とし子の形をした精霊を寂しそうに見た。
「……分かってる……全部分かってるよティア」
「₰¢∡∵∞!!!!」
(あぁごめん。怒るなよ)
もう自分の精霊ではなくなった為に、何を言っているのか分からないが、確実に怒っているのは長年の付き合いから手に取るように理解できる。
(お前に頼るしかないんだ)
そして、レオネルトは優しく妹に囁いた。
「ティア、愛してるよ」
レティシアが兄に言われた言葉に顔をあげようとした時にはドンッ!!と強い衝撃が伝わり、気づいた時には身体が後ろに傾いていた。
(……え?)
たった今抱きしめられていた筈の腕は、自分を突き飛ばした為に腕が前に伸びている。
予想もしていなかった突然の出来事に、思考が追いつかないまま視界がどんどん兄から離れて行く。
「お兄さまぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
レティシアは無意識に手を必死で兄へと伸ばすが、その伸ばした腕をレオネルトは掴まない。
重力に従って身体は滝へと落ちて行く。最後、レティシアの視界に映った兄は微笑んでいた。
「僕の代わりに護ってくれっ」
妹が見えなくなる瞬間、託した言葉が聞こえたかは分からない。それでも、精霊なら聞こえている筈だと確信している。
「っ生き延びるんだ…ティアっ!」
自分しかいないその場所で、呟いた言葉を拾う者は誰もいないが、それでも願わずにはいられなかった、妹の無事を祈ってレオネルトは踵を返す。この後どうなるかは自分自身も知り得ない、背の後ろでは滝のゴウゴウとした音がやけに鮮明にレオネルトの耳に残り続けた……。
ーーこの日をもって、リザレス王国は滅亡する事となる。1000年以上続いた歴史はある夜、突然終わりを告げたのだ。何故人々が殺されたのか、何が目的なのか……
知っているのはヴィエトルリア帝国の1部の者達だけ。
春が始まったばかりの美しく芽吹いた花や緑は焼け、家々は崩れ落ち、大地は多くの血で染まった。
これが少女に起きた全ての始まり。
*
――1人の青年が日が昇り始めた時間に目を覚まし、顔を洗う。黒いズボンに履き替え、適当に選んだ白いシャツ
を着てから、部屋の扉の横に立て掛けてあった剣を掴んで外に出た。
外は少し薄暗く、肌寒い。何か上に羽織ってこればよかったかと思ったが、どうせ身体を動かせばすぐに暑くなると思い直して海岸へと向かった。
朝の澄んだ空気は肌寒さも合わさって濁りがない爽やかさを感じ、嗅ぎ慣れた海の潮の匂いが心を落ち着かせる。
朝の日課になっている素振りをする為に、いつもの場所に辿り着いた時、いつもと同じでは無い何かが目に入った。
海岸にはごく稀に何かが流れ着く、それらは大抵流木やら瓶やらそんな漂流物ばかりだ。
(……片付けるか)
身体を動かす前にと、打ち上げられた物を片付ける為に近づいていく。
(? 何だあれは……)
近付けば、近付くほどそれが流木なんかでは無いということが分かり、人だと気付いた瞬間走り出した。
「おい!!! おい!!! どうした!? 大丈夫か!!!」
うつ伏せになって倒れている人物は全身びしょ濡れで、服はドレスを着ているがよく見れば血で汚れている、身体に触れればその冷たさに酷く驚いた。
(息は……している!)
死んでいるのかと思われたが、息をしている事を確認して安堵し、直ぐに少女を横抱きにして来たばかりの道を急いで戻るのだった。
「ティア、僕の前に来てくれ」
態々滝の直ぐ近くの崖に呼び寄せた事に、不思議そうな顔をする妹を無視して、精霊を喚ぶ。そして自分と妹を囲む様にして周りが光り出し、レオネルトは言葉を紡ぎ始めた。
「我れ、此処に己の精霊の契約解除を求める。」
「(これは!!)兄様!!! だめ!!」
「レオネルト・テオ・リザレスの名において、レティシア・テオ・リザレスへ精霊の譲渡を執行う、水の精霊王アクアディネの祝福を……」
レオネルトが唱えたのは精霊譲渡の契約呪文だ、禁術であるこの呪文を阻止する為に、レティシアは必死で兄を止めるが、兄は言葉を口にするのを止めない。
「なんで!! なんでこんな事したの!!」
全てが終わった時には既に兄の精霊は、自分の契約精霊となっていた。
「僕には、まだ剣術と魔術がある」
「そういう問題じゃない!!」
レティシアは、戸惑いと怒りで気持ちが追いつかず兄に掴みかかるが、こんな感情を兄に持ったのは生まれて始めてだった。
「兄様は……兄様の精霊とは2度と契約出来ないんだよ!?」
自分よりも兄の方が背が高い為、首周りを掴めず、お腹の辺りに縋る様になっている妹をレオネルトは強く抱きしめ、その近くにいる竜の落とし子の形をした精霊を寂しそうに見た。
「……分かってる……全部分かってるよティア」
「₰¢∡∵∞!!!!」
(あぁごめん。怒るなよ)
もう自分の精霊ではなくなった為に、何を言っているのか分からないが、確実に怒っているのは長年の付き合いから手に取るように理解できる。
(お前に頼るしかないんだ)
そして、レオネルトは優しく妹に囁いた。
「ティア、愛してるよ」
レティシアが兄に言われた言葉に顔をあげようとした時にはドンッ!!と強い衝撃が伝わり、気づいた時には身体が後ろに傾いていた。
(……え?)
たった今抱きしめられていた筈の腕は、自分を突き飛ばした為に腕が前に伸びている。
予想もしていなかった突然の出来事に、思考が追いつかないまま視界がどんどん兄から離れて行く。
「お兄さまぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
レティシアは無意識に手を必死で兄へと伸ばすが、その伸ばした腕をレオネルトは掴まない。
重力に従って身体は滝へと落ちて行く。最後、レティシアの視界に映った兄は微笑んでいた。
「僕の代わりに護ってくれっ」
妹が見えなくなる瞬間、託した言葉が聞こえたかは分からない。それでも、精霊なら聞こえている筈だと確信している。
「っ生き延びるんだ…ティアっ!」
自分しかいないその場所で、呟いた言葉を拾う者は誰もいないが、それでも願わずにはいられなかった、妹の無事を祈ってレオネルトは踵を返す。この後どうなるかは自分自身も知り得ない、背の後ろでは滝のゴウゴウとした音がやけに鮮明にレオネルトの耳に残り続けた……。
ーーこの日をもって、リザレス王国は滅亡する事となる。1000年以上続いた歴史はある夜、突然終わりを告げたのだ。何故人々が殺されたのか、何が目的なのか……
知っているのはヴィエトルリア帝国の1部の者達だけ。
春が始まったばかりの美しく芽吹いた花や緑は焼け、家々は崩れ落ち、大地は多くの血で染まった。
これが少女に起きた全ての始まり。
*
――1人の青年が日が昇り始めた時間に目を覚まし、顔を洗う。黒いズボンに履き替え、適当に選んだ白いシャツ
を着てから、部屋の扉の横に立て掛けてあった剣を掴んで外に出た。
外は少し薄暗く、肌寒い。何か上に羽織ってこればよかったかと思ったが、どうせ身体を動かせばすぐに暑くなると思い直して海岸へと向かった。
朝の澄んだ空気は肌寒さも合わさって濁りがない爽やかさを感じ、嗅ぎ慣れた海の潮の匂いが心を落ち着かせる。
朝の日課になっている素振りをする為に、いつもの場所に辿り着いた時、いつもと同じでは無い何かが目に入った。
海岸にはごく稀に何かが流れ着く、それらは大抵流木やら瓶やらそんな漂流物ばかりだ。
(……片付けるか)
身体を動かす前にと、打ち上げられた物を片付ける為に近づいていく。
(? 何だあれは……)
近付けば、近付くほどそれが流木なんかでは無いということが分かり、人だと気付いた瞬間走り出した。
「おい!!! おい!!! どうした!? 大丈夫か!!!」
うつ伏せになって倒れている人物は全身びしょ濡れで、服はドレスを着ているがよく見れば血で汚れている、身体に触れればその冷たさに酷く驚いた。
(息は……している!)
死んでいるのかと思われたが、息をしている事を確認して安堵し、直ぐに少女を横抱きにして来たばかりの道を急いで戻るのだった。
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
ねえ、今どんな気持ち?
かぜかおる
ファンタジー
アンナという1人の少女によって、私は第三王子の婚約者という地位も聖女の称号も奪われた
彼女はこの世界がゲームの世界と知っていて、裏ルートの攻略のために第三王子とその側近達を落としたみたい。
でも、あなたは真実を知らないみたいね
ふんわり設定、口調迷子は許してください・・・
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
「君は有能すぎて可愛げがない」と婚約破棄されたので、一晩で全ての魔法結界を撤去して隣国へ行きます。あ、維持マニュアルは燃やしました。
しょくぱん
恋愛
「君の完璧主義には反吐が出る」――婚約者の第一王子にそう告げられ、国外追放を命じられた聖女エルゼ。彼女は微笑み、一晩で国中の魔法結界を撤去。さらに「素人でも直せる」と嘘を吐かれた維持マニュアルを全て焼却処分した。守護を失いパニックに陥る母国を背に、彼女は隣国の軍事帝国へ。そこでは、彼女の「可愛くない」技術を渇望する皇帝が待っていた。
ハズレスキル『自動販売機』を授かって婚約破棄されましたが、 実は回復薬も魔力食も出せる最強スキルでした
暖夢 由
ファンタジー
十八歳の成人儀式で授かったのは、誰も聞いたことのない《自動販売機スキル》。
役立たずと嘲られ、婚約者レオンには即座に婚約を破棄され、人生が崩れ落ちたように思えた。
だがそのスキルには、食べ物を作り、摂取すれば魔力を増やし、さらに“治癒効果”を付与できるという隠された力があった。
倒れた母を救い、王都の名門・ヴァルセイン伯爵夫人を救ったことで、カミーラは“呪詛”という闇の存在を知る。伯爵邸で出会った炎の力を持つ公爵家次男レグナスとの出会いが、彼女の運命を大きく変えていく。
やがて王都全体に“謎の病”が蔓延。カミーラは治癒スープの炊き出しを行い、人々を次々と回復へ導く。
一方、病の裏で糸を引いていたのは………。
“無価値”と嘲られたスキルが、いま世界を癒し、未来を照らす光となる――。
アリエッタ幼女、スラムからの華麗なる転身
にゃんすき
ファンタジー
冒頭からいきなり主人公のアリエッタが大きな男に攫われて、前世の記憶を思い出し、逃げる所から物語が始まります。
姉妹で力を合わせて幸せを掴み取るストーリーになる、予定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる