精霊師

雪飴

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少女の名は

Chapter3-1

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 身体が衝撃と共に倒れた時に、伸ばした手は受け取って貰えなかった。地に着いていた筈の足は地面を離れ下に下にと落ちて行く、暗闇の中に落ちていく恐怖よりも、なぜ? どうして? という考えだけがぐるぐると頭の中を巡っていき、水に叩きつけられた様な音がしたのと冷たい温度に包まれたと思った時には、周りが真っ暗になり何も聞こえなくなった――。

 
「……のか?」
「時期に……だろう」
誰かの声が聞こえてきて、薄らと目を開けた時。レティシアの視界に映ったのは低い天井だった、起きあがろうとしたけれど身体が酷く重い。
 (ここは、何処だろう)
 ぼーっとする頭で、寝ながら首を動かして周りを見れば、机や椅子など家具が置いてある。誰かの部屋だろうか、自分の部屋でも姉や兄の部屋でも無いなと思えば、意識がはっきりして飛び起きた。
 (ここは何処!?)
 心臓がどくどくと嫌に脳に響く、フラフラとしながら部屋の扉に向かい夢中で扉を開けた為に、バンっ! と大きい音が響き、その先に居た2人の人物が扉の音に驚き振り返って此方を見た。

「目を覚ましたのかい?」
 部屋の先に居た2人の内の1人の人物が、レティシアに駆け寄り話しかけるが、酷く混乱しているレティシアは近づいてきた人物に警戒し、目に入ったこの部屋の奥にある扉へと無我夢中で走る。

「おいっ!」
 走る少女を慌てて止めようと、もう1人の人物が声を出したがそれを無視して扉に到達したレティシアは両手で力いっぱい扉を開けた。
 扉を開ければ予想していた暗さは無く、眩しい陽の光が顔を照てらし出した事により思わず目を瞑って立ち止まった。
 (夜じゃない)
 そして前に進もうとした足は、自分の意思に反して一歩を踏み出せずに上半身だけが前に傾いた。

 がしっ!!
「っぶねーー! 熱があるのに走るからだ!!」
 そのまま、地面にぶつかるかと思えたレティシアの身体を、後ろから抱きつき支えた事によって防いだ男の怒った声を聞きながら、レティシアは意識を手放した。

           *

 ずしっと支えた少女の身体が重くなった事で、意識が無くなったと気づき、溜め息を吐いて身体を抱え直す。

「気を失ったのか?」
 白髪の歳老いた男が、少女を見ながら心配そうに青年に話しかけた。
 
「あぁ、見ての通りだ」
 抱え直した少女を先程まで寝かせていたベッドへと戻す為に部屋へと向かう。ぐったりとした様子を見て身体に衝撃を与えない様、ゆっくりと布団の上に下ろし、少女のいる部屋を後にした……。
 

「爺さん!!!!」
 今朝方、家全体に響き渡る大声が聞こえてきたのは、暖かい布団に包まれて夢の中にいる時だった。意識がぼんやりしている中で、再度呼ばれれば起きるしかなく、ベッドからのそりと立ち上がる。壁に掛けてある時計を見ればいつも起きる時間より2時間も早かった。
 (眼鏡、眼鏡)
 机の上に置いてある老眼鏡をかければ、視界がはっきりとする。何十年と前から近くの物を見るのが難しくなった自分には老眼鏡は必需品だ。

「爺さん!! 起きろ!! 緊急事態だ!!」
再び急かす様な焦った声が聞こえ、ドルダは声の聞こえる方へと歩く。

「なんじゃ、どうした?」
声の主を探せば、玄関近くで立っている人物と視線が合い、靴を脱ぎ捨てズンズンとこっちに向かってくる青年の腕の中には、1人の少女が抱えられていた。

「爺さん! こいつを診てくれ!!!」
意識がなく、だらんと力が抜けている様子を見れば只事ではない。少女の全身は濡れていて、着ているドレスからは滴がポタポタといくつも垂れている。唇も真っ青の状態で身体に触れれば冷た過ぎた。

「先ずは、着替えさせて温めたほうがよい! 体温が低すぎる!」
このまま身体を冷やすのはまずいと、少女を着替えさせる為に客室へと運ばせる。
(女物の洋服なぞ無いから適当に何かを着せるか)

「お前は、なるべく丈の長い上の服とタオルを何枚か持ってこい」
 青年に指示を出して取りに行かせている間に少女の着ている服を脱がせようとする。何とも脱がしにくい服だと悪戦苦闘するドルダは、少女の着用するドレスの裾が血で染まっている事に気づいてドキリとするがどうやらこの少女の血では無いようだった。
 着替えとタオルを受け取り、少女の濡れた身体と髪を丁寧に拭いてから白いシャツを着せる。

「風よ、彼の者を浮かせ」
老人の体力では少女を支える事が出来ないと、魔力を使って風を起こしベッドへと運び布団を身体の上にかけてから、リビングへと足を向けた。

「それで? どこで拾ってきた?」
 一通り落ち着いてから、ドルダは椅子に座って目の前にいる青年の顔を見る。話を聞けば、海岸で打ち上げられていたのを見つけたとの事で、発見した時から既に意識は無かったらしく、あの少女についての情報は何も分からなかった。

「大丈夫そうか?」
「怪我は全くしておらんよ、問題ない。」
少女の寝ている部屋に目を向けてから、ドルダに容体を確認するが、心配する程の外傷は無いようだった。

「何があったんだろうなぁ」
無意識に髭を触りながら、ドルダは口を開く。
 1人の少女が、怪我は無いにしても血の付いた服を着ていたのだ、しかもあのドレスは濡れていたにも関わらずかなり手触りが良かった、服に詳しくなくても分かるあれは高級品であると。
 (どこかの良家の娘だろうか)
 
「起きてから、事情を聞くとしようかの」
 臆測しても仕方が無いと、少女が目覚めることを2人して待つのだった。
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