精霊師

雪飴

文字の大きさ
15 / 16
少女の名は

Chapter3-3

しおりを挟む
       ~風化された真実2
 その少女は、いつも何かに祈っていた。
 その少女は、いつも誰かを助けていた。
 その少女は、いつも常に笑顔を絶やさなかった。
 普段視界に入る人間は、常に諦めた様な陰鬱な表情と目に精気のない絶望した顔をするばかりだったので、その少女の異様さがやけに目を引いた。
 毎日毎日飽きもせずに祈り続ける姿に、普段なら絶対話すことなどしないのに、思わず声を掛けてしまったのはただの好奇心。
 〖毎日毎日飽きないのか〗と聞けば、もうこれが日課になっているのだと答える。〖誰に祈っているのだ〗と聞けば、聞き届けてくれる誰かにと答える。
〖そんな者はいない〗と言えば、
貴方には届いたとその少女は柔らかく笑ったのだ。

           *

 扉を開けた先に見えるのは、四角いテーブルが1つと椅子にはドルダともう1人青年が座っていた。

「おぉ、よく似合っているが。少し大きかったかな?」
 出てきたレティシアを見るなり、褒めてくれるのはドルダだ。近くに住む知り合いの人から使わなくなった孫の服を貰ったのだと説明された。何から何までお世話になりっぱなしだ。
 そして、ドルダの隣に座っているもう1人の人物。
黒色の髪、紫の目をした目鼻立ちがハッキリしている顔立ちの男と目線が合った。
 真っ直ぐに見つめてくる視線は紫色の瞳に吸い込まれそうで、レティシアは思わず目線を逸らした。
何故だろうか、優しげな雰囲気のドルダと違って横にいた青年からは冷たい様な空気を感じたのだ。

「紹介しよう、こやつは」
「ノアだ」
 ドルダの声に被さる様にして話した男は自身の名前を告げた。
 
「お前が何者で、何が起こったのか話してもらおうか」
 腕を組みながら淡々と話す男に、ノアの横にいるドルダは、もうちょっと優しく喋ってやらないかと注意するが、威圧感が消える気配は無い。
 レティシアは、お腹にグッと力を入れた。

「まずは、お礼を言わせて下さい。助けて下さってありがとうございます」
 そして、ノアから逸らしてしまった目線を今度はしっかりと見つめ直した。
 
「私の名前は、レティシア。レティシア・テオ・リザレスです」
 驚いた表情をしたのは、ノアだけでは無かった。ガタッと椅子から立ち上がり驚愕の声を出したのはドルダだ。

「リザレス、リザレス王国の! 精霊師の国か!!」
「はい。」
「精霊師の国に住むお嬢さんが、なんで海岸で倒れていたんじゃ」
「その前に、ここが何処で私は何日位眠っていたんでしょうか……」

 自己紹介しておいて何だが、レティシアはここが何処なのか知る必要があった。この反応からリザレス王国を襲った帝国の者達では無いと信じたい。

「ここは、ノルディア大陸のシュヴェリア国。地図でいうと1番東にある小さな村だ」
 答えてくれたのは、ノアだった。
 
「そして、お前を海岸で見つけてから3日経っている」
(シュヴェリア国……水の国。それにしても3日も経っていたのね)
 リザレスから近い国は、直ぐ下に位置するエストルド大陸のヴィエトルリア帝国と、左に位置するノルディア大陸のシュヴェリア国だ。流れ着いたのだとしたらそのどちらかだとは思っていたので取り敢えずホッとする。
 そしてレティシアは、状況を説明する為に話し出した。
 
「リザレス王国は、ヴィエトルリア帝国に襲われました」
帝国に襲われた事。国の人達がどうなったのか分からない事。自分レティシアは滝から落ちて流れ着いた事。分かる範囲で全て2人に説明していった。

「それにしても、信じられん。リザレスに手を出すとは……」
「…………」
 レティシアから話を聞いてドルダは信じられないと呟き、ノアは難しい顔をしながら黙っていた。

「リザレス王国に侵入できたのは何故だ、あそこは精霊師しか入れないだろう」
「!……さぁ、分かりません」
 ノアが口に出した疑問にレティシアは何も分からず答える事ができなかったが、その言葉に少し驚いた。精霊師しか入れない事を何故この男は知っているのだろうかと。

「お前も精霊師なんだろう。契約精霊はいるのか」
「私には、精霊なんて……」
 
 ノアに言われた事に否定の言葉を伝えようとして、レティシアは出かかった言葉を止めた。

「……エリアス」
 ボソッと精霊の名を呟けば、水飛沫を上げて目の前に出てきたのは竜の落とし子だった。

「水の精霊か」
ノアがエリアスを見る。

「こ、この子はっ」
 私の精霊では無いと言おうとして、レティシアの顔をジッと見つめるエリアス水の精霊の目を見れば何も言えなかった。

「お前の契約している精霊が水の精霊で助かったな、滝から落ちて海を漂っている間護ってくれたんだろう」
「……そうですね」
「◁▼ЭФЫ」
 レティシアは、顔を下に向けながら手をグッと握りしめ爪で掌を強く食い込ませた。
 顔を上げる事はできない、今の自分の顔はとても酷い顔をしているだろうから。爪の痛みで感情を押し殺そうとするが、"チチチ"と話しかけてくる鳴き声が更に追い打ちをかけるのだ。
 (あぁ、やっぱり。何を言っているのか分からないわ。兄様)
 
 
 

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

ねえ、今どんな気持ち?

かぜかおる
ファンタジー
アンナという1人の少女によって、私は第三王子の婚約者という地位も聖女の称号も奪われた 彼女はこの世界がゲームの世界と知っていて、裏ルートの攻略のために第三王子とその側近達を落としたみたい。 でも、あなたは真実を知らないみたいね ふんわり設定、口調迷子は許してください・・・

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結短編】ある公爵令嬢の結婚前日

のま
ファンタジー
クラリスはもうすぐ結婚式を控えた公爵令嬢。 ある日から人生が変わっていったことを思い出しながら自宅での最後のお茶会を楽しむ。

「君は有能すぎて可愛げがない」と婚約破棄されたので、一晩で全ての魔法結界を撤去して隣国へ行きます。あ、維持マニュアルは燃やしました。

しょくぱん
恋愛
「君の完璧主義には反吐が出る」――婚約者の第一王子にそう告げられ、国外追放を命じられた聖女エルゼ。彼女は微笑み、一晩で国中の魔法結界を撤去。さらに「素人でも直せる」と嘘を吐かれた維持マニュアルを全て焼却処分した。守護を失いパニックに陥る母国を背に、彼女は隣国の軍事帝国へ。そこでは、彼女の「可愛くない」技術を渇望する皇帝が待っていた。

ハズレスキル『自動販売機』を授かって婚約破棄されましたが、 実は回復薬も魔力食も出せる最強スキルでした

暖夢 由
ファンタジー
十八歳の成人儀式で授かったのは、誰も聞いたことのない《自動販売機スキル》。 役立たずと嘲られ、婚約者レオンには即座に婚約を破棄され、人生が崩れ落ちたように思えた。 だがそのスキルには、食べ物を作り、摂取すれば魔力を増やし、さらに“治癒効果”を付与できるという隠された力があった。 倒れた母を救い、王都の名門・ヴァルセイン伯爵夫人を救ったことで、カミーラは“呪詛”という闇の存在を知る。伯爵邸で出会った炎の力を持つ公爵家次男レグナスとの出会いが、彼女の運命を大きく変えていく。 やがて王都全体に“謎の病”が蔓延。カミーラは治癒スープの炊き出しを行い、人々を次々と回復へ導く。 一方、病の裏で糸を引いていたのは………。 “無価値”と嘲られたスキルが、いま世界を癒し、未来を照らす光となる――。

アリエッタ幼女、スラムからの華麗なる転身

にゃんすき
ファンタジー
冒頭からいきなり主人公のアリエッタが大きな男に攫われて、前世の記憶を思い出し、逃げる所から物語が始まります。  姉妹で力を合わせて幸せを掴み取るストーリーになる、予定です。

処理中です...