精霊師

雪飴

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少女の名は

Chapter3-4

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 正体も何も分からないのに、優しくする接するつもりなどノアには無かった。それが自分より年下であろう少女だったとしてもだ。
 確かに海岸で倒れているのを見つけたのは自分だが、だからといって優しい態度を取ることはしなかった、警戒する気持ちもあったからだ。
 
 最初にお互いの顔を見た時、向こうが目線を逸らしたのは威圧感に耐えられなかったからだろう。
弱々しい少女、銀髪の蒼い目。見た目からして誰かに護られ愛される様なそんな印象。それがノアが思った、第一印象だった。
 しかし、驚いたのはそのすぐ後。怯えた様子を見せるかと思った少女は、ハッキリとした声で自分達にお礼を伝え、先程逸らした目を次はしっかりと見つめてきて名を告げたのだ。
 リザレスという名前にびっくりしたのは俺だけじゃなく爺さんもだが。それ以上に俺が驚いたのは弱々しさが消えた少女の態度にだった。
 
            *
 
 全てを話し終えたレティシアは、少し疲れたと休息をもらった。ドルダはゆっくり休むといいと言ってくれたが、ノアが何も言わなかった事に少し安堵する。
 家の中にいるよりも、外の空気に触れたかったレティシアは海の見える海岸に赴いた。
独特な潮の香り、青い海の色。自分の知らない土地にいる中で自分の知っているモノがあるという事が、こんなにも安心する。

「エリアス」
 喚べば出てくるのは、自分の精霊になった証拠。あんなにも精霊師になりたいと契約精霊が欲しいと願っていたが、レティシアが望んでいたのはこんな事ではなかった。こんな契約では無かったのだ……。

「ごめんっ。ごめんねっ」
 謝ったのは、エリアスに対してだった。兄に残酷な事をさせたのは私のせいだ、兄とエリアスを引き離したのは私のせいだ。本当だったらこの精霊は兄の傍で一生を共にする筈だったのだ。レティシアはエリアスを見るのが辛かった。

「₰¨◎▷⚀」
 何を言っているのか分からないのは、きっと自分レティシアが本来の契約者では無いからで、
 それでも、自分の契約精霊となったからにはこの水の精霊エリアスと共に歩んでいかなければならない。この精霊を見る度に自分は一生罪悪感に押し潰されそうになるだろう。

「それと、私を助けてくれてありがとう」
レティシアはそう言うと、自分の傍で浮いている契約精霊にそっと触れるのだった――

 どのくらい海を見つめていただろうか。エリアスを戻してから1人でいたレティシアは、海の青い色が太陽に反射してオレンジ色の様な、黄色と赤色とが混じった海を見る。
 この美しい風景を目に収めるだけでは、勿体無いと多くの画家はきっと筆を取るに違いない。

「…………」
 けれどもレティシアの目は、目の前に広がる日没の景色を見ている訳では無かった。その先の海の向こうにある、見えない自国だ。
 
 (流石にそろそろ戻らないと)
 レティシアは海に背を向けドルダ達が居る家へと身体の向きを変える。
 冷静に……なれたとは思う。それはきっとドルダ達に事情を話したからかもしれない。自分1人では現実を受け止められないし、今も受け止める事などできないが誰かに話すという行為が少し、ほんの少しレティシアに心の余裕を与えた。

 "知りたい"
それが自分のやりたい事だった。
 多分普通の女の子だったら、このまま何処か逃げる事のできた土地で平和に暮らしていけば、何事も無く生きていけると思う。きっと、自分を逃がしてくれた兄だって、逃げた先で自分レティシアが幸せに暮らしていく事を願っていると思う。

 だけどあれから何度も考えた結果だが、自分のしたい事は変わらなかった。

だって、理不尽だ。リザレス王国が何をしたというのだろう。どうして皆んなは殺されたのだろう。あの出来事を忘れて生きていく?
 絶対に嫌だ。だって忘れたくない。忘れてのうのうと生きていくなんて自分が許せない。
 (兄様ごめんなさい)
レティシアは今日何度目か分からない位、兄に謝罪する。
 
 父と母の国を愛する姿を見て来た。
 兄の国に向き合う姿勢を見て来た。
 姉の国を想う姿を見て来た。
私だけが、逃げる訳にはいかないのだ。

  (だって、私はレティシア・テオ・リザレス)
     「リザレス王国の姫だから」
 

 

 

 
 

 
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