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第52話 秘密

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「……」

 6人の間に、長い沈黙が続く。
 埃が舞い、ゼシルを倒せているのかが分からない。

「や、やったのか?」

 全員が息を飲みながら、期待と不安の2つの気持ちで待っている。
 だんだんと埃も消えていき、視界がはっきりしていく。
 遂に、目の前がはっきり見えるようになった。

「た、倒せたー!!!」
「よかったよ(キラーン)」

 6人は不安が消え去り、満面の笑みを浮かべている。

「オズ、ありがとう!」
「アリアこそ、すごいな」

 オズとアリアはお互いに褒め合い、笑いあっている。

「オズ君、1人で来たんだね(キラーン)」
「え? ジークと2人だが……」

 オズは、一緒に来たはずのジークが居ないことに気が付いた。

(なんでだ? 一緒にここに向かったはずだが……)

「オズゥー!」
「お、おい!」

 シェリーがオズに飛び込み、思考が止められた。

「しかし、あいつが複製レプリカだったとはね(キラーン)」
「おいダリア、それって本当なのか!?」
「ああ、オズ君は知らないんだよね」

 オズは、ゼシルが複製レプリカであることを知り、不安が募る。
 他の5人は、一段落着いたかのように雑談をしている。

「おい、それっておかしいぞ」
「え? 何がおかしいの?」
「1週間前、あいつは本物だった。それなのに、今日は複製レプリカとなると……」

 1週間前に見たゼシルは本物であったのに、今日は複製レプリカである。
 複製レプリカは自分以外の者しか作ることができない。
 そうとなると、この1週間の間にゼシルの身に何かがあったということだ。

「こいつを倒せたんですから、本体も倒せますよ(キラーン)」
「いや、そう簡単にはいかない」
「どうして?」

 これが意味することは、ゼシルの複製レプリカを作り出した別の黒幕が居るということだ。
 それは、この場にいる全員が理解をしている。
 しかし問題はそれではなく、その黒幕の強さは異次元であるということである。

「この魔族は魔王の側近だった男だ。こいつを複製レプリカできる実力となれば、実力は魔王を簡単に越しているだろう」
「な、なんでそんなことが分かるんだ?」

 オズの淡々とした声に、5人は緊張している。
 そして、オズがどうしてそこまで詳しく知っているのか、という疑問が5人には生まれている。
 そうして、オズはとんでもないことを口にする。

「僕は、転生者だ。前世は魔王だった」
「「「えっ⁉」」」

 5人はオズの突然の暴露に戸惑いを隠せない。
 しかし、オズは気にする様子はなく続ける。

「本当はこのまま隠し通していくつもりだった。しかし今、魔族が暴れ始めようとしている。このまま僕が人間の姿で戦っても勝ち目がない」
「それでも、私たちと一緒なら!」
「それでも劣勢だろう。輪廻の転生リンカーネイションを使った者は、条件を満たした時に『再誕リザレクション』ができ、元の姿に戻れるんだ。魔王の身体なら何とかなるかもしれない」

 オズ以外の全員が、集中してオズの話を聞いている。
 普段であれば、絶対に信じない話だが、オズの話し方や雰囲気から本気であることを悟っている。
 オズは森でアリアを助けようと戦った時に、その条件を満たした。
 しかし、オズは人間として生きることを望み、そのまま放置していた。
 魔王の姿に戻ったら、アリアとは一緒には居られないことが嫌だったのだ。
 だが、今の状況では再誕リザレクションしないとみんな揃って負けてしまう。
 今は魔王の姿に戻ったオズにしか希望が無い。

(私はまだ条件を満たしていないってこと? 私も元の姿に戻れば……)

 みんながオズの再誕リザレクションのことを考えているのに対して、アリアは自分の再誕リザレクションの条件を考えていた。
 アリア自身も勇者であったあの姿の方が、今よりも体つきが良いので再誕リザレクションしたならば、何十倍もの力を発揮できるだろう。
 オズを助けたい気持ちがいっぱいで、必死に条件を考えている。

「そんな……」
「魔王の姿になっても、私たちとの思い出は残っているよねぇ?」

 シェリーが悲しい声でオズに尋ねる。

「それは分からねぇ。もしかしたら、黒幕と一緒に人を襲ってしまうかもしれない。でも、お前たちとの思い出は―」

 ドガァァン!!!

 オズの話を遮るかのように、大きな物音と共に地面が激しく揺れる。

「なんだ⁉」
「街の方から聞こえたよ(キラーン)」
「もしかして、攻撃が始まったのか⁉」
「お前ら、早く行くぞ!」

 話は途中のまま、6人は物音の方へと向かっていった。

(魔王に戻っても、オズとしてのみんなとの思い出が残りますように)
(早く、早く条件を満たさないと!)


 ◆


「ハハハ! 人間よ、もっと苦しめ!」

 キャー!
 わあぁぁぁぁ!!!

「魔王城に先客が居たのは想定外だったが、囮作戦は成功だぁ!」

 ドガァァン!!!

「ようやく私の復讐が始まりますよ!」
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