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笑顔に潜む、策士の罠

第10話

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 放課後、ホームルーム後すぐに、宮地が立ち上がってこちらをジッと睨んでいた。
 それを感じて、慌てて保健室に向かいたい気持ちを抑えて、ゆっくりと帰り支度をした。
 5分くらいすると、宮地の方が、僕を気にしつつも教室を出て行った。

 あの様子だと、おそらく図書室に向かうのかな?
 
 気にしつつも、宮地の姿が見えなくなってから、僕は鞄からスマホを取り出して、奈落にメッセージを送った。

『もう、戻ってるよね?奈落。
 今日、爽さんからメッセージが来て、ビックリしたよ。』

 送信。

 ピロリロリーン。

『悪ぃ。
 俺も、朝まで知らなくってよ。
 技術技能検査ってのを年一回のペースでやってるんだけど、時期がいつも定まってなくって。
 いきなり来るんだ。
 不意打ち検査なんだよ。』

 技能技術…何のだろう?
 面白そうだなぁ。
 詳しく聞いてみたい。

『今日も保健室に寄った後で、ランニングする予定だから、その時に話しを聞かせてよ。
 あと、宮地が旧校舎のどこの教室に入ったかも知りたいから、その時に。』

  送信。

ピロリロリーン。

『了解!』

 オカマゴリラが、チラチラとスカートをめくってる、変なスタンプが付けられていた。

 もう。慣れたよ。

 心の中で突っ込んでから、僕は席を立って保健室へと向かった。
 


昼休みに、話せなかった分だけ2人の先輩は、興奮気味で僕を廊下から保健室へと引っ張り込んだ。

「あわわ!腕ひっぱり過ぎです!
 バランスがぁ!」

 土屋先輩の馬鹿力で僕は、入り口付近でコケかけた。
 昼間、ベッドで寝ていた生徒はもう早退でもしたのか、いなかった。
 加納先生も不在で絶好の相談チャンス。

「土屋さん、ケガさせないでよ。
 明日、重谷先輩に会うには、有村君のサポートは欠かせないんだ!」
「ったく、大袈裟ね~!」

 僕はさっきの、奈落のスタンプを少し思い出した。

「えー、では、コホン!
 これより、重谷先輩対策についての会議を始めたいと思います。
 まずは、データとして、大野先生より聞いた重谷先輩の情報を報告します。」

 ゴクリと唾を飲んで、椅子に前かがみの姿勢で神谷先輩の話しに耳を傾けた。

「重谷先輩はどうも、読書好きというより、研究熱心な理数系男子だそうだ。
 他人を観察するのに長けていて、それが裏目に出て1年の時は多少孤立気味だった。
 そんな彼の前に現れたのが、イケメンなのに天然ボケで個性的な、文系の神部先輩だったらしい。」
「重谷先輩と神部先輩は正反対の性格だったんですね。」
「そのようだね。
 本好きは神部先輩の方が上だったけど、きめ細やかな指導力や委員の統率力は、重谷先輩の方が上だった。
 人間観察の得意な重谷先輩にとっては、そんなの朝飯前だったのかもしれない。
 それで、大野先生は図書委員長を重谷先輩に頼んだらしい。」
「人の上に立つ才能に恵まれた…歴史上の人物みたいでドラマチック!」

 もう、この流れにも慣れてきて、神谷先輩も僕も半ばスルー気味で、土屋先輩には視線を流すだけになっていた。
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