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王子の眠る白い城

第12話

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 翌日、僕は家の事をなるべく早く済ませて、夜のミッションに備えた。
 
 神部先輩について分かってるのは、事故で半身不随になった事と、写真に写ってる、優しそうなイケメンって事だけ。
 土屋先輩が喜んでたほど、整った顔立ち。
 目鼻立ちもスラッとしてスマート。
 少しだけ垂れ目の、切れ長の目。
 あ、天然ってのもあったか。
 重谷先輩が言ってた気がする。
 天然って事は、重谷先輩ほど、はぐらかす事は無いかもしれない。
 上手くボロを出してくれるといいんだけど。

 看護師の服の上に、薄いウィンドブレイカーを羽織って、鏡を覗いてみた。

「ん…メガネとかあった方がいいかな。
 実年齢もそうだけど、元々童顔だし。」

 ブツブツと呟きながら、前髪を少しだけ分けてみた。
 …変な人になった。

 ピロリロリーン。

『伊達メガネに、付けボクロ、つけ髭もあるから、車内で付けろよ。
 なんなら、金髪のカツラもあるからよ。』

 奈落からのメッセージに、ちょっと引いた。

 むむむ!これは、楽しむつもりだな…絶対に仕事は二の次だ!
 
 母さんが帰宅して食べる夕飯をセットしてから、僕はアパートの外で待つ奈落と爽さんの元へと急いだ。
 2人と軽く挨拶を済ませて、爽さんの車に乗り込んだ。

 あれ?爽さんの車、この前のミニベンツじゃない。
 軽車だ…それも可愛いクリーム色。

「すまないね、仕事用の車は別に貸し出したんで、私個人の車なんです。」

 車はゆっくりと、落合総合病院へと発進した。
 揺れの少ない、柔らかな乗り心地の運転をしながら、爽さんがすまなそうに、眉を8の字にしていた。
 助手席の奈落は何故だか、笑いを堪えてるようだった。

「あ、いえ。」
「爽!有村は色のセンスで引いてんだよ。
 前に乗っけた女の子にも、ドン引きされたんだろ?
 パステルカラーの黄色?あり得ない!って。」
「言われましたよ、確かに。
 でも、分かりやすくていいかなって。
 駐車場で探す効率とか、事故の効率を考えると、こっちの方が得なんですよ。
 確かにセンスとかは考えませんでしたし、元々備わってないスキルですからね。
 最近の軽車は燃費が良いし、幅広で快適ですし。
 せっかくの軽車ですから、色味も軽いのは間違いじゃないと思ってますよ。」
「あの…せっかくの話しのところ、腰を折るようですけど、それって、センスとか言うよりも…多分ですけど、女子力高いかもって思われたんじゃないでしょうか?」
「!」
「!」

 僕の一言に、車内が一瞬凍りついた。

「プハッ!有村ズバリだよ、それ!
 ただでさえ、細かいのに、女子力高めの男なんて、ドン引きすんの当たり前だわ!
 だははは!」

 ゴン!

 運転席の爽さんの左拳が奈落の頭上から、振り下ろされた。

「ったあ!ひでー!
 俺ばっか!有村だって同罪だろ!」


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