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スパイ活動と保健室同盟(仮)

第10話

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 さて…問題はわざとらしくない演技が出来るかどうかだ。
 こっちから、明らかにぶつかったなんてわかる演技なら、さすがにキレ具合も半端なくて大騒ぎになってしまうし…恨み心が後々まで長引く。
 なんとか、偶然に、かつ自然にドジって当たりました…かすりましたって感を出したいんだけど。

 「有村!聞いてんのか?
 オイ!ったく。
この後、次の授業の教材を取りに来い!
 お前!日直だぞ!」

 ビクッと僕は身体を震わせた。
 そうだ!日直だった。
 すっかり忘れていた。

「あ、はい。
 わかりました。」

 まずい、思考する事に夢中になり過ぎて、日常の事を忘れそうだ。
 はあ、先ずは目の前の日直の仕事を片付けなきゃ。

 僕はホームルームが終わると、担任の後に着いて行き、教材を取りに職員室内に入った。

「有村、お前はボーッとしてるから、宮地達にからかわれるんだぞ。
 もっと意識をしろ!
 このまま、イジメだなんて騒がれちゃ、こっちもたまったもんじゃない。
 2年のせいで、職員はそういう騒ぎに敏感になってるんだ。
 頼むから騒ぎを起こすなよ。」

 はあ。
 呆れた。
 これが担任の吐くセリフかよ。
 本当に、情けない。
 見てるこっちが、人として恥ずかしいよ。

 「…はい。気を付けます。」

 何故、僕が気を付けるんだ?
 気を付けなきゃならないのは宮地達だろう。
 こういう真逆の対応がイジメを悪化させ問題を大きくしてる事に、いい加減気が付けよ!

 僕は内心、ムカムカしながらも、こんな教師に反抗しても何の得にもならないと、淡々と教材を手に取った。

 書物はともかく、巻紙三本が持ちにくい。
一本ならともかく、本を抱えての三本の巻紙は僕の視界を妨げた。

 ヨロヨロと見えづらい視界を確認しつつ、職員室を出て、教室を目指した。

 廊下でたむろする生徒達が、余計に僕の足取りを悪くした。

もう少しで教室、というところで…僕の目にチャンスが飛び込んで来た!

 両手をズボンのポケットに突っ込んで、こっちに話しながら向かってくる宮地の姿が、巻紙の間から僕の目に飛び込んできたのだ。

 これは…チャンスだ!使える!
 アイテムもしっかりと手に握ってる!
 この巻紙はゲームイベントクリアの為の必須アイテムだ!

 僕は巻紙をワザと少し倒して人に当たらせながら歩いた。

「すいません、…ああ、すいません。」

 オドオドした口調で当たる人当たる人に謝った。

 …そして…。

パシッ!

 やった!当たった!

「ったあ!テメエ!
 何しやがる!有村の分際で!」
「わー!ご…ごめんなさい!」
 
 掛かった!上手く引っかかってくれた!
 宮地のこの態度…ジャイ◯ンの、の◯太くせにの扱いだよな。
 僕もワザと大げさに驚きの声をあげた。

 バシッ!バシッ!
 巻紙で頬を殴打された。

「前見て歩けよ!カス!」

ドカッ!

「ぐほっ!」

 襟首を引き上げられた後、ボディーにひざ蹴りを喰らって、両膝を着いてうずくまった。

バサバサ、ドサドサ。

 巻紙と書物が廊下に散らばった。

「田中!それ貸せよ!」

宮地は田中の持っていたオレンジジュースのパックをひったくるように奪うと、僕の頭上で逆さまにして、中身を押し出した。

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