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憎しみのパズルピース
第8話
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中にいたのは加納先生だった。
保険医だし、元々ここにいても何らおかしくないんだけど、さっきの事で余計な勘ぐりをしてしまったようだ。
仕事をしてるようで、机に向かっていた。
「あの…おはようございます。
加納先生。」
僕は静かに扉を開けて、加納先生に挨拶をした。
「おや。有村君。
おはよう。早いね。」
椅子をクルリと回転させて、加納先生はこちらを向いた。
「先生はお仕事ですか…?」
「あ、ああ…まぁそうだね。」
…?なんだろう歯切れが悪い気がした。
「何かあったんですか?」
「いや…森園さんに登校する前準備にと思って、診断書やサポートしなければならない事があれば教えて欲しいって申し出たんだけど…。
拒否られてしまって。
ちょっとだけ、落ち込んでたんだ。」
「…落ち込んで…?」
「度々あるんだよね…保険医って、男性はあまりいないし、特に女生徒に信用されないし。
自分の無能さに嫌気が差しそうになってさ。
女性保険医ならもっと生徒に寄り添えるのかなぁって。
はああ。」
そう言って、加納先生はすこぶる大きなため息をついた。
「そうでしょうか?
僕は加納先生は立派な保険医だと思ってますし、尊敬してます。
保険医って外傷だけじゃなく、メンタル面でのサポートもしてくれますし。
1人1人をちゃんと見てないと、出来ない仕事だと思います。
心の傷を癒せる先生なんて、最高にカッコいい職業です。
もっと胸を張って下さい。」
「ありがとう…。
そうだね、ここには心を癒しに来る生徒もいる。
僕がこんな弱音を吐いちゃいけないね。
有村君のおかげで元気が出て来たかな。」
「えへへ…。」
僕はいつも通りに窓辺に移動して椅子に座り、コンビニで購入したコーヒーを一口飲んだ。
「うぐっ、不味い~。」
「おやおや、コーヒーなんて無理に飲まなくても。
昨晩、眠れなかったのかい?」
「あ、いえ。
少し…大人の味に慣れておこうかと。
けど、大人ってなんでこんな不味いの好きなんですかね?」
「うーん。
表裏一体、逆説…つまり甘いものだけじゃ飽きてしまう、辛いものだけでも飽きてしまう。
たまには、苦かったり、渋かったり、多少の苦痛も快楽の1つなんだよね。
人間って強い刺激には弱いけど、少しの刺激は好きなんだよ。
ビールもそう。
あれ自体は美味しい味ではないよ。
喉を通る感覚やらほろ苦い刺激が、脳に快楽だと思わせてるんだ。」
「なんか…ソフトMみたいですね。」
「あはは。
言えてるね。
ま、人間にはマゾの部分もサドの部分も両方持ち合わせてる。
ただ、割合が個々で違うだけだね。」
「大人って複雑だぁ。」
「そのうち、有村君にもわかるようになるさ。」
苦いコーヒーをチビチビと飲みながら、加納先生がビールを飲む姿を想像してみた。
見かけは学生が背伸びして飲んでるとしか見えないよな。
僕や神谷先輩が大人になってもああかな。
奈落や槇さんなら絵になるのに…。
「おはよう…ございます!」
神谷先輩も明かりがついていたせいで、恐る恐る覗き込みながら入って来た。
「はい。おはようございます。
神谷君。」
「おはようございます。
神谷先輩。」
神谷先輩は加納先生の横を通って、僕の前に椅子を運んできて座った。
「図書室に行ってきたよ。
行ってきたんだけど…ねぇ、ピアノの音聴いた?」
「あ、はい微かですけど。
廊下に誰もいないせいか保健室手前まで。」
「図書室の真上だろ、音楽室。
窓…空いてたのかな。
結構聴こえてさ…。
図書室覗いてたらゾワッとして…。」
…確かに…あの薄暗い図書室を覗いてたら、ピアノの音がするなんてホラーなシュチュエーションだよなぁ。
「…で、どうでした?図書室の方は?」
保険医だし、元々ここにいても何らおかしくないんだけど、さっきの事で余計な勘ぐりをしてしまったようだ。
仕事をしてるようで、机に向かっていた。
「あの…おはようございます。
加納先生。」
僕は静かに扉を開けて、加納先生に挨拶をした。
「おや。有村君。
おはよう。早いね。」
椅子をクルリと回転させて、加納先生はこちらを向いた。
「先生はお仕事ですか…?」
「あ、ああ…まぁそうだね。」
…?なんだろう歯切れが悪い気がした。
「何かあったんですか?」
「いや…森園さんに登校する前準備にと思って、診断書やサポートしなければならない事があれば教えて欲しいって申し出たんだけど…。
拒否られてしまって。
ちょっとだけ、落ち込んでたんだ。」
「…落ち込んで…?」
「度々あるんだよね…保険医って、男性はあまりいないし、特に女生徒に信用されないし。
自分の無能さに嫌気が差しそうになってさ。
女性保険医ならもっと生徒に寄り添えるのかなぁって。
はああ。」
そう言って、加納先生はすこぶる大きなため息をついた。
「そうでしょうか?
僕は加納先生は立派な保険医だと思ってますし、尊敬してます。
保険医って外傷だけじゃなく、メンタル面でのサポートもしてくれますし。
1人1人をちゃんと見てないと、出来ない仕事だと思います。
心の傷を癒せる先生なんて、最高にカッコいい職業です。
もっと胸を張って下さい。」
「ありがとう…。
そうだね、ここには心を癒しに来る生徒もいる。
僕がこんな弱音を吐いちゃいけないね。
有村君のおかげで元気が出て来たかな。」
「えへへ…。」
僕はいつも通りに窓辺に移動して椅子に座り、コンビニで購入したコーヒーを一口飲んだ。
「うぐっ、不味い~。」
「おやおや、コーヒーなんて無理に飲まなくても。
昨晩、眠れなかったのかい?」
「あ、いえ。
少し…大人の味に慣れておこうかと。
けど、大人ってなんでこんな不味いの好きなんですかね?」
「うーん。
表裏一体、逆説…つまり甘いものだけじゃ飽きてしまう、辛いものだけでも飽きてしまう。
たまには、苦かったり、渋かったり、多少の苦痛も快楽の1つなんだよね。
人間って強い刺激には弱いけど、少しの刺激は好きなんだよ。
ビールもそう。
あれ自体は美味しい味ではないよ。
喉を通る感覚やらほろ苦い刺激が、脳に快楽だと思わせてるんだ。」
「なんか…ソフトMみたいですね。」
「あはは。
言えてるね。
ま、人間にはマゾの部分もサドの部分も両方持ち合わせてる。
ただ、割合が個々で違うだけだね。」
「大人って複雑だぁ。」
「そのうち、有村君にもわかるようになるさ。」
苦いコーヒーをチビチビと飲みながら、加納先生がビールを飲む姿を想像してみた。
見かけは学生が背伸びして飲んでるとしか見えないよな。
僕や神谷先輩が大人になってもああかな。
奈落や槇さんなら絵になるのに…。
「おはよう…ございます!」
神谷先輩も明かりがついていたせいで、恐る恐る覗き込みながら入って来た。
「はい。おはようございます。
神谷君。」
「おはようございます。
神谷先輩。」
神谷先輩は加納先生の横を通って、僕の前に椅子を運んできて座った。
「図書室に行ってきたよ。
行ってきたんだけど…ねぇ、ピアノの音聴いた?」
「あ、はい微かですけど。
廊下に誰もいないせいか保健室手前まで。」
「図書室の真上だろ、音楽室。
窓…空いてたのかな。
結構聴こえてさ…。
図書室覗いてたらゾワッとして…。」
…確かに…あの薄暗い図書室を覗いてたら、ピアノの音がするなんてホラーなシュチュエーションだよなぁ。
「…で、どうでした?図書室の方は?」
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