上 下
163 / 280
ハードで楽しい深夜のお仕事

第9話

しおりを挟む
 僕はアパートに帰宅するなり、つまづきながら靴を脱いだ。
 心はすでにパソコンの前だ。

 それから、母親が帰宅したのにも気が付かずに、衣装のイメージ画像を作っていた。
 何せ古いパソコンの為に処理速度も極めて遅い。
 けど…データを消さないように、保存をこまめにして少しずつパターンを増やしていった。

「恵。そろそろ夕飯よ。
 恵~。」

 ああっ!
 もう、夕飯の時間か…あっという間だなぁ。
 まだ…どれも自分の納得できる感じじゃないんだよな…うーん。
 
 
 「母さん、明日7時半には家を出るよ。
 あと、ちょいちょい連絡入れるよ。
 スマホ持って行くし。
 食事はちゃんと槇さんが出してくれるって。」

 僕は食事をするついでに母さんに明日の事を話した。

「そう、アルバイト頑張ってね。
 そうそう、渡し忘れたら困るから…これ。
 皆さんで食べてって。
 その…槇さん…?によろしく伝えておいて。」

 母さんはそう言うと、高級な焼き菓子の詰め合わせを差し出した。
 
「母さん…これ。
 こんな気を遣わなくても…。」
「いいえ。大切な息子を任せるんだから。
 本当ならきちんとご挨拶したいくらいなのよ。
 でも、マザコン扱いされても困るだろうから。
 これくらいさせて頂戴。」
「母さん…ありがとう。」

 僕は…貧乏だけど、なんて幸せなんだろう。
 気持ちが通じ合える家族がいて。
 この小さな幸せ…今の宮地には、きっと無いんだろな…。

 今…奴は…何してる…?


ピロリロリーン。

 食事と風呂を終えて、再び部屋で作業していた時、奈落からのメッセージが届いた。

『こぉらあ!
 無理すんなって言ったろ。
 コン詰めて作業したら、明日に響く!
 適当なところで終わらせろ!
 本番は明日!
 前日にエネルギー使い果たすなんてバカな真似すんなよ!』

 あ、しまった。
 もう午後11時を過ぎていた。

『ごめん、つい夢中になっちゃった。
 ありがとう。
 もう寝るから。

 奈落、明日もし仕事を手伝ってって頼んだからそれは接待費になるのかな?』

送信。

ピロリロリーン。

『それな。
 接待費ではなく共同作業費かな。
 何かの目的で作業したり、協力する行為はこれに当てはまるはずだ。
 これは、接待費より少し割高だし内容によっては金額が跳ね上がる。
 その分俺を自由に扱える訳だが。
 つまり、命令されれば裸踊りで街中歩く事もしなきゃならない。
 被験者がサポーターを駒として使うことの出来る…まあ、そういう事だ。』

 裸踊りぃ~~!?
 例えが大袈裟だな…けど…。
 言ってる意味は十分わかった。
 それだけ、僕にも責任が生じる訳だ。
 人を扱う責任が。

『わかった。
 明日の事は仕事内容とか作業の流れを見てから決めるよ。
 会社までは付いて来てくれるんでしょ。』

送信。

ピロリロリーン。

『案内したら課金だけどな。
 付いてくだけなら無料だ。
 それが俺の仕事だしな。
 じゃあ、明日7時半には玄関前で待ってる。』

 そっか、迎えに来てもらうと母さんに説明が面倒だからな。
 やっぱり、奈落はさり気なく気を遣ってくれる。

『うん!明日よろしく。
 多分自分で行けるよ。
 おやすみなさい。』

 送信。

ピロリロリーン。

 また…スタンプ。
 奈落コレクション。

 竹輪と板かまぼこがフラダンスしてる。
 これは…リラックスしろって事かな…。
 
 僕はUSBメモリーに画像を保存して、パソコンを閉じて布団に入った。

 リラックスしたいけど…楽しみで興奮しそうだ。
 僕はまぶたをしっかりと閉じて、強引に睡眠に入った。

 

しおりを挟む

処理中です...