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保健室同盟(仮)と前期図書委員

第16話

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 ランニングと奈落に勇気を貰い、清々しい気持ちでアパート前まで戻って来た。

「ほい。
 樹からのデータ。
 このUSBメモリーに入ってる。
 …あと、樹がメッセージも入れておいたからってよ。」
「えっ、メッセージ?」
「ちぇっ!有村は俺の被験者だっつーのに、どいつもこいつも興味持ちやがって。
 ま、それがお前の魅力なのかもな!」
「み!…魅力って…そんな…。
 華京院の人達がいい人すぎるだけだよ。
 基本、好かれた事なんて過去には無いんだから。」

 コツッン!

 奈落が笑いながら、僕のおデコを小突いた。

「照れるな!照れるな!色男!」
「色男って…そんな男にモテてても…って、僕にはまだ、女の子は早いのかな。
 よく分かんないし。」
「俺だって、女が分かんねーよ。
 わかればこんな苦労しないって~の。
 ま、若いんだし、お互い、女との付き合いは失敗覚悟で行くしかねーよな。」
「そうだね。
 恋愛ど素人だ。
 無理はしないで行くよ。
 あははは。」
「じゃあ、明日はやる事あんだろ。
 ゆっくり休めよ!」

 奈落は白い歯をムキっとみせて、僕に手を振って去って行った。

 奈落といると魔法に掛かったように、強い心を持てる。
 生きてる事を楽しめる。
 まるで、《僕の魔法使い》だ。


 帰宅してからランニングでかいた汗を流して、ご飯と味噌汁の準備だけして、母を待つ間に部屋で樹さんからのデータを確認してみた。

 
 データの内容は簡潔にまとめられて、破かれた本を多く借りていた上位3名の名の中に、目を止めた。
 
「神部 幸人…!」

 昨年12月に交通事故にあって、半身不随の先輩。
 病院で絶対安静の入院中に怪人の事件が起こっている。
 つまり神部先輩に関してはアリバイも何もない。

 当時の図書委員関係者の事件発生前日のアリバイについてのデータに慌てて目をやった。

「えっと、前日は重谷先輩は図書室に鍵を掛けて神部先輩のお見舞いに行った後に、遅くまで塾へ行ってたようだな。
 高橋先輩は、インフルエンザの為に外出していない…。
 前期図書委員の卒業生は当時の夜に、図書室や学校にいた形跡は見つけられないな。
 1、2年もこの日は雪も降ったせいか、早めに帰宅してるようだ。
 …雪か…図書室側の外に足跡とかは無かったのかな?
 もしくは、足跡の上に雪が降ってわからなかったか…。
 翌朝鍵を開けたのは、現在2年の藤谷先輩。
 今期は図書委員をやっていない…。」

 あれ?引っかかった…。
 えーと引っ掛かりが多くて…。

 まず、足跡が元々無かったとしたら、怪人は何処から現れたのか?
 校内に夜中潜んでいたとも考えられる。
 
 前期図書委員をやっても、今期やっていない生徒もいる。
 当たり前なんだけど、事件は今現在も起こってる。
 つまり、2期続けてやってる人間…。
えーと、3年は現図書委員長の三谷先輩。
 2年副委員長の福留先輩、柿本先輩。
 …そして、プラスアルファの現1年の早川さん…。

 2年の藤谷先輩は単に2期続けてやるつもりは無かったのかな…それとも何かの要因で、2期を続けられなかった?

 初めの事件の起こった日に、鍵を開けて図書室内の状況を真近に見た人か…話しを聞きたいな。
 
 データを眺めながら、そんな事を思っていたら、いきなり画面が切り替わり、映像が流れた。
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