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保健室同盟(仮)と前期図書委員

第24話

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「宮地~。最近付き合い悪いな。
 早川と付き合ってるんじゃないか?」
「アホ!あいつは恋愛対象にはならねーよ。
 ただ、家族が世話になってる分くらいは返さないと。
 借りを作りたくないんだよ。」
「もったいねーな。
 俺がその立場だったら、すぐに告白して付き合っちゃうけどな。
 料理上手い女子は最強だろ。
 安村もそう思うだろ?」
「田中は食い気が先に立ってんじゃん。
 って、そろそろ彼女作らなきゃって時期かもな…。」

 僕もそう思う。
 僕をイジメるくらいなら、早川さんと付き合って楽しく過ごした方がいいはずだ。

 あんなに優しくて、他人を思いやれる女子なんてそうそういないよ。
 宮地の目は腐ってるな。
 すぐ近くに、自分を大切に思ってくれてる人がいるのに気が付かないなんて。

 僕は気配を殺しつつ、自分の席に座り込んだ。

「そういや、宮地の母ちゃん大丈夫なのか?
 この前、事故ったろ。」
「ああ、平気、平気。
 ありがと、安村。
 大した怪我じゃないし、むしろ保険が下りてウハウハだよ。
 妹にもマシなもの食わせてやれるし。」
「そういや、可奈ちゃんの誕生日が近いよな。
 俺と安村も安い物だけど合わせて今度、プレゼント渡すよ。」
「田中…。安村…。
 サンキュー。
 いい友達だな。やっぱお前ら。」

 そう、呟くように言って宮地は目を軽く伏せた。

 なんだ…信頼しあえて、いい仲間がいるじゃないか。
 宮地を知れば知るほど、僕に構う意味がわからなくなる。
 何故…奴の敵対の視線は僕に向けられてるんだ?
 こっちには、思い当たる節はない…。
 
 まあ、昔から目をつけられやすいって特性は、僕自身が持ち合わせてるんだけど。
 
 けど…それだけじゃないよな…あの、憎しみの眼差しは…。

 「ほら!座れ座れ!授業始めるぞ!」

 古文の先生が拳をグルグルさせながら教室に入って来たので、田中と安村は慌てて自分の席に戻って行った。

 斜め後ろに感じる、宮地の存在感…以前は怖くて、嫌でたまらなかった。
 けど…今は…同じ人間だって、やっぱり納得してしまう。
 ヤツもきっと、悩んでる事がある…逃げ出したい、壊したい物があるんだ…。

 僕は知らず知らずのうちに、宮地を理解し始めていた。


 帰りのホームルームの後、速攻で教室を出ようとした僕の襟首を誰かが掴んで引っ張った。

ガシッ!

「うわぁ!」
「おい!有村テメェ!今日もまた図書室に行く気じゃないよな!」

 げっ!宮地!

「ち!違うよ…今日は先輩と…その駅前に行く約束してるから…。」
「ふ~ん。」
「か、勘違いしてるなら…言うけど…その。
 早川さんは図書委員の仕事で、僕に本を勧めてるだけで…別に、仲良くはしてない…。」
「バッ!バカ野郎!早川の事なんて聞いてねーよ!
 お前こそ、勘違いして変な事、早川に言うなよ!
 わかったな!」

 バッ!

 明らかに動揺した宮地を振り切って、僕は廊下を駆け出した。
 宮地に構ってる時間は無い!
 保健室に直行だ!
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