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保健室同盟(仮)と前期図書委員

第34話

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 僕等は神部先輩を可哀想としか見てなかった。
 けど…彼は若い、奈落の言う通り、これから先の人生は長い。
 もう何ヶ月も経って、少しは気持ちは落ち着いてるかも知れないじゃないか。
 周りの人の気遣いを真に受けて、僕等自体も、神部先輩は今もなお、落ち込んでると思い込んでるだけかも知れないじゃないか?
 すでに、彼は未来に向かって少しづつ、歩みだしてるかも知れないっていうのに!

 それに、神部先輩には重谷先輩という親友が、彼を支えてるじゃないか!
 
 僕は目の前に、微かな天からの光の様な物を感じた気分だった。

「ありがとう。
 奈落はやっぱり、僕のサポーターだ。
 僕の1番欲しかった答えを、教えてくれる。」
「あんん?単なる世間話しだろ?
 んな、大層な事言ったっけ⁇」
「ん。大事な事だよ。
 思い込みや周りの話しに流されて、正しい事が見えなくなりそうだった。
 1つだけの答えに囚われちゃいけないんだ。
 沢山の情報の中から、答えを選ぶのは自分なんだって忘れてたよ。」
「あ…そう?
 よく、わかんねーけど、有村が嬉しいなら、それでいいや。」

 奈落は箸に刺したジャガイモを振りながら笑った。

「…さっき、遅れたのって、仕事でモタついたの?」
「あ…ん。
 1人…脱落した。」
「脱落…?あ!いいの?
 僕に話して。
 聞いておいてなんだけど。」
「構わないって。
 逆に残りの被験者の引き締めに、話せって言われた。
 詳しい個人情報は言えないが、犯罪に足を突っ込んだってこった。
 金で変わる人間の典型だ。
 前もって、被験者を選んだはずだけど、人間の奥底まではデータじゃ読めなくてね。
 まあ、早い段階で発覚したから、大事にはなってないけどな。」
「犯罪でしょ…随分と大事な気が…。」
「んん…。
 つまり、欲が出て、1年後も多額の収入を得られると…同級生相手に、高利貸し…つまり、金を貸して利息を取ろうとしたんだ。
 サポーターに気付かれないように、人を使ってね。
 で、借りた生徒がまた、厄介な事にその金で下級生をカモって、ゲーム賭博を始めた。」
「高利貸し…ゲーム…賭博…?
 ぶっ飛んでるな…僕なら、そんなお金の使い方怖くて出来ないよ。」
「言ったろ、大金は人間を変えちまう麻薬だ。
 金は使う物であって、使われちまったらおしまいだ。
 これを教訓に、気を引き締めろよ。
 って、ビビリ過ぎて、全く金を使わなくてなるのも困るんだけどな。」
「はあ、同じ学生で被験者でも、考える事がこんなにも違うんだなぁ…。」

 僕は手元に大金があっても、怖くてちょっとずつしか、自分の為には使えないな。
 けど…母さんの為にと、何百万も使った。
 これも一歩間違えは、間違った使い方になってしまうかも知れない構図だ。
 奈落の言う通り、引き決めなきゃ。
 これは、欲望を満たすためのお金じゃ無いんだ。
 僕は改めて、『有意義』という言葉を胸に刻んだ。
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