忘却の魔法

平塚冴子

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小児科医と教授と博士

第7話

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金曜日になり、俺は朝早くから空港に来ていた。
「で、日帰りだって言ったよな。」
「ええ。聞きました。
でも、ほら空港の改築も終わって新しくなりましたから。
梶を送るついでに鈴と少し楽しもうかと。」
朝から金井の車で送って貰ったのだが、まさかこういう理由だったとは。
「デート気分かよ。まったく。
鈴!こういう時は金持ちにジャンジャン奢らせろ!好きな物買ってもらえ!」
「…買って貰う…梶の靴下…穴空いてた…。」
「あははは!梶、それは大変だな沢山買っておきましょう。」
「鈴!お前…金井も笑いすぎだ!」
金井は腹を抱えて大笑いした。

「じゃあ、そろそろ時間だ。行くよ。」
「行ってらっしゃい。
帰りの飛行機に搭乗したら連絡下さい。」
「…待ってる。」
「おう!甘い菓子のお土産買ってくるよ!」
俺は搭乗ゲートへ向かった。
片手には猫好きの真鍋先生の為のお土産を持って。

飛行機の中から飛行場の屋上に何気なく視線を送った。
人が1人立って手を振ってる…。
あれ…見覚えある背格好…若い…線の細い…か細い…色白の…。
「近藤 陸!?」
俺は青ざめ、手がガクガク震えた。

なぜ、奴が…どうやって施設を出た?
いや、それよりも奴は今、鈴の近くに!?
目を擦り、再び同じ場所を見た。
…消えた!いない?
俺の幻か…いやでも、やけに鮮明だった。
恐ろしくなったが、現実だとしても金井が側にいるから下手に出しはしないだろう。

今はとにかく真鍋先生からの情報収集に、意識を集中させよう。
相手は頭脳派だ。
動揺すれば、誤魔化される。
俺は気合を入れ直した。
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