手の届かない君に。

平塚冴子

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2学期

君は僕を否定する。

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久瀬の入れてくれたアプリは他にも僕に情報をくれた。
彼女は毎朝、かなり朝早くに登校してるようだった。
僕も併せて早く出勤する事にした。
彼女は朝も旧理科室で時間をつぶしていた。
朝食のおにぎりを食べたり、髪を結わえたり。
僕も旧理科準備室で朝食を摂る事にした。
壁一枚挟んで、一緒に朝食を摂っている気分になった。
ここでの朝のコーヒーは格別に美味しかった。

何事もなく、1週間が過ぎて、今日から教育実習生の指導もしなければならない。
田宮真朝から離される時間が更に多くなる。
おそらく、それも清水先生の策略の1つなんだろう。
「矢口豪です!宜しくお願い致します。」
矢口は身長が僕と同じくらいで、爽やかな短髪の実習生らしく、明るくハキハキとした好青年だった。
「ども…。武本です。気楽にお願いします。」
人に指導する腕がないのは自分でも充分判ってる。こんなにヤル気マンマンでいてもらったら、こっちが辛い。
清水先生は後ろでクスクス笑ってやがるし。
あんたがやらせたんだろ~!
「とりあえず、今日1日は僕について歩く程度なので。朝の準備について軽く説明します。」
「ハイ!頑張ります!」
いや、だから頑張るなっつーの。
更に清水先生が声を殺して笑っているのが、気配で判った。
このニセ牧師があ!地獄に堕ちろ!

僕は矢口に朝の準備と今日1日の予定を軽い説明をして、朝のホームルームへと一緒に向かった。
1年3組のホームルームが終わり、1時限目の1年4組へと移動する。
相変わらず、始業チャイムが鳴っても廊下をザワザワ動き回る生徒を羊飼いの如く教室に押し込める。
「武ちゃん、その人が実習生?」
牧田がピョンピョン跳ねながら、聞いてきた。
「今から、紹介するから早く席につけ!。」
「あーい。」

とりあえず、全員席に着いたのを確認して、教室に入った。
「先生~早く紹介してよ~。」
「どこの大学~?彼女いるの~?」
相変わらず、一般クラスは騒がしく、教育実習生への好奇心で授業どころではない状態だ。
「静かにしろ!これから2週間の間教育実習で来た矢口先生だ。お前ら、手加減してやれよ。」
「矢口豪です。2週間宜しくお願いします。」
いつものように、窓の外を眺めていた田宮真朝が、その名前を聞いて、こちらを向いた。
あれ…、もしかして、田宮も興味あったりして…。
結局、矢口への質問責めで1時限の半分が潰れた。
「ハイ、教科書を開いて。」
やっと授業が始められる…。
10分たった頃、田宮が思いっきり寝てるのが目に入った。
僕は田宮の側に行き、コツンと軽くゲンコツをした。
「ほら、授業始まったぞ。」
「…すいません。あまりにつまらなかったもので。」
つまらないって!
「よっ!田宮!また武本イジリ?」
「あははは、負けるな!武本!」
以前のバトルの影響か、生徒が喜んで囃し立ててきた。
「くっ、とにかく授業中は起きてろ!」
「はい、なるべく心がけます。」
漫才でもやってるかのように、周りはウケて騒がしくなった。
あーもう!なんで、いつもこうなんだ?
イライラしながら、僕は授業を終えた。
教室を出ようとすると、矢口が急に田宮の元へ走って行った。
「真朝ちゃんだよね!俺だよ!」
「お久しぶりです。名前でわかりました。
先生になられるんですね。」
「よかった~!
ずっと話したいと思ってたんだ。」
なんだ!あいつ!田宮を知ってるのか?しかも、馴れ馴れしく…真朝ちゃんって…。

「武ちゃん、お顔が怖いのよ~。
そんなに真朝が気になる?」
牧田が下から僕の顔を覗き込んだ。
「ばっ、馬鹿野郎!ンな訳ないだろ!」
思いっきり動揺していた。
「ふ~~ん。」
牧田が恋愛アンテナをビンビンさせているのが、なんとなく判った。
ヤバイ…顔に感情が出てる。
田宮と矢口から視線を外した。
「武本先生、お待たせしました。」
田宮と話し終えて矢口が戻ってきた。
「…。」
「なんですか?なんか怖いんですけど!」
「あ、いや別に…。職員室行くぞ。」
「武本先生~。」
大人気ないと思う。
でも、顔の筋肉が強張って戻らなかった。

職員室に着いてコーヒーを一杯飲んで落ち着いた。
矢口はちょっとへこんでいた。
悪い事したな…。
「矢口…その…田宮とは知り合いなのか?」
なるべく自然に見えるように聞いてみた。
「あ、はい。妹の友達だったんです。
僕とは2、3回会った程度ですが…。」
「妹…?」
「ええ。小学校の時の。
妹の…親友だったと思います。
真朝ちゃんは。」
だった…?なんか違和感があるニュアンスだった。
「妹は亡くなったんです。
中二の夏に。」
「えっ…。まさか…麻里子…。」
しまった!久瀬から盗み聞いた名前を口走ってしまった。
「妹の名前!どうして知ってるんですか?」
「あ、いや…その…。
他校の久瀬って奴に聞いて…。」
「ああ、久瀬君ですか。
彼も真朝ちゃんと仲が良かったですもんね。」
そうか…それで田宮に声を…。
でも…さっきから、真朝ちゃん…真朝ちゃんって連呼しやがってー!
ああ!くそっ!イライラする!

「もしかして、真朝ちゃんと仲が悪いんですか?武本先生。」
グサッ。
刺さった…刺さったぞ…今の言葉。
「別に…。」
「いい娘ですよ。真朝ちゃん。
頭いいし。」
あーそうかよ!お前の方が田宮を知ってるからって!
僕は苛立ちで奥歯を噛み締めていた。

そんなやり取りをしていると、清水先生が間に入って来た。
「なんだ矢口。お前、田宮を知ってるのか?」
「あ、はい。妹の友達で…幼馴染っていうか…。」
「そうか、じゃあ、ちょっとコッチ来い!」
「えー。なにー!」
そう言うと清水先生は矢口の襟首を掴んでどこかへ連れて行ってしまった。
清水先生…矢口から何を聞き出すつもりなんだ。

職員室の自分の席で、僕は顔の筋肉をほぐしていた。
矢口のせいで、顔の筋肉強張り過ぎていた。
「あら、清水先生はいないんですね。」
「ああ、今、矢口と一緒に…。」
って…田宮真朝!
田宮は職員室の清水先生に用事があったようだが、入れ違いにさっき出て行ったばっかりだった。
「すぐに、戻られるかしら。」
「さ、さぁ。」
「…よいしょ。」
えっ!田宮が僕の隣の清水先生のイスに腰掛けた。
「ななな何をしてるんだ?」
動揺しまくりだった。
「教師の見る景色って、どんなのかなって?」
机の上に肘をつき、イスを左右に揺らす。
ポニーテールが大きく揺れる。
形のいい胸も…。
ヤバイ…顔がマッサージしたせいで、余計に緩む!僕はとっさに、何かないか探した。
後ろの段ボールの中の雑貨の中にウサギのお面を見つけ、迷わず装着した。

「…先生。それ、嫌がらせにしては、可愛い過ぎますよ。ぷっウサギ先生って。」
「う、うるさい!」
いっぱいいっぱいなんだよ!
「私と顔を合わせたくないのは、よく判ってます。
じゃあ、もう行きますね。」
「そんなつもりじゃ…!」
彼女は席を立つと僕に耳打ちした。
「夏休みの事は気にせず忘れて下さい。
先生が、気に病むほどの事ではありませんから。」
「おい!僕がいつ…。」
彼女は満面の笑みで職員室を出て行った。
忘れてだと…ふざけるな!!
そんな…そんな事出来る訳ないじゃないか!
なんで、そんな態度取るんだ!
ウサギのお面を付けたまま、僕は机の上に突っ伏した。
どうして…君は…僕を…見ないんだ。
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