手の届かない君に。

平塚冴子

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2学期

狂おしい程に…

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「うぉあ!」
ウサギのお面を付けたままでコーヒーを飲む僕に、帰って来た清水先生が驚く。
「シュールだなぁ、おい。何をやってんだよ、お前はぁ。」
「……。」
「喋れよ!怖いわ!マジで!悪かったよ、最近、ツンケンしてたの!謝るから、その面外せ!」
「別に、清水先生に怒って着けてた訳じゃないです。」
「…にしてもよぉ~。」
「さっき、田宮が清水先生を探しに来ましたよ。」
「あ、そっか。約束してたっけ。」
約束……?
「だから!怖ぇーっての!取れ!!」
清水先生は強引に僕のお面を剥がした。
仏頂面の僕に、何かを悟ったみたいだった。
「…田宮に何か言われたのか?
死ねとか、バカとか、大嫌いとか。」
「何で傷口をえぐる事しか言わないかな~も~!言われてませんよ!ンな事!
清水先生こそ、矢口と何を話したんですか?」
「ばーか。教えるか。」
本当に酷い先輩だなぁ。
「そうだ、矢口は今何処に?」
「ちょっと…頼み事を頼んでな。」
頼み事?田宮に関係する事か?

「それより、お前。結婚式はいつ挙げるんだ?
決まったら校長、理事長に報告しないと。」
「結婚式!?」
「何を驚いてんだよ。正式に婚約したんだろうが。」
「あ、えっとまだ、婚約指輪さえ買ってなくて…。」
多分、必要なくなるし…。
「自分の事、後回しにすると痛い目見るぞ。」
「はぁ。」
香苗は来年結婚式を挙げるつもりでいるんだ。
早く、断らなければ…。
僕の眼にはもう、田宮真朝しか見えていないんだ…たとえ…否定されても。

昼休み、僕は旧理科準備室に行こうと2階の新校舎から旧校舎への渡り廊下を渡ろうした。
そこで、田宮真朝と矢口が出窓に座り、話してる姿を目撃した。
矢口が僕に気がつき、手を振った。
「武本先生、今から昼飯ですか?」
「あ、いや。何してるんだ、こんなところで。」
怪しいだろー!何で2人きりだよ!
何、膝付き合わせてんだよ!
「懐かしい、昔話しですよ。
だって、こんな小さかったのに大きくなってるし。」
「矢口先生ったら。」
矢口は田宮の頭をポンポン叩いた。
イチャつくな!!
「武本先生、これから俺ら食堂に行きますけど、どうです?ご一緒に。」
ふざけるな!!ものすごいマグマが流れ出たように、頭に血が上った。
「結構だ!」
僕は、足早にその場を立ち去った。
…見たくない。
彼女が他の男に触られてる姿なんて…。
息が…苦しい…。
自分の気持ちを否定されている上に、他の男に笑いかける姿なんて…。
僕は無我夢中で旧理科準備室へと向かった。

旧理科準備室に入り、机の上のクマのクッションに顔を埋めた。
怒りで顔が熱を帯びていた。
力一杯、拳を握った。
僕を見ない彼女…。
1番辛いのは…僕の気持ちを否定する、彼女の行動だ…。
胸を多数の刃物でズタズタにされたように、痛みがズキズキと音をたてていた。
彼女の側にいたいのに…彼女は僕を突き放そうとする。
苦しくて…苦しくて…。
彼女は…あのキスを…忘れたいのだろうか…それ程…嫌だったのか…。
僕は苦しい胸の上で、手帳を抱き締めた。

午後の授業は難なくこなせたが、心中は穏やかではなかった。
「武本先生、すごいですね。
2年目だって聞いてましたが。
生徒のあしらい方も様になってます。」
「…どうも。」
あまり矢口と話したい気分ではなかった。
下手な事を聞かされて、嫉妬で怖い顔になっても困るし。
「真朝ちゃんの言ってた通りだ。」
「えっ?田宮が…?」
「ええ、いい見本になるって。
素敵な先生だからって。」
「はぁ?田宮が??」
あまりの言葉に理解するのに時間が掛かった。
素敵って…僕を…?まさか…。
「真朝ちゃん、自分が悪くて怒らせちゃうけど、優しい先生だって言ってました。」
えっ、ええっ。ちょっと…待って。
口元が思わず緩んだ。
「そっか…。」
「あ!武本先生、やっと笑った。」
「わっ…笑ってねぇよ!」
僕を…見てくれてたんだ…。
ほんの…ほんの少しだけ…嬉しくて…。

放課後の旧理科室はいつもと様子が違っていた。生徒会の連中がバタバタと出入りしていた。
どうやら、田宮真朝の絵が出来上がったようだ。
僕はいつも以上に息を潜め、旧理科準備室で様子を伺った。
「文字のレイアウトは、こっちが決めるら。」
田宮美月が腕組みして指示をしていた。
「これは、生徒会の名声にかかわる物よ。
印刷屋にはこの、生の色合いを損なわないように指示して!」
田宮真朝は端の方で座っていた。
生徒会全員がグルって事か…。
端に座る彼女を見つめる。
少しだけ寂しそうに見えた。

「真朝!次は卒業製作のデザインよ。
年末までには完成させなさい。」
「はい。」
田宮美月は女王様のように人差し指で指示を出していた。
まるで、田宮姉妹は物語のシンデレラのワンシーンのようだ。
意地悪な姉にシンデレラ。
違うのはシンデレラが願うのが、王子との結婚ではなく、死ぬ事だという事だ。

「!」
田宮美月がこっちを見た気がして、頭を下げた。
しかし、その後も生徒会の作業へ指示を出していたので、ホッとした。
緊張の中、生徒会の作業は終わり、旧理科室内は田宮姉妹2人きりになった。

田宮美月は田宮真朝にズイッと歩み寄った。
「あんたも、以外とやるのね。」
「えっ?」
「武本…手玉に取るなんて。
どうやったの?」
何言い出すんだ…貴様!
「武本先生…?何の事?」
「あいつ。珍しく、私の魅力が通じない変態なのよね。
扱いにくいったらありゃしない。」
変態って!魔女に言われたくねぇよ!
「そう…。」
「嬉しい?私より好かれてて。」
「好かれてなんか…いないわ。
哀れんでいるだけよ。」
「はあ?あんた本当に…。
まぁ、いいわ。
下手に手出しはできないし。」
おっ。約束は守るようだな。
「じゃあ、卒業製作の方ヨロシクね。」
田宮美月はそう言い残して立ち去った。

ガタッ!
田宮美月が出て行った後、彼女が崩れ落ちた。
大丈夫か!?
僕は以前と同じ、遠回りして旧理科室の扉を急いで開けた。

ガチャ。
駆け寄ると、彼女は意識もうろうの状態だった。かなり気を張っていたのだろう。
僕は彼女を抱き上げた。
「先生…?武本…。」
言い終わる前に彼女は意識を失った。
思わず、彼女の頬を撫でた。
「頑張ったんだな。」
僕は彼女を抱き上げ、保健室へと移動した。
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