手の届かない君に。

平塚冴子

文字の大きさ
47 / 302
2学期

甘いひと時

しおりを挟む
「ここに、銀子ちゃんから借りたトランプがあります。
ジャック2枚クイーン2枚の4枚を用意します。
クイーンのハートは葉月さん、ダイヤが田宮、で、ジャックのスペードが俺、クローバーが武本っちゃん。」
「それをどうするの?」
葉月が興味深々で久瀬に問いかけた。
「裏にしてシャッフル!2枚引いてペアになった者同士がスペシャルラブミックスをお互いに食べさせ合う!」
「って、まさか男同士もありか?」
「ありに決まってんじゃん!」
ニヤニヤして久瀬がはしゃいだ。
「罰ゲームだよね。
それ!僕は殆ど罰ゲームにしかならない気がするんだが?」
「ゲームだからさ。ね~。任せてよ!」
久瀬は意味深なウィンクを投げてよこした。
えっ…まさか、イカサマ!?
「は~~い。クイーンとクローバーさんに決定!!」
イカサマしやがった!こいつ!

田宮とお互いにパフェを食べさせ合うのか~。
理性…理性だ!顔に意識を集中しなければ。
久瀬に会うまでは、出来てたんだ。
しかしながら、僕の心臓は飛び出しそうなくらいに激しく波打っていた。
「はい!では武本っちゃんから田宮に一口!」
「お前なぁ~。簡単に…。」
「仕方ないですね。早めに済ませましょう。」
「なんだよ!その嫌々感!」
僕は少しムキになった。
「そうよ。私がしてもらいたいのに!」
葉月はマジで面倒だな…。
「はい!あ~ん。」
久瀬が急かすように言った。
田宮は素直に、小さな口を開けた。
赤い唇の向こうに舌が顔を出して、ものすごくエロい口になってる…!
久瀬が、僕の反応を見てクスクス笑い出した。
このぉ~~!
「…はい。どうぞ。」
小さく開いた、赤い唇の中にスプーンを滑り込ませた。
クリームが口の周りについて…可愛い!もう!たまらん!!
久瀬が肩を揺らしながら仰け反った。
「じゃ、あはっ。次は田宮が武本っちゃんに食べさせて。」
「田宮…無理ならやらなくてもいい。」
「ゲームですから。大丈夫です。
先生こそ、彼女じゃなくてごめんなさい。」
「だからさ…どうして田宮は…!」
一言多い…と言う前に、目の前にスプーンを差し出して来た。
「はい、あーんして下さい。」
僕はゆっくりと口を開けてスプーンを一口、口に入れた。
ものすごく甘くて、でも幸せな感じがした。

ガッ。
「痛っ~。」
左手首を机の角にぶつけた。湿布をしてあるものの、まだ痛みが取れていない。
「…大丈夫ですか?それ、昨日のケガですね。」
田宮が心配そうな表情をした。
「先生!痛そう!これ、昨日、田宮さんがケガさせたんですってね。ひっどーい。」
「葉月!あれば事故だ。
別に田宮のせいじゃない。」
だから、葉月は面倒なんだ。
話をややこしくさせる。

「ふ~~ん。ひどいな田宮ぁ~。」
久瀬がまた、何か企んだ顔で言った。
「これって責任問題だよね。
いや、マジで!…だから。
今日一日中武本っちゃんの付き添いね!」
「はああ?付き添いなんていらな…。」
そりゃ、嬉しいけどさ。
「ダメダメ!今みたく、さらにケガしたら治るのも遅くなるし。
ちゃんと治る為にサポートしないと!
せっかくのお祭りなのに、ケガで楽しめないなんて悲劇だよねー。
あんまりだよね。
田宮のせいなんだよね。ケガしたの。
痛かっただろうなー。」
「私はそこまで、田宮さんを責めたつもりは…。」
葉月も自分のした発言に分が悪くなりシュンとしてしまった。
当たり前だ!これは久瀬の策略だ!
「…。ふぅ。判りました。
午前中は仕事があるので。
午後からはついて歩きます。」

えっ…。田宮が了解した…。
でも、それって…田宮と…田宮と文化祭デートって事だよな…。

「おう!午前中は武本っちゃん、俺といるから安心してな!」
教師の顔!うー!顔が引きつる~。
僕は緩む口元を手で隠し、視線を逸らして何とか平静を装った。
デート…田宮と…!
急展開すぎて、頭が混乱しまくりだった。
僕は落ち着こうと、胸ポケットの手帳に手を当てようとした…。
……あれ。手帳が…ない…。家に…忘れた?

どうにか4人でパフェを攻略し、僕らは1年4組の教室を出た。
「葉月ちゃん、悪いけど、俺達特別な用事あるから、ここでお別れね。」
「えー。」
葉月が残念そうな顔をした。
「用事?」
「3年のお姉ぇ様に、ご挨拶にいくんだよ。」
「3年のって…お前!」
久瀬の眼が光った。
3年のって…田宮美月って事だよな。
久瀬の行動は相変わらず判らん。

「生徒会は基本文化祭実行委員と同じで、見廻りが中心だから何処にいるから判らんぞ。」
僕と久瀬はあまり人通りの少ない旧校舎側の廊下を歩いた。
「単純だな~武本っちゃん。
っていうか、歳に比べて純情過ぎっていうか。」
「なんだよ!それ!」
「あの女の思考で行動するんだよ。
こういうイベント事は、教師との雑談や点数稼ぎにもってこいなんだよ。
先生の想い人とは真逆でね。」
「想い人って…!」
って事は教師のいるエリアか。
と言っても、教師も数人しか正式な配置は決まっていない。
しかも、どういう教師のとこにいるんだ?
「あの女の1番の目的は情報収集だ。
つまり情報を多く持っていて、なおかつ普段接触の少ない教師のところだ。」
「あ…。久瀬…本当に頭…良かったんだな…お前。
なんか性格のせいでイメージおバカだったけど。」
久瀬をほんの少し尊敬した。
「おバカってね。
偏差値70以上の俺に酷くない?
医者の息子よ、これでも。」
マジで!?イケメン金持ち天才ってどんだけ、神様は不公平なんだよ。
僕は久瀬の意見を参考に該当する教師を考えた。
「……清水先生だ!!」
魔女の狙いは清水先生だと僕は思った。

清水先生は確か放送室で運営のサポートにまわってるはずだ。
久瀬と僕は放送室へと急いだ。
放送室入り口には、案の定、田宮美月と清水先生が話し込んでいた。
この光景はいつ見ても慣れない。
緊迫感というか、緊張感というか。
「お久しぶりです。お姉さま。」
「あら?あなた…久瀬君?」
そんな中をズケズケ入って行ける久瀬って、やっぱり鉄の心臓を持ってるようだ。
清水先生が久瀬を追い越しで僕を睨んだ気がした。
「せっかく来たのでご挨拶にと…。
しかし、更にメスブタっぷりが増してますね。
色気ムンムンだ。」
「あなたこそ。
あんなチビメガネ猿がこんなに立派になるなんて。」
「ええ、俺も随分成長しましてね。
あの時とは雲泥の差に強くなりましたよ。
心身ともにね。」
「そう。泣き虫だった可愛い貴方も大好きだったのに?」
「御冗談を。
貴方のおかげで、俺は女性を見る目を養わせて頂きましたよ。
腐った女性を見る目をね、」
2人共に満面の笑みで会話してるのが、更に怖い!
「武本先生も心強い味方を手に入れたって事なのかしら。」
「!」
田宮美月が僕を見据えた。
「そちらのメスブタ軍隊には負けますよ。
嫌だなぁ。」
久瀬がかばうように僕の前に立った。
「ただ、学校なんて小さなコミュニティで女王様気取りなんて滑稽っすよ。」
「イケメンの御忠告ありがとう。
心しておくわ。
じゃあ、私、生徒会副会長だから忙しいの。
さようなら。」
「さようなら。足元にお気をつけて。
地盤が緩いと崩れるのは一瞬ですよ。」
久瀬はそう言って身を翻がえした。
僕は清水先生の視線が気になったが、とりあえず久瀬についてその場を後にした。
午後からは田宮とデートだ。

お昼少し前まで来るとさすがに客足が増えて、歩き難いのに、久瀬といると更に目立って歩き難い。
しかし、久瀬は手慣れたもので手を振ったり、写真を撮られながらもスイスイ歩いていった。
「あ!安東部長!見っーけ!」
目の前に安東部長と彼女らしき人が手を繋いで現れた。
「おう。久瀬!武本先生。
お久しぶりです。
色々お世話になりっぱなしで…。」
「いやいや、僕こそ熱を出した時お世話になって。」
「あ、こいつ僕の彼女です。中学から付き合ってるんですよ。」
「こんにちわ。」
大人しそうな、くせっ毛の髪を2つに束ねた、可愛らしい女の子らしい子だった。
「どうも。」
久瀬は少し、切ない表情で安東部長を見ていた。
「僕たち、これから昼飯食べるけど、久瀬達も一緒に食う?」
「いやいや、これから武本っちゃんと行くところあるんで。」
「そつか。じゃあまたな。」
安東部長は爽やかに手を振って去って行った。
「…久瀬…。」
「幸せそうでしょ、部長。
俺はその顔が大好きなんですよ。」
「そっか…。」
「好きな人ってさ、側で笑ってるだけでこっちまで幸せになるじゃん。すごいよな。」
「ああ…そうだな。」
久瀬の言うことはすごく判ってた…そうなんだ…側に居てくれるだけで…元気になれる…側に居てくれる空気だけで…幸せになれる。
逆に…側に居ないと…不安で…心細くて…自分が壊れそうになる…。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

降っても晴れても

凛子
恋愛
もう、限界なんです……

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。 「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく…

処理中です...