手の届かない君に。

平塚冴子

文字の大きさ
46 / 302
2学期

道化師の見解その2

しおりを挟む
久瀬はとりあえず、椅子に腰掛けた。
「でも、別に僕は死にたいなんて…!」
「ああ。そこんとこはさ…おいおい話すけど、実を言うと俺も田宮と同じ感覚を武本っちゃんに持ってる。
…死に近い位置にいるってね。
ま、本人が気が付かないケースは稀にあるさ。
…で、その問題の【危険】の意味なんだけどね~。」
久瀬が勿体ぶって引き伸ばした。
「久瀬!!」
「田宮にとって、武本っちゃんの存在が危険なんだよ、」
「危険が及ぶって事か…?」
僕が…彼女を傷つけるのか…。
「あ~~もう。ちゃう!ちゃう!
…元々、俺が武本っちゃんに期待してた事と、リンクしてんだよ。」
久瀬はオーバーに手を振った。
「…期待?僕に…。」

「田宮の世界を壊すんだよ。」

久瀬は真っ直ぐに僕を見て言った。
「田宮の世界…?」
「そう。彼女の…死に憧れ、それに従事する世界観の事だよ。
今、1番彼女に近い世界にいるのはあんただ!
彼女の世界観を崩す可能性を持ってる。
だから【危険】なんだよ!
どう理解した?先生。」
「理解って、何が何だか…。」
「ま…、でも田宮の世界を壊す前に、武本っちゃん自身が自分の世界を壊さなきゃならないだろうけどね。」
久瀬はふふんと鼻で笑った。
久瀬の話しは、理解するのに時間が必要だった。
頭の中が混乱に次ぐ混乱に陥っていた。

田宮が僕を…守る…、僕が…彼女の…世界を壊す…?
僕が…死に近い人間…??
僕自身が僕の世界を…壊す?

「武本っちゃん、焦んなくていいから。
そのうち、自分が何者か判るさ。
そんだけストレスかかってるんだ、爆発まで秒読みだよ。」
「…抽象的すぎてわからん。」
「ええ~~!せっかく説明してあげたのに??
英語教師だろ!文系じゃん!」
「あ~~もう!!清水先生にも言われたよ!
ちくしょう!」
途端に久瀬がニヤニヤして僕を覗き込んだ。
「なんだ。やっぱりいつもの武本っちゃんだ。
安心した。」
「…!!」
今の自分の格好とのギャップに恥ずかしくなった。
「但し、あくまでもこれは俺1人の見解だから、100パーセント正解とは断言できない。
それだけは、心に留めて置いてよね。
でも、俺としては嬉しいね。
田宮の為にそこまで悩んでくれるなんて。
俺にはもう、出来ないから…。
1度、あの場所から離れてしまった俺にはね。
感謝するよ。武本っちゃん。」
久瀬は意味深な笑みを浮かべた。
僕はどうしたらいいんだ…?
彼女の世界を壊すって…。
わからない…僕なんかに出来るのだろうか…。

久瀬と僕はESS教室を出た。
とはいえ、僕も含めて目立つ格好の僕等は途中、久瀬のファンに追い回され、逃げ回った。
「武本っちゃん~。田宮のクラスどこ?」
「下だ下!」
走りながら、息も切れ切れに1年の廊下に辿り着いた。
しかし…そういえば、1年4組が何をやるか聞いていなかった。
[時代甘々茶屋]
変な看板が立てられていた。
「時代…甘々…茶屋?」
「あー!イケメン君だぁ。」
牧田があんみつ姫さながらの着物を引きずりながら、やってきた。
「銀子ちゃん。どおも。コレ、何やってんの?」
「いろんな時代のコスプレの激甘々の日本茶屋なの。
お客さんもコスプレ可能。
恋人同士がより甘くなれるお店だよ。」
「やった!武本っちゃんと甘くなろー!」
「バカか!?」
店の前で騒いでいると迷惑になるので、とりあえず店内に入った。

「いらっしゃいませ。あら久瀬君。」
…息を呑んだ…。
まるでハイカラな、本物の大正時代の女性かと思うくらい、田宮のコスプレは似合っていた。
紫矢絣の振袖に紺の袴に黒のブーツ、大きなリボンの着いたパレッタで長い髪を留めていた。
写真…撮りたい…。
思わず、そう考えてしまった。
ブーツを履いてるせいか、身長も僕よりほんの少し低い程度だ。
「俺と武本っちゃんのラブラブペアにあっまーいのチョイスしてくれる?」
「なんでペア扱いだよ!」
「とりあえず、席に。
フルーツ系、クリーム系チョコレート系があるけど、どれが好みかな?」
久瀬と田宮が勝手にメニューを選び始めた。
「はぁ。ったく!」
頭を抱える僕に牧田が寄ってきた。
「およよ。武ちゃん、機嫌治ったのぉ?楽しそうじゃん!」
「なっ!た…楽しくなんかね~よ。」
「ホラ、いつもの武ちゃんじゃん!」
「うるさい!あっち行け!」
「にゃはは~。」
妖怪恋愛アンテナめ!
とりあえず、仕方なく久瀬の向かいに座った。
久瀬が僕よりコソコソ耳打ちした。
「田宮、和風顔だから、かなり似合ってるな。
…惚れ直した?」
「ほ、惚れてないんだよ!!」
惚れてるけど…。
確かに、今日の田宮は一段と知的で華麗に見えた。

「武本先生ー!ここに居たんですね。
探しました。」
また、ややこしい奴が来た。
葉月結菜が駆け寄ってきた。
「何?武本っちゃんファン?
へえ、生徒にモテんだ…へえぇ。」
「なんだよ!そのいやらしい目は!
お前!判ってるだろー!」
「こんちには。
貴方が有名なイケメンの久瀬君?
武本先生、ご一緒させてね。」
「葉月!やめろ!」
葉月は僕の隣に座った。
「うわー、積極的~~!間違い起こしちゃうぞ!先生。あっはは。」
「お前!面白がってるだけだろ!」
久瀬は僕の気持ちを知ってるだけに、腹から笑っていた。
くそー!
「お待ちどうさま。
スペシャルラブミックスです。」
田宮が巨大なパフェを持って来た。
死ぬ程甘そうだ。
「田宮も座れよ!」
「えっ…きゃ!」
久瀬が無理やり田宮の袖を引き、自分の隣に座らせた。
「じゃ、せっかくなので、ラブゲームしまーす!」
「!!」
何を言い出すんだ!久瀬!
僕は動揺した。
今しがたの話しが、まだ頭の中でグチャグチャしていたのだ。
こうやって座ってるだけで、緊張感マックスだってのに!
僕は、なるべく表情には出さないようにすましていたが、内心はパニック状態だった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

降っても晴れても

凛子
恋愛
もう、限界なんです……

処理中です...