手の届かない君に。

平塚冴子

文字の大きさ
49 / 302
2学期

哀愁のヘタレ王子

しおりを挟む
マンションに帰宅してすぐに、僕は手帳を探した。
手帳はワークデスクの上に置いてあった。
中身を確認してみる。
ちゃんと、彼女の写真が挟まっていた。
「よかった。無くさないで。」
写真を見てホッとした。
ネクタイを外してシャツのボタンを緩めた。
香苗は仕事が遅いらしい。
ベッドの上に腰掛けた。

『…僕と一緒に死んでくれと言ったらどうする?』
僕が試す為に言った言葉だったが、彼女の表情に哀しみを感じた。
あれが…もし本気の言葉だったら、彼女は同じ反応をしただろうか?
そして…僕はもし、彼女が一緒に死んでくれと言ったら…死ねるのだろうか?

やっぱり、今の僕では整理ができない。
今日だって、久瀬の助けがあっての事だ。
僕は、久瀬が田宮を理解できている事に、少しだけ妬いていた。
勉強会の人間だけに理解できる…。
久瀬はそう言った。
勉強会には特別な意味があるはず。
また、彼女は勉強会をしてくれるだろうか?

僕はそのまま、手帳を胸にして眠ってしまった。

『どうして、迷惑ばかり。』
『いい子じゃなくてもいいのよ。普通で。』
『関わるのはやめなさい。』
『そんな、友達いらないでしょ。』

うるさい…。黙れよ。
わかってる。判ってるんだ…。

『教師になるの?これで安心ね。』
『やっぱり、普通の幸せが1番よ。』

だから…もう…。
やめてくれ…。

『…せ…先生。泣かないで…。泣かないで…。』

「…田宮!!」
気がつくと、朝になっていた。
今のは…夢?
頭が少しだけ重い。
香苗は帰って来た形跡はない。
僕はシャワーを浴びて、学校に行く支度をし始めた。

文化祭2日目。
今日も文化祭は大勢の来客で賑わっていた。
「武本先生!」
「おはようございます。ロバート先生。」
あ…。久瀬とあの後どうなったんだろう。
嫌な想像をしてしまった。
「おはようございます。コレを。」
「何ですか?」
ロバート先生は封筒に入った物を僕に渡した。
「久瀬君からです。先生に渡しておいてくれと。」
「南山高校の学校祭チケット…。」
南山高校の学校祭はチケット制らしい。
ん、んん?ペア限定チケット?
「婚約者とって事ですかね。
気が利きますね~。」
「はあ。」
久瀬が…。いや、何か企んでるはず。
僕はロバート先生と別れてから、久瀬に電話をかけた。
「はいは~い。心の恋人、久瀬和也です!」
「ったく。朝からお前の声なんか聞きたく無いっつーの!何だよ、このペア限定チケットは!」
「決まってんでしょ。田宮にも言ってあるから、2人で待ち合わせして来てよ。
うちの学祭。」
「お前なぁ。」
「俺が用事あるのは田宮と武本っちゃんだけだからね~。
婚約者連れて来ちゃダメだよ。」
「何、企んでるんだ?下心ありありだろ。」
「別に~。とにかく来てよ!判った?」
「仕方ないな。
お前には借りがあり過ぎる。行くよ。」
「本当は嬉しいくせに~~。
素直じゃないんだから!」
プチッ。
久瀬の電話を切った。

僕は職員室に顔を出した。
職員室に入るなり、清水先生に捕まった。
「おっす。」
「おはようございます。清水先生。」
「席に着け、話がある。」
「はあ。」
昨日の清水先生の態度が頭をよぎる。
僕は警戒しながら席に着いた。
「昨日、午後から田宮とお前が歩いてるのを見たやつがいる。どういう事だ?」
「僕のケガが心配だっただけですよ。
周りの人間に田宮のせいでケガしたって騒がれて、仕方なくですよ。
付き添って見廻りしてただけですよ。
何なら、葉月や牧田に確認して下さい。」
僕は淡々と答えた。
「ふ~ん。じゃあ、昨日のあいつは何者だ?あのイケメン。」
やっぱり、久瀬と僕の関係性を気にしてたか。
「田宮の幼馴染ですよ。
1学期にテニス部にコート借りに来た時に、僕との面識がありましてね。」
「単なるイケメンじゃねーだろ。
昨日のあの田宮美月との互角の会話。」
「さあ。僕は詳しい事は…。」
「トボけるか…。」
僕は視線を逸らしつつ、清水先生に意地悪した。
「清水先生こそ、僕には何も話してくれないじゃないですか。ズルイですよ。」
「はぁ。まぁいい。
お前の顔色もいい感じだ。
この辺にしてやる。文化祭だしな。」
「そうですね。お祭りですし。
難しい話しは後日に。」
僕は、それだけ言うと見廻りの為に職員室を後にした。

1年4組のに来ると、昨日と同じ、ハイカラさんの衣装の田宮が教室から出て来た。
やっぱり、似合う!すげえ可愛い!惚れるだろ~これは。
「おはようございます。ケガの具合はどうですか?」
「大丈夫だ。昨日より腫れは引いてる。」
「よかった…。」
呟くように彼女が言った。
「久瀬から…聞いてるか?」
「ええ。学校祭の事ですね。」
「いいのか?僕となんかと一緒で。」
「仕方ないです。私も彼らに会いたいですし。」
「彼ら…?」
「こっちの話しです。気にしないでください。」
いや!マジ気になるよ!彼らって、男だよね!
男に会いたいって言ったよね!
僕はスマートな表情を演じつつ、内心は超ヤキモチを妬いていた、
「そっか。じゃあ、今度時間合わせよう。
後で連絡する。」
「はい。」
僕は平静を装い、2階への階段を上った。
くそっ。
田宮が他の男の話をしただけで、これだ。
僕は自分の嫉妬深さに呆れた。
そして、教師である自分を恨んだ。
もし、同じ同級生だったら、こういうイベントで急接近して恋人に…なんて展開もあるかもしれないのに。
キスしたい…。僕の物にしたい…でも、それは叶わないんだ。
切なくて胸の奥がキリキリと音を立てていた。

                                                                               
                                               
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

降っても晴れても

凛子
恋愛
もう、限界なんです……

処理中です...