手の届かない君に。

平塚冴子

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2学期

最悪の体育祭その2

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体育祭当日、僕と久瀬はわざと早めに登校した。
学校指定ジャージとマスクを久瀬に手渡し、度のないメガネを装着させた。
「その身長だけは何ともならないから、目立たないようにな。」
「あ~~い。」
「携帯は常に装着。随時連絡してくれ。」
「了解であります!大佐殿!」
「誰が大佐だっつーの!」
僕は前日からの準備で、万全の対策を取ったと、高を括っていた。
けれど…魔女の黒魔法の恐ろしさをまだ甘く見ていたんだ。
そして…最悪の体育祭が始まった。

『次の競技は障害物競走です。
担当の先生方は準備の方をお願いします。』
本部でのアナウンスを終えて、お茶を飲んだ。
今日は思ったより暑い。
「武本先生って婚約者の方とはちゃんと仲良くしてるんですか?」
田宮 美月が隣に座って話しかけてきた。
「関係ないだろ。別に。」
「あらあら。関係なくはないでしょう。
我が妹が先生をたぶらかしてるんだから。
心配してあげてるんですよ。」
「たぶらかしてるって…お前なぁ。」
「あの子の裸…想像した事あります?」
「ふざけるな!」
「胸は大きくはないですけど、肌の艶は私が保証します。
柔らかくてハリがあって…。」
「おい!」
「冗談です。武本先生へのサービスですね。」
「何がサービスだ!下品なだけだろ!」
「ふふふ。ではまた。」
何だ、この余裕がある態度。
悪意の塊のような臭気をヒシヒシと感じる。

僕は隠れて久瀬にメッセージを送った。
『どうだ?』
『今のとこ平気。^_^』
いや、絵文字必要ないだろ。暇なんだな。
『さっき、イケメン白衣見た。
金井先生?』
『多分な。』
『じゃ~話しかけてくるわ。』
え~~ちょっと待て!久瀬!
何勝手な事!下手な事すんなよ~。

「おい。武本、そろそろ本部用の弁当取りに行くから付き合え。」
「あ、はい。」
今は1年の競技中だから、取りあえず安心だ。
ただ、この後1年の競技までは結構時間が空く。
心配なのはこれからだ。
僕は清水先生と弁当を取りに食堂へと移動した。
「魔女と話してたな。
どうだった?何か感じたか?」
「それが…。
変に余裕があるって言うか…。
怪しい感じはあります。」
「そっか。」
僕はさっきの余裕たっぷりの魔女の態度に不安を感じていた。
野生の勘とでも言うような…。
食堂から本部用の弁当をケースごと持ち上げ、僕と清水先生は会場本部へと足を向けた。

「あれ…でっけぇ生徒に金井先生が絡まれてんぞ。」
「えっ!」
玄関付近で金井先生に壁ドンしてる久瀬の姿が目に入った。
げえええ!何してんだよ!
「清水先生!お弁当が先です!
ここは無視しましょう!」
「あ、ああ。そうだな。
ってか何ムキになってんのお前。」
「何でもありませんー!」
僕と清水先生は2人を横目で見ながら会場本部に弁当を持って行った。

昼休憩中、隣に田宮 美月がいるせいもあって弁当なんか喉を通らなかった。
「金井先生、あの子と付き合います宣言したそうね。
3年女子も泣いてたわ。」
「あれだけのイケメンだからな。」
田宮 美月は僕を探るように話しかけて来る。
「妬けます?2人の仲。」
「別に…彼女の自由だろ。」
「あら。武本先生は自信がお有りのようですね。」
「自信とか…そういう問題じゃ…。」
「謙遜ですか?
武本先生もなかなか可愛らしいお顔ですよ。
あははは。」
自分で言ってウケるなよ!失礼すぎるだろ!
…どうせ、僕はイケメンじゃねーよ。

結局、僕は弁当を半分も食べずに残した。
ここのところ、精神的にもピリピリしてるせいか食が細くなっていた。
体重も1週間で4kgほど減っていた。
『それでは、午後の競技を開始します。
担当の先生方は生徒の移動及び準備の方をお願いします。』
言い終えて。僕はコーヒーに手を伸ばした。
田宮 美月はまだ隣で脚を組んで座っていた。
まるで…僕の様子を見る様に…。
ブルルル!
携帯のバイブが鳴った。
しかも電話!久瀬からだ。

僕は瞬時に横目で魔女の顔を見た。
醜悪に満ちた笑みを浮かべていた。

「はい。どうし…」
「田宮が刺された!!玄関前!」
刺された…!?
ドクンドクン!心臓が激しく鳴り響く。
…田宮ー!

僕は魔女の笑みを背にして猛ダッシュした。
「おい!武本!どうした?」
清水先生の声が遠く聞こえた。
「田宮 美月…何しやがった?」
「清水先生…私は全く関係ないわ。
武本先生の問題ですよ。
武本先生のね。あははは~。」

田宮ーー!ドクンドクン。
僕は守れなかった…。
「田宮ー!…田宮!」

ドクン…ドクン。
玄関前に着いた僕は目を疑った。
久瀬が両手を押さえてる女…田宮 真朝を刺したのは…。
「香苗…!?」
香苗の足元には血の付いたナイフが落ちていた。
その横には金井先生が横たわった田宮を抱えていた。
田宮の左腕からは血が流れ出していた。

ドクン、ドクン、ドクン。
「武本先生のお知り合いですか?
警察には僕が電話しておきました。
救急車を呼ぶより僕が病院に連れて行った方が早いので連れて行きます。
いいですね。」
どうし…どうしてこんな…。

僕のせいだ…全部…全てにおいて…香苗を傷つけたのも…僕が彼女を好きになった…それが一番いけなかったんだ…。

僕は呆然とその場に立ち尽くしていた。
涙が両目から流れ出していたがそれを拭う気力もなかった。
金井先生が田宮に白衣を着せ、立ち去ろうとした。

田宮が僕の前で足を止めた。
「泣かないで…先生…私は…大丈夫だから…。
泣かないで。」
柔らかくて細い指が僕の頬をなでた。
田宮…。唇が…震えて…。
「どうして…大丈夫なんだよ!
…大丈夫な訳ないだろ!!…。」
そうだ…いつも大丈夫って…。
…田宮の言葉はそのまま取っちゃいけなかったんだ…。
大丈夫って…今にも壊れそうなくせに…!!
震える足で立ってるくせに…!
僕はなんて…バカなんだ…!!
全然大丈夫なんかじゃなかったのに…!!

「ごめんなさい…モッちゃん…私…。」
香苗は泣きくずれた。
金井先生と田宮は駐車場へと向かった。
「武本っちゃん…。
これが田宮 美月の…魔女の力なのか?」
久瀬は今までに見た事のない怒りの表情で立っていた。
「いや…全て…僕が悪いんだ…。」
遠くからパトカーのサイレンが聞こえた。
空が急に曇り出して、小雨が僕の頬を涙と一緒につたっていく。
「やっぱり…雨は…嫌いだ。」
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