手の届かない君に。

平塚冴子

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2学期

教師の手錠、学生の檻その2

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夕方からの保護者説明会の為に僕は、体育館整備に回された。
パイプ椅子を並べながら、僕は田宮の事を考えていた。

今日…1度も会うどころか見れてもいない。
昨日の金井先生の事で落ち込んでたりしないだろうか…。
眠れなかったんじゃないかな。
金井先生も悪気があった訳じゃないんだ。
結局は僕と同じ…彼女が好きで…大好きで…愛おしくて…。
想いを受け止めて欲しいだけなんだ。
僕には良くわかってる…。
よく…わかりすぎるくらいに…。

ブルルルブルルル。
田宮から!
「はい。」
「武本先生?」
「どうした?巾着なら清水先生に…。」
「違う…。金井先生から…。」
ドライブに誘ったんだな。
「あ、ああ誘われた。僕も。」
「……私…どうしていいか…。」
彼女が震えてる…そんな気がした。
怖いのかな…やっぱり…。
「行こう!一緒に。」
「えっ…。」
「行こう。少しは学校以外の空気吸わなきゃな。」
「武本先生が…そう言うなら…。
判りました。行きます。」
「せっかくの休みだからな。楽しもう。」
「はい…。」
「田宮……。」

好きだ…僕は君が…大好きなんだよ…。
こんなにも…君の事…。

「金井先生は悪い人じゃない。
怖がらなくていいから。
僕が側で観てるから。」

君は知らないだろうけど…もう…ずっと前から…ずっと…君が…。

「……はい。判りました。じゃあ。」
プッ。

僕は喉まで出かかった言葉を飲み込んだ。

広い体育館の中、独りの僕は孤独を胸に抱えていた。
自分で自分を抱きしめるので、精一杯だった…。

保護者説明会は3年の保護者が予定よりも多く、受け付けの僕も大忙しだった。
結局、夜の9時に終わり、僕は職員室でヘタっていた。
「お疲れ様。ほい。缶コーヒーで悪いが。」
清水先生が缶コーヒーをおごってくれた。
「ありがとうございます。」
コーヒーが身体に浸みた。
そうだ…田宮帰ったかな。
僕はいつものように携帯のGPSを確認した。
「えっ…!」
帰ってない!まだ学校だ!
ガタン!
僕は勢いよく椅子から立ち上がった。
「どうした?武本!」
「田宮がまだ学校に…!」
「えっ…って、お前なんで知って…。」
僕は猛ダッシュで旧理科室を目指した。
無事でいてくれ…!

バン!!
僕は旧理科室のドアを思い切り開けた。
予想外の光景だった。
「先生…何かあったんですか?」
田宮は普通に丸椅子に座り毛糸を編んでいた。

「えっ…ええ?いや…だから…こんな遅くまで残ってちゃダメだろう。」
うわー恥ずかしい!隠れたい!
「帰ろうと思ったら、外が保護者説明会の人でいっぱいで。
時間をずらそうと思って、毛糸を編んでいたら、キリが悪くなっちゃった。
…ごめんなさい。」
「いや…わかればいい。」
田宮は急いで帰り支度を始めた。

「じゃあ、帰りますね。」
「あ。待って。」
僕は彼女の耳上の髪についた毛糸クズを取った。
「きゃぁっ。」
「あ、ごめん。毛糸クズがほら。」
彼女の顔が耳まで赤くなった。
耳…触れられるの…弱いんだ…。
可愛い…めちゃくちゃ…可愛い。
「あ、ありがとうございます。」
「清水先生がまだいるから、送ってもらえ。」
「大丈夫です。1人で帰れます。」
「ダメだ…僕が許さない!行くぞ!職員室。」
「はい。」
僕は職員室に田宮を連れて行き、清水先生の車で田宮を送ってもらった。


『もう…あの子とは仲良くしないで。』
『お前の為だ。』
『普通の子とお友達になればいいのよ。』
『あの子といるとあなたまで変になってしまう。』
『あなたは普通なんだから』


わかってる…わかってるよ。
そうしなければ…また…僕の上に雨が降る。
中途半端なら…いっそ…。
傷つけ傷つき傷つけられるのであれば…。
僕一人がボロボロになれば…それで…すむのなら…。

『…先生…先生。』

君が微笑むだけで…僕は生きて行ける。
それだけで充分だ…。


翌朝、だるい身体を起こしシャワーを浴びて、気を引き締め直した。
まだ木曜か…。
今週は嫌に長く感じた。
また、今朝も全校集会がある。
岸先生の事件のおかげで、僕の事件の事は皆んな意識が行かなくなっただろう。
教師も足りなくなると言われ、今日から授業復帰出来る事になった。
コーヒーを一口飲んだ。
「さてと…行くか…。」

僕はいつもと同じ朝早く学校に着くと、旧理科準備室に行った。
モモちゃんから白衣を取って羽織り、丸椅子に座って彼女を待つ。
もう…完全に日課になってた。
おかげで遅刻する事がない。
僕は彼女の足音を耳を澄ませて待った。
一歩一歩近づく事にドキドキする感覚がたまらない。
まるで…彼女の方から…僕に近づいてくれてる様な…。
ほら…聞こえて来た…。

ガチャ。
旧理科室の扉の開く音がする。
僕は立ち上がり、中扉の小窓から彼女を見つめる。
髪を三つ編みに結い出した。
太い一本の三つ編みを左肩にかける様にしていた。
ここから右側のうなじが見えた。
「う…サービスショット。」
僕はちょっと喜んだ。
これが僕の幸せなんだと心に言い聞かせた。

全校集会では岸先生や佐藤の出席はさせず、校長と学年主任からの説明と教師と生徒の恋愛についての厳しい規制がしかれるとの発表がなされた。
清水先生が僕の顔を心配そうに見た。
僕は笑顔で答えて、田宮 真朝に視線を流した。
うつむき加減で元気がない。
笑顔が見たいのに…。

全校集会の事や、前回の事件のせいもあってか担任クラスに戻っても、葉月 結菜が近寄って来る事がなかった。
生徒も気を使ってか、どのクラスに行っても静かに授業を受けてくれた。

「武ちゃん。武ちゃん!」
「おう、牧田なんだ?」
グッと袖を引っ張られた!
廊下の端まで連れて行かれた。
「何だよ!何だよ!ンなところ連れ出して。」
「真朝がニセ学者先生とデートするの知ってる?」
「えっ…ああ。聞いた。
僕が行けって言った…。」
「最低ー!武ちゃん信じてたのに…!
裏切ったね!」
牧田が烈火のごとく怒り出した。
「裏切ったって…人聞きの悪い。」
「武ちゃんは…それが…真朝の望みだと思ってんの?」
「えっ…。
て言うか…その方が田宮の為だと…。」
ドカッ。
「うっう。」
牧田は僕の腹にキックして来た。
「真朝の方がもっと痛い想いしてんのよ!
バーカ!」
牧田はそう言うと走り去って行った。

ごめん牧田…。
僕にはこれが…精一杯なんだ。
ごめん…ごめん…田宮…。

僕は胸の手帳を強く…強く…握った。
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