手の届かない君に。

平塚冴子

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2学期

教師の手錠、学生の檻その3

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僕は中休み、田宮の書いた5体目の人形の裏が気になり、旧理科室に入った。
5体の天使の人形はキチンと元の位置に並べられていた。
僕は5体目の人形をそっと持ち上げて裏を見た。
…優…。
えっ…。どう言う事?
田宮の僕に対するイメージなのか…?
これが…田宮の気持ち…??
僕は初めて…彼女の気持ちに触れた気がした。
「自分の方が優しいくせに…。」
優しくて…優しすぎて…僕の方が辛くなる。
僕は彼女を抱きしめたい衝動を抑えながら、そっと人形を戻した。

昼休みに入り、僕は食堂に向かった。
久しぶりな感じがした。
昨日と一昨日は田宮の弁当とおにぎりだった。
…もうしばらくは、田宮の作った物はきっと食べられないだろうな。
少し残念だった。
「武本先生!ご一緒していいですか?」
「金井先生…。ええ喜んで。」
金井先生に後ろから声をかけられた。
僕と金井先生は端の方のテーブルに席を取った。

「日曜日にしましょう。ドライブ。」
「はあ。」
テンション高めの声で金井先生が言った。
「いや~。真朝君が誘いに乗ってくれるなんて思ってなかったんで、ちょっと浮き足立ってるんです。」
浮かれすぎて、こっちが恥ずかしい。
「土曜日は武本先生も久瀬君も部活があるみたいだから。」
「やっぱり久瀬ですか?はぁ。」
なんか厄介な事にならなきゃいいけど。
「武本先生もそれでいいですよね。」
「あ、はい。」
田宮に行こうと誘っておいて、行かないのはまずいよな。やっぱり。
本当はあまり乗り気じゃないんだが。
「本当は始め、断られそうになったんですよ。」
「えっ…。」
「着ていく服もないしとか…色々理由をつけてね。だから、僕が全部用意するって半ば強引な形でOKして貰ったんです。」
「そうですか…。」
僕にはないな。こういう行動力。
金井先生は見かけ以上に男っぽい人なんだな。
「武本先生や久瀬君がいると彼女も安心でしょう。」
「どうですかね…。」
久瀬の場合…安心よりもトラブルの方が心配だがな。
「牧田は来ないんですか?」
「田宮が誘ってみたそうですが、どうしても嫌だと断られたそうです。」
「…。」
牧田は僕に怒ってるんだ。
今まで結構、僕を応援してくれたのに…僕は…。
「どんな私服が好みです?武本先生は?」
「はああ?」
「田宮のですよ。
やっぱり清楚な感じですよね~。」
「…そう…ですね。普通でいいと思います。」
金井先生と話しているのがだんだんと、苦しくなってきた。
「普通って。もっと詳しく言って下さいよ。」
胸の奥がモヤモヤする。ムカムカする。
「すいません。残ってる仕事があるので。」
「あ、そうですか。ではまた。」
僕は早々にその場から離れた。

平気なはずなのに…大丈夫なはずなのに…!
ちくしょう!
何だよ!これは!
僕は自分の情けなさに腹が立っていた。
ガッ!
思わず廊下の壁を蹴ってしまった。
「器物損壊になりますよ。先生。」
…えっ…。
「田宮…。」
図書室の本を胸にして、冷静な目つきで僕の蹴った壁を指差した。
「まぁ。壊れるほど怪力には見えませんけど。」
「どうせ僕はひ弱だよ。」
僕はふくれっ面で返した。

「そうですね。
もう少し食べてもらわないと…頼りたくても頼れないですね。」

「えっ…今…何て…。」
彼女は無言で通りすぎて言った。
通りすぎた後にかすかなフローラルの香りを残して。
「…そういう事…言うなよな…あきらめがつかなくなるだろ!」
僕の胸の奥で何かがざわついていた。

「清水先生はいいですね。
ちゃんと女神が側にいて。」
「な!何だよ急に。
やらんぞ!メグちゃんは俺の物だ!
それに、お前にだって…。」
僕は職員室で思いっきりダレていた僕に
清水先生が引き気味に言った。
「…違いますよ…。
女神は僕には微笑まない。
僕なんかに…。」
「お前なぁ。
そのマイナス思考どうにかしろよ。
もっとプラスに考えられんのか?」
「……無理…。」
「まったく、手のかかる子供だなぁ!お前は。」
「どうせ、ガキですよ。
金井先生みたいな大人じゃありません。」
「ダメだ…こりゃ。」
清水先生は僕の落ち込み具合にお手上げだった。

午後一で1年4組の授業があった。
複雑な気分のまま教室に入った。
「!」
牧田が物凄く睨んで来てた。
なるべく視線を合わせないようにしよう。
あ…れ…。田宮が…いない!
さっき会ったはずなのに?
「誰か田宮がどこに行ったか知らないか?」
クラスはザワザワしたが、誰も知らないようだ。
と言うか牧田に関しては僕をガン無視していた。
とりあえず授業を始めた。
まさか…何かあったとか?
だって、さっき会ったばっかりだぞ。
えーと。だから…くそっ!
気になって授業に集中出来ない!
「所用を思い出したので、すこしの間…自習!」
僕はそう言い残し、教室を出た。
「図書室の本持ってたよな…。」
僕は図書室めがけて走った。

ガラッ。
「はあっ。はぁぁ。」
全速力て走ってしまった。
図書室のドアを開けて顔を上げて見ると
奥の机の上で本を枕に、うつ伏せで眠る田宮の姿が会った。
「ったく!驚かすなよ!」
思わず叫んでしまった。
「武本…先生…?」
彼女が僕の声で起き上がった。
「授業サボって居眠りか?」
「すいません…悩み事があって…眠れなくて…。本を調べても…わからなくて…。」
「悩み…?」
そんなに悩んでるのか?一体何を…?

「話してみろ…聞いてやるから!」
僕は田宮の方を向いて椅子に腰掛けた。
「好きって何ですか…?」
「へっ…?」
何を唐突に聞いて来るんだ?
「金井先生に何度も言われても…私…好きって…わからないんです。
好かれた事ないから…。」
「あ…!」
彼女の家庭環境には愛情というもの自体、存在しない言葉なんだ!だから…。
「だから、好きって言われると…嬉しいより…怖くて…。」
彼女の声が微かに震えていた。

ああ…抱きしめたい…抱きしめて…熱いキスをして…!
これが好きだって…僕は…君を大好きなんだよって…言えたらいいのに…!
教師なんて最悪の職業だ!ちくしょう!

僕は君を守らなきゃならない…。
教師である僕が…生徒である君を…。

「…怖がらなくていい。少しづつでいいから…慣れて行けばいいから…。
僕が側で観てるって約束したろ?」
僕は張り裂けそうな心の叫びを押し殺して笑った。
そうだ…僕は大嘘つきなんだから…。
「…でも…。」
僕は精一杯自分の気持ちに嘘をついて、彼女の頭を撫でた。
「金井先生は怖い人じゃない…。」
「…。」
彼女は何も言わなかった。
ただ…うつむいて…小さくうなずくだけだった。
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