手の届かない君に。

平塚冴子

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2学期

学者先生の思惑

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僕はカウンセリングルームを横切り、職員室へ向かった。

僕は…どうしたらいいんだ?
空回りばかりしてる気がする。
君を泣かせたくないのに…笑顔にしたいのに…結局、僕が彼女を泣かせてる気がする。
僕のせいで彼女が辛い思いをしてるんじゃないのか?
僕の存在が悪影響を及ぼしている?

【危険】なのかもしれない…。


職員室に入ると、田宮 美月とすれ違った。
「あら、武本先生。傷の具合はいかが?」
「傷?僕は怪我してないが。」
「心の傷の事ですよぉ。
あんな事があってショックだったでしょう。」
相変わらず、いやらしい物の言い方をする。
「君には関係ない。」
お前が仕組んだくせに!
「でも、ウチの妹の方が傷物になってしまったのは事実ですよぉ。
あの左腕の傷。一生残ると思うわ。
可哀想。ふふ。」
「可哀想って笑いながら言うもんじゃないだろ。」
「金井先生がいなかったら、死んでたかも。
とっさに妹を助けに走ったお掛けで左腕だけで済んだんだもの。
腹を刺されなくて良かったわ。」
「おい!」
「真朝を助けたのは、金井先生。
武本先生は…なーんにも出来なかったんですよね。」
「!」
「本当…無能ってこう言う事かしら。」
「そうだな。僕は無能だよ。」
そんな事、とっくに自覚してる。

「私の母親に会いに行ったでしょ。」
薄ら笑いを浮かべて僕を見上げた。
「ああ。怪我の事もあったからな。」
「…ヘタな事しない方が身の為いえ…真朝の為よ。先生。」
「お前、母親そっくりだな!」
「冗談でしょ。気持ちの悪い。
私はあんな下衆とは違うわ。」
「僕にはそう違いはないよ。」
「そう。まぁいいわ。
これから金井先生と密会なの。じゃあね先生。」
田宮 美月は手を振りながら職員室を後にした。

僕は職員室の自分の席に腰を降ろした。
「いつもながらにスゲェ威圧感だな魔女のやつ。」
清水先生が聖書片手に呟いた。
「はい。緊張感ハンパないっす。」
「あいつの次のターゲットは金井先生か。」
「たぶん。田宮 美月にとっては厄介な存在ですからね。可能性はあります。」
しかし、こうも事件が続くのは魔女にとってはマイナスだろう。
「しばらくは様子見か。ま、金井先生ならヘタに刺激する事もないだろう。」
清水先生は聖書を机の上に降ろした。
確かに。金井先生相手にヘタな手を打つと逆にシッポを掴まれる可能性が高い。
魔女も警戒してるはずだ。
このまま、波風立たせないでくれれば…。

左腕の傷…やっぱり残るんだよな。
まだ包帯してるからどの程度なのか分からないけど。
女の子だもんな…いくら変わってる性格とはいえ…これから先辛い思いをさせるんだ。
僕が守れなかった証拠が…彼女の腕に刻まれてるんだ。
…どうやって償えというんだ?

やっと仕事を終えて、ジャージを着替えるともう…午後7時前になっていた。
携帯のGPSを確認する。
田宮はまだ旧理科室にいるようだ。
僕は急ぎ足で旧理科準備室を目指した。

旧理科準備室に入ると中扉の小窓をすぐに覗いた。
「おい…マジかよ!」
旧理科室に田宮姉妹と金井先生がいた。
金井先生は田宮 真朝の左横に座り、2人の正面に田宮 美月がいた。
田宮 真朝は顔を下げて左腕を抱えるように座っている。

何だよ!この状況!あり得ないだろ。
こんなの彼女が辛くなるだけだ!
刺激しないだろうって…刺激しまくりじゃんか!
何やってんだ!金井先生!

「じゃあ、金井先生は本当に真朝と付き合うつもりなんですね。」
「僕はそのつもりです。
ヘタに隠しても意味がないので。
別に君を釣る餌にしている訳ではないんですよ。」
「でも、真朝にはそのつもりが無いようですけど…。
ってかこの子、そもそも誰とも付き合え無いと思いますけど。」
腕を組んで脚を組んで偉そうに彼女を指差した。
「自身たっぷりに言うね。
姉としての見解かな?」
「違うわ。感情が欠落してるのよ。
そもそもね。」
「母親やあなたがそうしたのでは?
そうしなければ、生きていけない状況に追い込んで来た。」
「そうとも言うわね。
でも出来上がってしまったこの人格を変えるのは、かなり難しいはずよ。」
「だからこそ、僕が必要なんですよ。
僕はカウンセリングのプロです。
何なら、あなたの歪んだ性格も治して見せましょうか?」
「チッ。本当、やりにくいわ。
武本みたく単純バカだったら良かったのに。」

そこで、なんで僕を引き合いに出すかな!単純バカって!

「真朝君の怪我を仕掛けたのも、やはり今の口調から言ってあなたですね。
感情的な行動は自滅しますよ。
田宮 美月さん。」
「とにかく、真朝は私があんたを拒否するように命じればその通りにするわ。」
「好きにして下さい。
ただ、そうなれば、こちらも考えなくてはならなくなりますよ。
あなたにとっては僕が敵となるのは不利だと思いますが。」
「うっ!うるさいわね。」

「僕は真朝君に危険がなければ、手加減する事も可能です。
と言ってるんですよ。
笑ってはいますけど…僕は今回の彼女の怪我についてはかなり憤りを感じているんですよ。
そうでなくとも、ウチのカウンセラーを1人潰してますよね。
会社としても大損害でしてね。」

カウンセラーを潰した?…そういえば、前のカウンセラーが清水先生に相談に来てたって…。

「それは…カウンセラーとしての腕が無かっただけでしょ。」
「利用はしていないと?」
「なっ!そこまで…。」
「僕は武本先生みたく、甘くはありませんよ。」

金井先生の穏やかな口調とは反対の鋭い視線が魔女を貫いた。

「そう…。好きにすればいいわ。
でも、私の邪魔はしないで。こっちだって受験生なんだから。
私の人生潰したら承知しないから!」

こんなにも感情的になる魔女は初めて見た。
金井先生は魔女よりも圧倒的に強かった。

「それでは、あなたの対応に期待してますよ。
田宮 美月さん。」
「真朝。あんたに命ずるわ。
金井先生と付き合うのは構わないけど…その分、報告して貰うから。いいわね。
今回は勝ちを譲るけど…負けを認め訳にはいかないのよ。」
「…はい。」

彼女は小さく、か弱い声で返事をした。
緊張感が僕にも伝わってきた。
魔女は金井先生を睨み付けるようにして旧理科室を出て行った。

「お疲れ様。これでお姉さんも少しの間は大人しくするから。」
「…はい。」
金井先生は彼女の頭を優しく撫でた。
彼女はまだ緊張していた。
「傷…まだ痛むかい?顔色が悪いね。」
彼女の左腕を持ち上げた。
「いいえ。大丈夫です。
あの…。金井先生…私…。」
「真朝君!?大丈夫か?」

この前と同じだ!田宮 美月の圧にストレスが掛かったんだ!
彼女は椅子から崩れ堕ちた。
恐らく、田宮 美月にしろ母親にしろ、彼女に掛け続けた圧力はトラウマとなって彼女のストレスを肥大化させる。

僕は慌てて、旧理科室の入り口に回ってドアを開けた。
ガチャ、バン!
「金井先生!保健室に運んで!」
「武本先生!?」
「あ…。えっ…とにかく早く!」
「そうですね。」
金井先生は彼女を抱き抱え、僕は彼女の鞄とコートを持って保健室へと向かった。
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