手の届かない君に。

平塚冴子

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2学期

恋のレッスンその2

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昼飯を食べ終え、僕は職員室に戻った。
「なんだ。弁当美味くなかったのか?」
「いえ。美味しいかったですよ。
後で洗って置くので田宮に返しておいてくれますか?」
「いいけど。浮かない顔だな。」
「いえ。別に…。」
清水先生は僕の顔を覗き込んで、呟くように言った。
「お前さ…普通にしてなきゃ…不安か?」
「えっ…。どういう意味ですか?」 
「人生なんて、多少レール外れても、後で後悔するよりマシじゃねーの?
ま、外れまくった俺が言うのもなんだけど。」
「よく…わかりません。」
「…思ったより、重症だな。その反応じゃ。」
清水先生はそう言って僕の肩を叩いて職員室を出て行った。

「武本先生。午後は5限目担当授業ありませんよね。
お話しいいですか?」
「あ…。」
金井先生が職員室に入って来た。
「ここでは、ちょっと…カウンセリングルームでいいですか?」
「はい。今行きます。」
やっぱり…昼の事だよなぁ。
僕は、金井先生の後についてカウンセリングルームに入った。

「どうぞ…座って下さい。」
「はい…。」
金井先生の机の上に田宮からであろう弁当箱が置かれていた。
「これ、真朝君からです。
美味しかったですよ。」
「そうですか…。」
僕はさりげなく視線を逸らした。
「でもね。違うんですよ。」
「はっ?違う?」
「この前のおにぎりと…。
作らされた感があるんです。このお弁当。」
「あ…!」
さすがカウンセリングの専門家。ンな事までわかるのかよ!
「…すいませんでした。
僕が…その…作れって。」
「やっぱりね。
まぁ、美味しかったので別に問題がある訳ではないんです。
ただ…。」
「ただ…?」
「 武本先生の事は素直に聞くんだなぁと思いまして。」
これは…疑ってる?僕と田宮の仲を。
「素直って訳では…。あの、金井先生。
田宮はその…人に対しての接し方がわかっていなくて。
僕は、その部分でのみ頼られてるんですよ。」
「のみ…ですか?」
金井先生は顎に手を充てて、こちらを見据えた。
「そうですか…。
日曜日の事と照らし合せてみると納得出来ますね。確かに。」
納得してくれて良かった。
「すいません。ご心配お掛けしたようで。」
「ですが…それ。
武本先生の本心ではないですよね。」
「か、金井先生!?」
「僕が今1番知りたいのは、あなたの本心なんですよ武本先生。」
「僕ですか…?そんな事…言われても。」
言える訳ない!絶対に!
「通常に考えて、不自然すぎるんですよ。
あなたの態度。」

ガタン!
「金井先生!忘れてもらっては困ります。
僕は…教師です!」
僕は勢いよく立ち上がった。
「良くも悪くも…教師なんですよ。」
自分の言葉が自分の胸に槍の様にグサグサと刺さっていた。
「そうですね。僕もうっかり忘れるところでした。」
金井先生は冷静に微笑んだ。
そして金井先生は優しく言った。
「武本先生は思った以上に教師としての自覚をお持ちのようだ。
…大変ですね。教師って。」
「……。」
僕は拳を強く握り、無言のままカウンセリングルームを出た。

終業のホームルーム後で久々に葉月 結菜が僕に近づいていた。
「武本先生。私あの体育祭の事故の件で悩んでたんです。
…でも。運命なんだと思ったんです。」
「えっ…何だ運命って。」
嫌な予感がした。
「私と先生が結ばれる運命!
だってこれで先生はフリーなんだもの。」
跳んだ発想だなおい!
全然お前、一欠片も関係ないんだよ!
あの事件は!
瞳を輝かせ、陶酔する葉月に僕は頭を抱えた。
「葉月…悪いんだが、岸先生の件で学校もピリピリしてる。
そういう行為は…。」
「それを乗り越えてこその運命です!」
乗り越えるな!乗り越えるなよ!
立ち止まって引き返せ!
「頼むよ。教師を辞めたくないんだ。
しばらく抑えてくれ。」
「でもぉ…。」
葉月は腕に絡み付いてくる。
「葉月…勘弁してくれ。」
僕は葉月を引きずるように廊下に出た。

「…武本先生はトラブるのがお好きなんですね。新しい彼女に嫌われちゃいますよ。ふふふ。」
「田宮…。」
廊下でバッタリ田宮と鉢合わせしてしまった。
「新しい彼女!?どういう事!
先生!手が早すぎます!」
葉月が烈火のごとく怒り出した。
「あ…や…違う。
いや…違わない…。
好きな人がいるんだ…。」
…僕の目の前に立ってるんだ。
「やだ!嘘!絶対認めない!」
葉月は余計に抱きついた。
「こら!やめろ!」
僕は葉月を引き剥がした。
「葉月さんって可愛いわね。
先生は幸せですね。
周りの人に好かれて。」
彼女が笑顔で僕を見上げた。

…少しくらい…ヤキモチ妬いてくれてもいいのに…。
僕の胸はムカムカし始めた。
「好きな人に好かれなきゃ意味ないだろ…。
田宮には関係ない。」
「そうですね。私には全く関係ありませんね。
武本先生自身の恋愛ですもの。」
あ~~もう!その返しが…!くそっ!

「お前こそ、金井先生と楽しくやってろ!」

思わず口から漏れてしまった…。
彼女の顔が瞬時に曇った。
「はい…そうしますね。」
田宮は僕の横を通り過ぎて階段を登って行った。
違う!そんなつもりじゃ…だから…。
僕はその場から動けなくなった。
葉月は騒ぎながら僕の上着を引っ張っていた。

放課後テニス部を終えて、ジャージのままで職員室に戻る途中でカウンセリングルームから田宮が出て来るのが見えた。
僕は廊下の隅の壁に隠れた。
ドアの前で金井先生と話してる。
ここでは遠くて話しが聞こえない。
以前より打ち解けた感じで話してる。
あ…笑った。
金井先生が彼女の髪を撫でた。
彼女は何かうなづいていた。

僕は自分の胸を押さえた。
見ていられなくなって壁に背中をついた。
「はぁぁあ。」
大きな溜息が出た。

「武本先生…。」
「あ!」
田宮が向かって来ていたのに気が付かなかった。
角の壁でうな垂れる姿を見られた。
「テニス部お終わったんですか?」
「あ、まあな。お前は?」
「金井先生とお話ししてました。
…武本先生が仲良くすれって言うから…。」
僕は目が点になった。
「はああ!?」
何だよ!それ!僕が言うからって…!
「田宮!お前なぁ!金井先生に失礼だろ!」
「でも、本当の事です。」
「そうじゃないだろ!えーっ。
もう…訳わかんね~。」
「こっちだって分かりません!
ちゃんと先生の言う通りにしてるのに…。
説明してくれなきゃわかりません。」

あ…もしかして…田宮なりに努力してるんだろうか…わからないなりに…。
無理して…僕が言ったから…。

彼女は顔を赤くして少し怒ってる。
僕は無意識に彼女の頬を撫でた。
「無理させて…ごめん…。」
指先が彼女の耳に触れた。
「ひゃっ。」
…可愛い…。
彼女は顔を真っ赤にしたままで走り去って行った。

                                                                      
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