手の届かない君に。

平塚冴子

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2学期

女の園

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午後の担当授業が無くて良かった。
僕は職員室で授業で使う資料の整理をしていた。
5時限目を終えた清水先生が職員室に入って来た。
「うぉあっ!てめぇ!
またウサギの面被りやがって!
キモいつっーの!」
「すいません。
ちょっと事情があって外せないんです。」
屋上で田宮の胸の中で泣いた僕は目が真っ赤になっていた。
「何だよ!事情って!
怖いってんだろ!外せよ!」
「うわっ!やめて下さい!」
清水先生は力づくでウサギの面を剥ぎ取った。
「ウサギの下からウサギの目…?」
「くそっ!」
僕は机の上で突っ伏して顔を隠した。
「お前…生徒にイジメにあってたのか?」
「何でそこに行き着くんですか!
どっちかつて言うとイジメてんの清水先生の方でしょうが!」
「そうだな。」
そこは、あっさり認めるんだ。
「とにかく、今は放っておいて下さい。
別に落ち込んでる訳じゃないので。」
「泣いたのにか?」
「そっ…それは…。」
どっちかって言うと今は…田宮の胸の感触を思い出して…恥ずかしい。
「…今夜、呑ませて吐かせてやる!」
清水先生は余裕の表情を浮かべた。
この下衆牧師!

その夜8時、僕と清水先生は金井先生の用意したタクシーに同乗した。
僕はこっそりとGPSで田宮の帰宅を確認した。
居酒屋か焼き鳥屋くらいに思っていた僕と清水先生は着いた場所に驚いた。

キャバクラ「グランディア」。
「金井先生!何すか!
このいかがわしい場所は!」
僕は思わず指差してしまった。
「最適な場所だよ。
田宮 美月に情報が流れない様にするにはここが1番安全なんだ。」
「嘘だろ…。」
「にしても…高価そうな店だな。
武本お前、金いくら持って来た?」
僕と清水先生は財布の心配をした。
「あ、心配しないで下さい。
僕の奢りですよ。多少は経費で落とせるので。」
金井先生は笑顔で僕等を中へ案内した。

「いらっしゃいませー!」
店内内は酒とタバコと香水の入り混じった独特の雰囲気を醸し出していた。
豪華なシャンデリアに真っ赤なベロア調のソファがいくつもの席に分かれて配置されていた。
「予約しておいた金井です。」
「お待ちしておりました。こちらです。」
ボウイが僕らを奥へと案内した。
店の一角に座ってすぐに女の子達が現れた。
「いらっしゃいませ。こんばんは~。」
むせ返る様な香水の匂いを振りまいて、派手な女の子3人が席に着いた。

「きゃ~お客さん超イケメン!タイプだわ!」
「学校の先生ですって?憧れるなぁ~。」
「やだ~若い!幾つなんですか?」
甲高い声が耳に刺さるし、キツイ香水も鼻に刺さった。

「金井先生!何で女の子まで…情報共有するんじゃないんですか?」
僕が金井先生に噛み付いた。
「あのさ…田宮 美月は学校という特殊な中にいるから、魔女の様に感じるんだ。
でもね、実は世の中の大半の女性が、同じ様なしたたかさを持ってるんだよ。
つまりは女を理解する事こそ…田宮 美月を理解する事なんだよ。」
「そうだぞ武本!女を理解しろ!ははは。」
清水先生、メチャメチャ喜んでるよ!
「まぁ。田宮 真朝君の様な女性の方が特殊なんだよ。」
「にしても!これじゃ話しが出来ません!」
僕はベタベタと触って来るキャバ嬢を押しながら言った。

「仕方ないな。ねぇ、君達は何があれば、自分が凄い人間だと実感する事が出来るかな?」
金井先生は女の子達に質問した。
「お金かなぁ~?」
「人気とか?男の数?」
「バカね~~。
自分より確実にレベルの低いブスとかいれば1番実感出来るじゃないの。
ねぇ先生。」
3人は意見をそれぞれ言った。
金井先生はニヤリと笑った。
「そうだな。全て正解…それが女性の本質だね。武本先生どうです?何が気が付きました?」
「…田宮 美月の思考回路も同じって事ですか?」
つまりは…田宮 真朝の存在が更に、田宮 美月を自信過剰にさせてるって事か?
男を手玉に取る事も、自分の権力のアピールにすぎないのか?
それが…田宮 美月そして、ひと皮むけば魔女なんかじゃない、普通の女って事か?
「こちらが、恐れ、警戒する程魔女の力は増大するんです。
逆に言えば、自分を持ち堂々としていれば魔女の方が警戒する。」
「それが…田宮 美月の対応策の基本ですか?」
「でしょうね。」
金井先生は女の子の作ってくれた水割りを一口呑んで答えた。

僕はまんまと田宮 美月に手玉に取られてた自分が恥ずかしかった。
水割りを一気に流し込んだ。
僕がもっとしっかりしてれば…。
「きゃ~先生。いい飲みっぷり。
可愛い顔なのに凄い~。」
右隣の女の子がそう言って、水割りのお代わりを作っていた。

ふと見ると、女の子の左手首のブレスレットが目に入った。金のチェーンブレスレットでプレート部分にイニシャルがくり抜かれていた。
「…これ…。」
「可愛いでしょ~。
あんまり高価じゃないのこれ。
でもね、お客さんには印象に残るの。
名前忘れても、この可愛いイニシャルの形で思い出して貰えるの。」
「…何処で売ってるんです?」
「彼女にプレゼント~?いいわ。
教えてあげる。」
僕はブレスレットのお店を教えて貰った。
…田宮 真朝に似合いそうだ。

「武本~~!お前、何女の子口説いてんだよ!
この欲求不満男!」
かなり酔ってきた清水先生が絡んできた。
「別に口説いてませんよ!
ったく話し合う前に潰れますよ!」

「そろそろ、女の子に消えて貰いましょうか?
お酒も回ってきた頃だし。
腹を割って話し出来そうですから。」
金井先生が言うと女の子達がブーブーと文句を言い出した。
「では…ガラパゴス諸島における最新の生活環境の変化による生態維持について、討論出来る女性のみ、残っていただいて結構ですよ。」
金井先生の突然の提案に、女の子達がドン引きして、静かに去っていった。
「ほらね…。僕がこう言う話を持ち出すと女の子はすぐに逃げてしまう。
だから、モテるようでモテないんですよ。
僕は。
真朝君ならちゃんと話し合ってくれるのに。」
含み笑いをしながら金井先生は僕を見た。

金井先生は田宮といつもこういう話しをしてるのか?
僕にはついて行けない。
僕が彼女と話してもすぐに…言い合いになってしまう。
もっと…色々話したいのに…。
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