手の届かない君に。

平塚冴子

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2学期

暴かれた小部屋

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翌朝、僕はいつも通りに早めに出勤して旧理科準備に入った。
倉庫にあった電気ストーブを拝借して付けた。
モモちゃんから白衣を取って羽織った。
コーヒーを入れて彼女を待った。

昨日の事を少し思い出してほくそ笑んだ。
あんな風に普通に笑いあって会話を出来た事が僕にとっては凄く嬉しい事だった。
多分、彼女が僕に合わせて話してくれたんだとわかっていても嬉しかった。
そして…彼女とお揃いのブレスレットが持てた事も。

足音が近づいてきた。
んん?違う人だ…。
早足でこっちに向かってる?
大人の足音…!

僕は慌てて席を立ち上がった。
だが…気がつくのが遅かった。

ガチャ。ガチャ。バン!
「見~~つけた。
おはようございます。武本先生。」
金井先生が勢いよく旧理科準備室のドアを開けた。
僕は固まったまま、動く事が出来なかった…。
最悪の事態だ…。

僕と金井先生はカウンセリングルームに移動した。
狭い室内に向かい合って座った。
「あの部屋…随分と居心地よさそうなところですね。」
「………。」
「いつからですか…?」
「………。」
「武本先生。ちゃんと話して頂けますか?でないと僕だって…。」
金井先生がかなりピリピリしているのが肌にまで感じ取れた。
「すいません…。あの何て言ったら…。
頭の整理が付かなくて。」
「その辺は安心して下さい。僕は話を聞くのが仕事ですから。」
にしては、腕組みして威圧感凄いんだよ。

「えっ…と4月かな~。」
「はあっ?入学して速攻じゃないですか!
キスといい、トボけた顔して、そういう事だけ早いじゃないですか!」
トボけた顔って!酷くないか?
金井先生は頭を抱え始めた。
「怒らないで下さいよ。
そもそも、初めの目的は文化祭ポスターの謎を知るためだけだったんですよ!」
「それで…今まで…?」
「田宮 美月から彼女を守る為に必要だと思ったんですよ! 
だから…帰宅までなるべく見守るつもりで!」
「…確かに。彼女を見守るには最適の場所ですね。」
冷静さを取り戻すように金井先生は大きく溜息をついた。
「すいませんでした。
言い出せなくて。」
「…マフラーの件もそこで仕入れた情報なんですね。」
「はい。」
「なるほど…。そこそこ役に立ってる訳だ。」
「まぁ。一応は…。
文化祭ポスターの件もそこで知った訳でして。」

「……。武本先生。この前お話しした、久瀬君との話し合いをしたいのですが…。」
少しの沈黙の後、金井先生が話しを切り出した。
「あ…っと。はい。わかりました。」
これ以上は断れない。
多分、金井先生が1番知りたいのは僕の事だろう。
僕の存在は金井先生にとって不快なはずだ。
「久瀬には僕から電話しておきます。
…金井先生。お願いがあります。」
「何でしょう。」
「旧理科準備室の事は内密にして頂けますか?
それと…出来れば今後も…。」
唯一の僕の安らぎの場所なんだ。
「そうですね。教師じゃない僕が教室の管理にとやかく言う権利はありませんし。
盗撮してる訳でもなさそうなので。
…真朝君の監視は絶対に必要ですからね。」
「よかった…。」
「ただし、たまには僕にもおじゃまさせて下さい。
居心地かなりよさそうなので。」
金井先生はニッコリ笑った。
「えっ…ええ~~。」
思わず金井先生と2人で旧理科準備室にいる姿を想像して、青くなった。

結局、今朝は田宮の顔を見ないで職員室へ向かう羽目になった。
しかも、久瀬と金井先生の三つ巴会議開催しなきゃならなくなった。
あ~~メンタルやられる!ヘコむ!
職員室はいつもと変わりない様子だった。
「おはようございます…清水先生。
はあああ。」
「おっ?なんだその溜息はぁ?
お前はすぐ感情ダダ漏れするんだな。」
「朝からちょっとしたアクシデントがありまして。」
僕は机の上で頭を抱えた。
「とりあえず、飯はちゃんと食えよ!
守れる物も守れなくなるぞ!」
バシッ!
出席簿で頭を叩かれた。
「わかってますよ~。」
田宮の弁当ならいくらでも食えるんだけどな…。

昼休み、金井先生が職員室にやって来た。
「武本先生、一緒に食事をしましょう。」
「へっ…。」
「行けますよね。」
笑みを浮かべる金井先生は少しだけ怖かった。
「はい…喜んで…ははは。」
弱みを握られてる分逆らえなかった。

食堂で僕と金井先生は食堂で向かい合って食事をした。
「少しだけ、久瀬君の前情報が欲しくてね。
学校も違うのに、どういう経緯で武本先生と仲良くなったんですか?」
「テニス部の関係です。
後、久瀬が田宮と連絡を取りたがったので仲介を僕がしました。」
「久瀬君はどうしてそこまで、連絡を取りたがったのですか?
同級生にしても好きな女の子でもない真朝君になぜ…。」
やはり、金井先生も2人の特異な関係性が気になる様だ。
2人を繋ぐキーワード…〈勉強会〉。
その意味は僕にもわからない。
「2人にしかわからない繋がりが小学生時代にあったようです。
久瀬は田宮のファンだと言ってますが…。」
「ファンね。まったく久瀬君は掴めない男だな。
カウンセラー泣かせってのは、ああいうタイプをいうんですよ。」
「確かに…。」
久瀬は16歳にしては、大人っぽい話術を使う。何かを含んだ喋り方で相手を揺さぶる…。
本当に小学生の時に口下手どもり癖があったのかさえ疑われる。

「金井先生…あの記憶の欠落ってどう思います?」
カウンセラーなら何かを掴めるかも…。
僕は不意に金井先生に質問した。
「記憶の欠落ですか?
事故とかではないなら、精神的ストレスの可能性がかなり高いですよ。
自分の記憶の見たくない部分に蓋をするような事ですからね。」
「やっぱり、自分の心の問題なんですね!」
「おそらくですが。
誰か思い当たる人でもいるんですか?」
金井先生が不審そうに僕を見た。
「あ、いえ。
少し気になっただけです。」
「…そうですか…。」
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