手の届かない君に。

平塚冴子

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2学期

彼女の反抗その1

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とりあえず、僕は《勉強会》を断らなければならない。
僕はさっきの保健室での事もあり、直接断るのに躊躇した。
まだ、顔を合わせるのは早いか…。
別に後悔も恥ずかしさもなかったが、彼女の赤くなった顔を思うと直接会うのは避けた方がいいと考えた。
とりあえず、旧理科準備室で彼女の帰宅を確認してから電話をしよう。
僕は旧理科準備室へと向かった。

中扉の小窓から彼女を確認した。
彼女はスケッチをしているようだ。
期末テストの勉強はまったくしていない。
「随分と余裕だなぁ。
まあ、毎回上位には入ってるが。
真面目にやればトップだって…。」
まさか…わざと成績を上げないようにしてるとか…?
そうだ…目立つ事は…田宮 美月の苛立ちを募らせる…。

僕は中扉から離れてコーヒーを入れた。
彼女にはそう長い時間がない…。
さて…どうやって自分の記憶の欠落を埋めるか…。
母親は記憶のない時期のアルバムなどは引っ越した為に処分してしまったと言っていた。
記憶が無い分、当時の知り合いを探すのも困難だ。
金井先生に相談するのも違うな…。
「ふぅ。」
どれもこれも手詰まり感がありありだ。
僕は小瓶の最後のキャンディを口に入れて溜息をついた。

夜になり、彼女の帰宅を確認してから僕はマンションへと帰った。
学校での電話は誰が聞いてるかわからないから注意しなければならない。
マンションへ帰ってから彼女に電話した方が賢明だと考えた。
マンションに着いてシャワーを浴び、リラックスしてから彼女に電話を掛けた。

「はい。」
「田宮。
《勉強会》の件なんだが…。」
「ダメ…ですか…?」
「ごめん。
今はそんな気分にはなれない。
2人きりってのも、よくないだろ。」
「…わかりました。
もしかして…久瀬君に…《勉強会》の事、聞きました?」
どうしよう…ここは聞いていない定の方がいいのか?
「いや…詳しくは聞いてない。
田宮と久瀬が仲良くなった事くらいで…。」
「そう…ごめんなさい。」
「すぐ謝るんだな電話だと。
教室では噛み付いてくるのに。」
「……おやすみなさい。」
「……。」
彼女は僕の返事を待たずに電話を切った。
心なしか寂しそうな声だった。
「こっちこそ…ごめん。」
僕は完全に切れている電話に向かって呟いた。

僕は結局自分の記憶について何も調べられないまま、期末テスト最終日を迎えた。
「今回は成績が荒れそうだな。
事故のせいで精神的に不安定の奴らが結構いるみたいだ。」
職員室で清水先生が国語の答案用紙をまとめながらボヤいた。
「本当に迷惑な女ですね。
田宮 美月は。
下手に頭の回転がいいってのがさらにムカつきますね。」
「妹とは頭の良さは同じでも、使い方がまったく逆なんだよ。
あの姉妹は…。
名前通りかな…夜と朝って言いえて妙だな。」
「そうですね。」
「そういえば…金井先生は田宮にプロポーズしたのか?」
「さぁ、まったく知りません。
テスト期間中ですし、田宮とも金井先生とも接触していませんので。」
「ふ~~ん。
随分と冷静で落ち着いてるな武本。
以前だったら動揺しまくりだぞ。」
「そうですか?
僕も少しは成長してるのかも知れませんね。」
「あ~~あ。
俺は以前のお前の方が好きだなぁ。
バカで可愛くてよぉ~。」
「残念でしたね。」
僕は清水先生を軽くあしらうと、最終教科の試験管をしに職員室を出た。

確かに…あの日倒れて保健室で寝てから、何かが吹っ切れている感覚があった。
まるで…自分の重い気持ちをどこかに置いて来た…そんな感覚だ。
不安も無いけど…無気力って訳でもない。
自分としては楽になった気がしていた。

僕は1年4組の試験管にやって来た。
期末テスト中、彼女のクラスに来たのは今日が初めてだった。
僕は彼女を意識する事なく淡々とテストを開始した。
テスト終了10前。
彼女の視線を感じた。
今までにない…鋭い…まるで…今にも闘いが始まるかのような…。
彼女の視線は僕の奥の奥まで見通してしまうくらい強烈な印象が感じられた。
一体何が起こってる…?
そうこうするうちにテスト終了時間が来てしまった。
テストを回収して、僕はそのまま職員室へ向かった。
彼女の視線がまだ脳裏に焼き付いていた。

担任クラスのホームルームを終えての職員室で、僕は英国の答案用紙の整理をしていた。
クラスごとに採点して行く。
「さて、次は一般クラス…。」
僕は一般クラスの答案用紙の採点を次々と終えて行った。
「!!」
完全な白紙答案…名前すら記入がなかった。
「おいおい!白紙答案出した奴いんのかよ!指導もんだな。反抗しすぎだろ。」
隣りで清水先生が覗き見して言った。
前後の生徒から判断した。
「田宮だ…!」
「はぁ?これは…やりやがったなあいつ。
あははははは~ウケる!こりゃ生徒指導室行き決定だな!」
「笑い事じゃないですよ。
生徒指導室!?まさか…あいつ!」

田宮の目的は…生徒指導室か!?
そうまでして《勉強会》を僕にさせたいのか?
自分の成績落とすんだぞ…。
その時僕の頭をあの言葉がかすめた。
タイムリミットは18歳…。
だから…関係ないって言うのか…?
そんな事させるか!

今はちょうど昼になったばかり…。
僕は勢いよく立ち上がると、食堂へと向かった。
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