手の届かない君に。

平塚冴子

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冬休み

聖なる夜の王子のお城 その1

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どうしよう…やってしまった…。
しかも…僕は今…マンションの風呂にお湯を溜めている…完全にアウトだろこれは!

「あ、えっ…と、田宮。
その…身体冷えてるから風呂で温まってこい。」
僕はリビングに立ちっぱなしの彼女にそう言った。
着替えとかは僕のパジャマしかなかった。
とりあえず、頂きもののシルクのパジャマを出して手渡した。
「ありがとうございます。」
彼女はわかってないのかすんなりパジャマを受け取りバスルームへと消えて行った。

僕は速攻で久瀬に電話を入れた。
「なんだよぉ~武本…」
「今すぐ来い!緊急事態だ!安東も一緒で構わない!」
「へっ…ちょっと…」
「頼む!速攻お前ん家の車飛ばして来い!」
「わーったから。
とりあえず行ってから話し聞くわ。」

僕の声に緊急性を感じて久瀬はこっちに向かってくれる。
田宮が風呂から上がる前に来て欲しいんだが。
理性保てる自信ねぇ!

すでに、僕の顔は真っ赤になっていた。

ったく!田宮の奴!
何がしたいんだよ!お前はぁ!
心臓が破裂しそうなくらいに高揚して高鳴っていた。
落ち着け落ち着け!落ち着け!
全然落ち着けねぇ~!!
想定外にも程があるだろう!
クリスマスイブに男の独り暮らしのマンションに簡単に入るなんて!

僕は1人で頭を抱えてしまった。

一線を越えるのだけは何とか阻止しないと…。
だいたい、今の状況だって学校関係者に知られたらえらい事だ!

でも、またキス出来るかも…。
「ダメだ!ンなの。」
激しく抱きしめて…。
「そんなことしたら歯止めが効かなくなる!」
誰にもバレたりしないさ…。
「そういう問題じゃない!」
僕は自問自答していた。
このままじゃ絶対、理性崩壊しちまう!

ふとワークデスクの口紅が眼に入った。
プレゼント…渡せるかも…。
僕はソファからゆっくり立ち上がると口紅に手を伸ばした。

「先生。お風呂ありがとうございます。
先生も入りますよね。
髪の毛、雪で濡れてるし。」
「あ!ああ…。」
僕は口紅を隠しながら振り返った。

「うっぐっ!」
濡れた髪は憂いを帯びて、火照った身体は薄いピンク色に染まってかなりエロい事に…。
シルクのパジャマは大きくて胸の辺りがかなりエグいV字になっていた。
目のやり場に困る!こんなの!
「こら!ドライヤーで髪の毛乾かして来い!
洗面所にあるだろ!」
僕はかなりテンパっていた。
もうっ!もうっ!もう…!

久瀬はまだか…そろそろ来てもいい頃なんだが…。

僕はイライラしながら久瀬の到着を待っていた。
そして…10分後…。

ピンポン!ピンポン!
ガチャ。
「武本っちやん!なんだよせっかく…。」
久瀬の視線が僕の隙間を通り越してソファで僕のパジャマを着てる田宮に流れた。
「…帰る。」
「わー!わー!帰るな!何考えてんだ!」
「何考えてんのはそっちだろ!
何で俺呼んでんだよ!」
「違うから!違うんだよ!」
「違ったとしてもチャンスだろ!
最後まで行っちまえよ!
ヤっちまえての!
据え膳食わぬは男の恥だぜ!」
「あーもう!」

僕は久瀬がなかなか入らないので最終手段に出た。
「安東!こっち来い!」
僕は久瀬の後ろに立つ安東の腕をガッツリ掴んで部屋に引き入れた。
「あ、ちょっと武本先生!?」
「あーーーっ!何してくれてんだよ!
安東先輩返せよ!」
雪崩れのように3人は部屋に倒れ込んだ。

「何してんですか?久瀬君も大丈夫?」
倒れ込んだ3人を田宮は心配そうに覗き込んだ。
「!」
田宮の胸のV字が奥まで見えそうになった。
「わっ!」
僕は思い切り飛び退いた。
「痛っ。何ですか?武本先生。
何があったんですか?」
状況が全く把握出来ない安東は目が点になっていた。
「いい加減ヘタレ卒業しろよ!武本っちやん!」
久瀬はヤケクソで叫んだ。

とりあえず、久瀬と安東コートをハンガーに掛けた。
僕は話しの前に急いでシャワーを浴びた。

「だから金ちゃんといなかったのか。」
僕がシャワーを浴びてる間に一通りを田宮から説明を受けた久瀬が呟いた。
「田宮さんって高1なんだ。
てっきり、大学生かと。
武本先生の彼女だと思ってました。」
シャワーを浴び終えた僕に安東が言った。
そっか、安東と田宮は初対面だった。
「にしてもだよ。
何でこの面子かな~~?
下手したら4Pかと思われるぜ。」
「よん…っておい!」
ンな訳ねぇだろ!
「4Pって、ゲームとかの4人プレイですよね?
それが何か?」
田宮がキョトンとした表情で僕を見た。
「だーって!田宮は相変わらず面白いな!
そうそう。
ゲームの事ゲームの事。」
「久瀬!下品だぞ!
すいません。
なんか、しつけがなってなくて。
後でガッツリしつけますから。」
安東は久瀬の耳を引っ張りながら言った。
「そう言えば…先生の好きな人には振られたんですね。
せっかくのクリスマスイブなのに…。」
田宮が呟くように言った。
いや…振られたとか君の口から言われたくない。
「き…気にするな!」
「くっ!くぅ…!」
久瀬が腹を抱えて笑いをこらえていた。


「ケーキ食べましょう!
せっかく貰って来たんだし。」
田宮はそう言ってキッチンに向かった。
「僕もお手伝いしますね。」
さすがオカン安東。
反応良く田宮の手伝いをしに立った。

僕と2人になった久瀬は口を開いた。

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