手の届かない君に。

平塚冴子

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冬休み

今年もよろしく その2

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時間は夜11時過ぎ、僕等は久瀬の運転手付きのジャガーで神社の少し手前まで送って貰った。
すでにかなりの人数が並んで歩いてる。

車を降りた僕等は、人の波に沿って歩き出した。
「田宮!この先、結構人の波が凄い。
離れると困るから、ちゃんと武本っちやんと手ぇ繋いどけよ。」
久瀬がそう言ってアシストパスして来た。
「じゃあ…手…繋ごうか?」
「はい。お願いします。」
寒いのもあって、頬を赤らめながら僕等は手を繋いだ。
僕の左手首のブレスレットが田宮の右手首に当たった。
なんだか、それだけでドキドキして来た。

金井先生が来る…。
金井先生はもう、クリスマスイブの事知ってるんだろうか…。
僕が彼女にプレゼントを渡した事も…。
キスした事も…?

「田宮…。その…。
クリスマスイブの事だけど…。
金井先生はなんて…?」
我慢出来ずに田宮本人に聞いてみた。
「偶然パーティなんて良かったね。
って言って貰いました。」
「偶然…。」
「そうだ。
武本先生にお礼言ってませんでした。
ありがとうございました。
とっても楽しかったです。」
「いや…こちらこそ。」

金井先生はやっぱり、彼女が僕のマンションに泊まったのを知ってるんだ。
恐らく口紅の事も、察しのいい金井先生の事だから気が付いたはずだ。
なのに…金井先生からは携帯にはなんの連絡すら入って来ない。
つまり、面と向かってじゃなきゃ話したくないのだろう。

「きゃあっ!」
「大丈夫か?」
田宮がバランスを崩して僕の腕にしがみついた。
「ごめんなさい。
この靴かかとが高くて。
久瀬君が低いのは絶対にダメだからって。」
「気にするな。
転びそうになったら、いつでも掴め。」
「はい。」
彼女が僕の袖にしがみつきながら、僕を見上げた。
除夜の鐘の音が響いてくる。

「久瀬、お前また身長伸びたのか?」
人混みの中、頭が飛び抜けていた。
「わかるー?
まだ成長期なんだよね。
もうちょいで190cmかな。」
「嫌味だよなー。
僕なんてもう伸びないよ。」
安東が悲しそうに言った。
「安東先輩はそれでいいの。
ってかその身長じやなきゃダメ!」
「はあ?何だよそれ。」
「オカンは可愛くないとね。」
「勝手だなぁ。久瀬は!
男に可愛い言われても全然嬉しくない!
大学受かったら彼女作ってやるー!」
なんだかんだ言いながら久瀬は嬉しそうにしている。

そして…年が明けた。
「あけましておめでとう!
武本っちやん!
今年もよろしくーー!」
「おめでとう。ってか…。
久瀬と今年もか?」
「ひっでーな!」
「ははは。
あけましておめでとうございます。
こんな久瀬ですが今年もよろしくお願いします。」
安東が笑いながら言った。

「あけましておめでとうございます。」
僕を見上げるようにして彼女が微笑んだ。
「おめでとう…。今年もよろしくな。」
僕は右手で彼女の頭を撫でた。

「田宮は何のお願いするんだ?」
「秘密です。
言うと叶わなくなるって言いますから。」
「そうだな。叶わなくなるのは困るな。」
賽銭箱の前でそんな会話をした。
お賽銭を投げ入れて僕等は祈った。

彼女が幸せになれますように。
僕がもっと彼女を守れますように。

「暖かい場所でお茶でもしようぜ。」
 久瀬がそう言って車を呼び出した。
「車呼ぶくらいなら帰ってもいいんじゃないか?」
安東が久瀬に問い掛けた。
「うーん。まだ家に帰りたくないんだよね。
ちょいタイミング悪いんだ。
安東先輩とも、受験前にもっと話したいし。」

久瀬が困惑した表情を見せた。
家に帰りなくない…多分母親が待っているのだろう。

「受験生連れまわすのかよ。
久瀬だから許されるんだぜ。
わかってるのか?」
「わかってますよ。」
僕等は車に乗り込んで、少し離れた場所にある24時間営業のファミレスに入った。

「あったけぇー!」
久瀬と安東が並んで座り、向かい側に僕と彼女が座った。

ピロピロリーン。
変な携帯音が鳴った。
「やっべ。金井先生だ。」
「!!」
久瀬は金井先生の電話に出る為に一旦外に出て行った。

「金井先生、これから来るんでしょうか。」
田宮が呟いた。
「来ると思うよ。絶対に。」
久瀬が僕がここにいる事は伝えてるはずだ。
絶対に猛ダッシュで来るのが予想された。
「とりあえず、何か頼みましょう。
久瀬はどうせブラックコーヒーですし。」
安東がメニューを開いてこちらに見せた。
田宮が食い入るようにメニューを見ている。
「田宮…金額関係なく好きなの頼めよ。
どうせ久瀬のおごりだから。」
「でも…どれがいいか。
コーヒーは飲めないし。
なんか選べません。」
「じゃあ、無難なところでオレンジジュースでいいんじゃないか?」
「はい。じゃあそれで。」

「仲良しですね。
付き合ったりしないんですか?」
僕等のやり取りを見ていた安東が不思議そうに言った。
「あ…いや。
田宮は教え子だし…。」
「そういえば、そうでした。
なんかあんまり、自然なんで忘れてました。」
安東は深く考えずそう言ってくれた。

自然か…周りから…そう見られてるのかな…。
嬉しいけど、やっぱり教師と生徒の関係は変えられない。

もうすぐ…金井先生が来る…。
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