手の届かない君に。

平塚冴子

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3学期

目と目で通じ合う

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1年4組…彼女のクラス。
相変わらずの騒がしさも不快に感じない。
そこに君がいるだけで…。
「先生~~!クリスマスイブはどうだった?」
「独りじゃね~寂しくさ。」
「いやいや、大人の過ごし方ってのあるだろ!」
「最低~エロ男子!」

僕は教壇で溜息をついた。
「お前等!クリスマスイブは楽しかったのか?」
「イェー楽しかったぜ!」
「いっぱい遊んだよ!」
僕の質問に生徒達は喜んで反応した。
僕はチラリと彼女に視線を送った。

「先生も楽しかった!!」

僕の言葉に生徒達は爆笑していた。
そして彼女は横を向いてクスクスと小さく笑っていた。

これでいいんだよな。
僕はもう嘘つきじゃないよな。
そうだろ…田宮。

こんなに1年4組の授業が楽しく思えたのは初めてだった。
授業の合間、合間に彼女と視線を交わし、微笑んで…。
クラスの生徒達とはバカな話しをして。
なんだかんだ忘れていた青春ってやつを少しだけ思い出すような感覚に、僕は喜びを感じていた。
初めて教師で良かったと言える日だった。

君に出会えて良かった…。
君が僕に見せてくれたんだ…。
君がいなければ、この気持ちに気がつく事は無かったんだ…。

僕は気分が高揚したままで職員室へと戻った。
浮かれ気分でいたものの、これから食事の後に葉月の件での揉め事で、女生徒に取り囲まれて断罪されるのかと思うと、複雑な心境だった。
別にビビってる訳では無かった。
ただ、厄介で面倒。
この言葉に尽きる。

「おい!いよいよ昼休みだぞ。
飯食うぞ、飯!
何だったら俺も食後行こうか?」
ニタニタしながら清水先生が教室から帰ってきた。
「それ!話しのネタにしたいだけでしょ。
面白がらないで下さい。
相手は一応、真剣なようですから。」
「随分と余裕だなぁ。
以前のお前だったらテンパってたろ。」
「ですかね。
まあ、仕方ないでしょう。
女の集団ほど面倒なものはないんで、早く済ませますよ。」
「うっ。大人になっちゃって!
俺の可愛い武本がぁ~。」
「可愛くないですよ。今も昔も!」
それから僕と清水先生は食堂に移動した。

食堂では清水先生のちょっかいをかわしつつ、急いで飯を食った。
「何だよ。もう行くのかよ。」
「言ったでしょう。
さっさと終わらせたいんですよ。」
僕は早々に食堂を出ると、彼女達の待つ
玄関ホールへと向かった。

玄関ホールには数人の女生徒と葉月が円形になって僕を取り囲む準備をしていた。
「待たせたな…で?
用件はなんだ?」
僕は両手をズボンのポケットに入れながら円形の中央部に入った。
「先生。結菜をもて遊んだの?」
「もて遊んだと葉月が思ってるのかも知れないが、別に付き合った記憶は僕にはないよ。」
「その気にさせといて!最低!」
「そうだな。最低だ。
でも、僕は別にどうこう思ってない。
葉月の受け取り方だ。」
「最低!武本ひどい!」
意味のない罵声が飛び交う。
「葉月も何とかいいなよ!」
友達に背中を押されて葉月が前に出て来た。
「武本先生。私本気だったんです。
先生にも本気になって欲しいんです。」
「はぁ。何だよ。
その勝手な論理は。
自分勝手な思い込みはやめてくれ!
葉月がどんなに本気でも、僕が葉月に本気になる事は絶対にない!!」
僕はキッパリとその場にいる全員に聞こえるように言った。
「わあああ。」
葉月が大声で泣き出し、周りがザワつき始めた。

「あら。先生。女の子泣かせるなんて。
イケメンでもないのに…。」
突然、後ろから冷静な声が聞こえて来た。
…田宮!?。
「でも、集団で囲ってる方もどうかしら?
集団は冷静な判断を狂わせるわ。」
「4組の田宮さん??」
「なんか、昔のドラマか何かでこういうシュチュエーションがあったわ。
えーと。集団リンチ。」
「な!集団リンチなんかしてないわよ。」
「そうですか?でも見た目はそっくりですからやめておいた方がいいですね。
生徒指導の先生や学年主任に見られたら大変ですもの。
せっかく特進クラスにいるんですもの。
そんな間違い、嫌ですよね。」
田宮はさりげなくなく、相手の1番痛い所をついて来た。
「…どうする?ちょっと。」
「私そこまで関係ない…。」
集団は完全に戦意喪失していた。
あっという間に大人しくなりパラパラと教室に戻り始めた。

僕を助けてくれたのか?
…そうだよな…見ているんだから。

葉月が結局1人で残った。
オロオロして目も当てられない感じだ。

「じゃあ。私は失礼します。
女の子泣かせちゃダメですよ。
ふふふ。」
「…田宮!」
彼女は僕には返事をせずに廊下を歩いて行った。

「葉月…頼むから生徒でいてくれ。」
僕は田宮の消えた廊下を見つめるながらそう言った。
「先生……?」
葉月からはキチンとした返事は返ってこなかった。

僕はもう彼女しか見えていないんだ。

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