手の届かない君に。

平塚冴子

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3学期

王子の我慢4

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かなりマズい…やはり我慢出来る自信がない。
僕は精神の安定の為にも、牧田に全てを話し、協力して貰おうと考えた。
1人で抱えると、また精神がやられそうだ。
話せる相手が1人いるだけで、きっと緩和出来るはずだ。

僕は自分の仕事をこなしつつ、昼休みを待った。

「おう!武本。昼飯どうする?食堂行くか?」
「いえ、今日はやる事があるので、コンビニでパン買って来ました。」
「ふーん。そう。じゃあ俺は食堂行くな。」
昼休みになって、清水先生が僕を食堂に誘ったが、断らなけばならなかった。
なぜなら、田宮と会う可能性があるからだ。
今の状態ではなるべくなら、牧田に会う前に彼女には会いたくなかった。

僕はパンをかじりながら、なるべく彼女を思い出さないように意識した。
ボーっとしてると、自然と彼女の姿が浮かんで来てしまう。
とにかく、早く食べて牧田を生徒指導室に呼び込まないと!

しばらく職員室で待つと、職員室に牧田がヒョコヒョコと入って来た。
「んんんんん?なんだそのメイクは!」
「派手にしろって…。」
いや…変な方向に派手だ!
歌舞伎役者かと思ったぞ!
「コホン!とにかく生徒指導へ来い!」
わざとらしく大声を出して、牧田を引っ張り、生徒指導室へと連れて行った。

ガチャ。バタン。
生徒指導室に入るなり、僕はパイプ椅子に脚を組んで座る牧田に頭を下げた。
「頼む!協力してくれ!」
まさか、生徒指導室で生徒相手に頭を下げる事になるとは思わなかった。
「なにょお?言ってみー!
この恋愛マスター銀子ちゃんに!」
平たい胸を突き出して牧田が言った。
「その前に…メイク落とせ…怖い。」
「失礼しちゃうの!」
牧田は化粧落としのシートで化粧を落とし始めた。
牧田が全部落とし切ったところで、深く深呼吸した。
「実は…。」
俺は久瀬から指示された事を事細かく説明し始めた。

ひと通り聞き終えた牧田は、口を開いた。
「あたしも、イケメン君に賛成かな。
ってか、常套手段でしょ。
恋愛のテクニックじゃん!」
「えええ~。」
やっぱり我慢か…。
「落ち込まないの!その為に協力を求めたんじゃないの?
つまり、シカト作戦中の武ちゃんに逐一、真朝の状況レポートすりゃいいんじゃん!」
「状況レポート…。」
「真朝の状況がわかんないから、不安だから余計に我慢出来ないんじゃん!違う?」
「ち…違わない!その通りだ!」
さすが!恋愛アンテナ!
「もし…真朝が、武ちゃんの事でソワソワしたり、悩んだりしたら…。
逆に嬉しいでしょ。」
僕は餌の前の犬のように首を振った。

「でもさぁ。
いくら真朝が武ちゃんを意識しても、真朝から告白はあり得ないからねー。
最後は自分でケジメ着けないと!
男としてもカッコ悪いのは嫌でしょ。」
「嫌って言ったって…。」
僕は本当に久瀬や清水先生の言う通り、ヘタレだ。
自分に自信がどうしても持てない。
「協力はするけど、逃げてばっかじゃマジでニセ学者先生に取られるよ!
告白くらいで満足しない!」
ビシッと牧田は僕を指差した。

「くっ…はい。
わかりました。努力します。」
僕は身を縮めて返事をした。
告白出来て満足じゃ、その先へは進まない。
とにかく、ほんの少しでも彼女の気持ちを揺さぶらなきゃ。

「で、銀子ちゃんの考えでは武ちゃんに、やって貰わないといけない事があるんよ。」
「え…シカトだけじゃダメなのか?」
「はああ?ダメにきまってんじゃんよ!
単なるシカトじゃなく、クールでスマートにシカトすんのよ!
余裕ある顔の演技してちょ!
ガマン汁でいっぱいですって顔はヤメてちょ!」
ガマンって…。
僕の顔は急激に赤く染まった。
「女の子が我慢汁とか言うなー!」
「およよ!赤くなんないでちょ。
溜まってるのは事実でしょ。見え見え。
そう言うのがダメなの!
クールにスマート!心に刻んでちょ!」
「…自信無ぇ。
けど、やるしかないんだよな。」
僕は生徒指導室の天井を仰いだ。
ただ見てるだけじゃ、彼女を惹きつける事なんて出来ないんだ。
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