手の届かない君に。

平塚冴子

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3学期

王子と白衣の天使2

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君が少しでも僕を感じていてくれてる。
それだけで、なんて溢れるほどの勇気が湧いて来るんだろう。
さっきまで、空っぽでスカスカだった心が、溢れんばかりに満たされていく。

魔女との話しを成功させてみせる。
いや、出来る。
僕は身体中が自信で、いっぱいになった。

運良く、金井先生は来なかった。
僕は元気を取り戻して、勇んで職員室へと向かった。

職員室では金井先生と清水先生が談笑していた。
「おはようございます。」
僕は挨拶をしながら2人の側に行った。
「おはようございます。武本先生。」
「おっす!お?予想外に元気そうだな?」
ったく、清水先生はすぐにひとの顔色見るな。
かと言って金井先生の前で、下手な事は言えない。

「気合い入れて来たんですよ。
今夜の為に!僕だってやる時はやりますから!」
「頼もしいですね。
さっき、メールで詳細を送りました。
しっかり、確認して頭に入れて置いて下さい。」
金井先生が席を立って僕の肩を軽く叩いた。
「はい。ありがとうございます。」
金井先生は職員室を出てカウンセリングルームに行ったようだ。

僕は自席に座って朝の準備を始めた。
「姫となんかしたのか?お前、浮かれてんぞ。」
「ないですよ。
会ってないし、話してもいません。」
そう、覗いてただけだし。
変態行為かなギリギリかな…。
少し恥ずかしくなった。
「まぁ、その調子なら今夜は大丈夫そうだな。
実は金井先生と話したんだが、何かあった時の為に一応、俺と金井先生は車で地下駐車場に待機する事にした。
万が一、そんな事態になったら連絡しろ。
わかったな。」
「はい。ありがとうございます。」
「一応、天堂は店ん中の何処かに潜んでるらしいが、あえてお前にはわからないところに待機して監視するらしい。」
「忍者かスパイですね、天堂さんって。
あの童顔もマスクだったりして。」
「かもなぁ。可能性は無きにしも非ずだな。」
怖いな…金井先生を敵に回すと、天堂さんに狙われそうだ。

想像してゾッとしてしまった。

僕は金井先生からのメールを確認した。

PM9:00クラブ『スカルドット』カウンター端の席の魔女に接触。
DJの彼には内密で話しをつけてある。
*飲酒してる場合、咎めずとりあえず店を出る事を優先する事。

ここから斜向かいの道を歩いて3分程。
PM9:15~喫茶店『ナナカマド』に入店。
奥の席にて魔女を説得。
*無理やりな説得はせず、魔女に合わせるように遠回しで。

翌週2月7日火曜日
PM8:30 大東大附属高校 第2会議室にて
金井、武本による魔女との話し合い。
以後、金井によるカウンセリング開始。
被害者への謝罪の対応検討。

「ふう。
大まかだなぁ。
やっぱり、お任せって事か。」
でも、それ程不安にならなかった。
今朝の白衣に包まった彼女を思い出すだけで、怖いものなんて何もない錯覚に陥っていた。
君の存在が、僕をプラス思考に変えて行く。

地図を把握して、メールを閉じた。

今日一日中は、白衣姿の彼女が脳裏から離れないだろうな。
本音を言えば、白衣を着て抱きしめてあげられたら幸せなんだけど。

魔女の前ではこんなデレデレした顔は見せられないな。
パンパン!
僕は自分の頬を叩いて気合いを入れ直した。
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