手の届かない君に。

平塚冴子

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3学期

『勉強会』への秒読み開始4

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食堂から職員室へ向かう途中で、僕はカウンセリングルームに向かった。
本来なら生徒のカウンセリング時間内なんだが、この時期はカウンセリング希望者が少ない。
運良く暇ならいいんだけど。

僕は恐る恐る、金井先生のいるカウンセリングルームをノックした。

コンコン。
「金井先生。いますか?
カウンセリング中ではないですか?」
ガチャ。
「武本先生?大丈夫ですよ。
誰もいません。どうぞ中へ。」
「失礼します。
お疲れ様です。」
僕は少しかしこまりながら中へ入った。

「どうしました?」
「少し話しいいですか?
個人的なんですが…。」
僕は申し訳無さそうな声で聞いた。
「ん…?カウンセリングですか?
珍しいですね。
さあ、掛けてください。」
金井先生に促されて席に座った。
正面に金井先生も座った。

「あの…母親に聞きにくい事を聞かなければならないのですが…。
なるべく相手を傷付けないように、したいんです。
僕は母子家庭で、母親には苦労させているので。」
「お優しいですね。相変わらず。
詳しい内容がわかりませんから、的確なアドバイスかどうか…。
ただ、子供に顔色を伺わせる事は、普通の親は1番嫌がるのではないでしょうか?
例外はありますが…。
武本先生は御自分は愛されて育ったと、思ってますか?」
「ええ。そうですね。
彼女は僕を愛して守ろうとしてくれた。
だから、僕の記憶が戻るのを拒んだ。
でも…僕はもう欠けている自分ではいたくない。
過去から逃げ出したままじゃ嫌なんです。」
「では、素直にそう言ってあげてください。
逆に、自分の子供が成長した事を喜んでくれるかもしれませんよ。」
「そうでしょうか…。」
「言えない事はあるかもしれません。
しかしながら、それで傷付くとは思えませんね。
話して貰えなければ、単に話せない内容と言うだけです。
あなたを思っての行動なだけです。」
「金井先生…相談して良かったです。」
僕は、気が楽になった。

「愛されて育った家庭の親なら、子供が素直な気持ちを打ち明けてくれたら、これ程嬉しい事はないんですよ。」
「はい。」
そうだ…田宮のように大魔女のような母親ではない。
大丈夫だ。
僕は進める!

「いつでも来て下さい。
相談に乗りますよ…あ!
恋愛以外でお願いしますね。」
いたずらっ子の顔で、髪を掻きあげながら金井先生は言った。
金井先生らしいジョークだ。
「もちろんです!ありがとうございます。」
僕は立ち上がり、一礼をした。

「頑張って下さい。
武本先生のような教師がいる事が僕にとって、理想です。
お互いに若い学生の為に力を注げる同志がいるなんて、素晴らしい事ですから。」
「はい。
以前は教師をバカにして、辞めたくて仕方なかったですが…。
今は出来る限り、続けて行きたいと思ってます。
宜しくお願いします。
では、失礼します。」
「では、またいらして下さい。」

手を振る金井先生を残して部屋を出た。

昨日の今日だし、放課後は旧理科室には行かず、前倒し出来る仕事を全て前倒ししておこう。
母親への電話もあるけど、『勉強会』へ向けて気の緩み過ぎには注意しないと。
緊張し過ぎも良くないが、浮かれてると大切な物を見逃してしまいそうだ。

浮かれるのも、気を緩めるのも全てが終わってから、いくらでもしてやる!

僕は意気込んで、午後の授業支度をしに職員室に入って行った。
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