手の届かない君に。

平塚冴子

文字の大きさ
302 / 302
3学期

武本少年の事件 小学生編3

しおりを挟む
「武本…ちょっといいか?」
「何ですか?先生。」
「給食後で職員室に来い。」

 ある日、僕は担任の教師に職員室に呼び出された。
 職員室では先生が神妙な面持ちで僕を迎い入れた。

 「武本。
 お前が、あいつに合わせてくれて、本心を言えば先生も助かってる。
 けどな…お前、母子家庭なんだし、お母さんを心配させるな。
 心配して学校に電話をして来たぞ。
 お前はあいつのような、はみ出し者じゃないだろう。
 付き合うなら、適度にして置け。
 深入りするな!いいな。」

 担任とは思えない台詞に、僕はおののいた。
 この人は、僕に差別…友達との付き合い方を区別しろと言ってるのだ。

 僕の目には【彼】よりも先生の方が、汚くて卑しくて、ズルくて…そんな人間に見えた。

 【彼】ははみ出してるのかもしれない。
 道筋から外れてるのかも知れない…けど…純粋で…鋭くて…とても…綺麗に見えた。
どんな子供よりも、どんな大人よりも、キラキラと儚い光を放っていた。
 誰にも染まらない、その立ち姿は…僕の目には眩しいくらいだ。
 
  僕は【彼】から距離を置く事はしなかった。
 その分、クラスの人達が僕との距離を取るようになったのを肌で感じつつも、そんなのは全然苦にならなかった。

  【彼】は時折、心配そうに僕を目を細めて、このままでいいのかと聞いて来た。
 見かけによらず、優しい…。
 そんな不器用な優しさも、僕にはとっても嬉しいものだった。
 誰も知らない 【彼】の事…。

  【彼】もまた、僕が動じないので心を開いてくれる様になって来た。
 僕等は2人で空き教室で語り合うようになっていた。
 
 ある日、【彼】の背後の首筋に赤いミミズ腫れを見つけた。
 
「どうしたの?これ、赤くなってるよ。」
「別に…ちょっと…。」
「そう…。」

 僕は彼が言いにくそうにしたので、無理には聞かなかったけど…脳裏にその痛々しさがこびり付いた。

 そんなある日、僕と【彼】は将来について話し出した。

「お前にとって、未来は明るいか?楽しみか?」
「よく…わからないや…あんまり考えた事ないし。
 母さんは普通の大人になってくれたらそれでいいって言ってだけど…。」
「普通か…普通って何だろうな…。
 他の奴にはすぐに手の届くところにあるんだろうけど…俺の周りにはそんな物…何処にもありはしない…。」
「リセット…出来ればいいね。
 よく、嫌な事があるとリセット出来たらいいなって思った。
 ゲームじゃないから無理なんだけど。」
「リセット…か…。
 そうだな…ぶち壊したいな…全てを。
 全てが無かった事に…ゼロでいいから…。
 特別な力も要らない…。
 単なる俺…1人の…自由な俺になれたら…。」
「ねぇ。
 将来の計画を立ててみようよ。
 どうしたら、そんな世界が作れるか。
 先生に昔、言われたんだ。
 考えがまとまらないなら書きなさいって。
 そしたら、答えが出るからって。」
「計画…?
 そうか…世界をぶち壊す計画!
 全てを壊す計画を立てよう。」
「うわぁ!なんか悪の組織みたい!
 誰にも秘密だね。
 2人だけの秘密だね!」
「ああそうだ!
 秘密の作戦だ!
 でも、これはちゃんとした計画だ。
 少しずつ、実践もして行こう。
 例えば…腹の立つクラスの奴らや、担任を少しずつ弱らせてハメてやる!」
「本格的!…出来るかな?」
「出来るさ…このままじゃ世界は変わらない!
 少しずつでも変えていかなきゃ!」
「うー!盛り上がって来たよ!
 ドキドキしてきた。」

 僕等は空き教室のロッカーに2人だけの秘密の計画ノートを隠して、休み毎に話し合うようになっていた。
そして…休日には裏山の秘密基地で作戦を立てた。
 今、思えば…現実逃避の中二病だったのかも知れない。
 だけど…その時間の僕等は…きっと、誰よりも輝いていたと思う。
 2人の想像は教室を飛び出して大きな大空を駆け巡るようペガサスのごとく自由に膨れ上がって行った。

 

 
しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

降っても晴れても

凛子
恋愛
もう、限界なんです……

処理中です...