手の届かない君に。

平塚冴子

文字の大きさ
301 / 302
3学期

武本少年の事件 小学生編2

しおりを挟む
 何の個性もない、平凡で取り柄もない僕が…変わってる…【彼】には僕が、そう見えてるの?
 まるで、僕と言う人間が初めて認識されたかの様な嬉しさが胸に込み上げて来た。
 
 ノートでにやけた顔を隠しながら、横目で彼を見た。
 肘をついて、窓の外に視線を泳がせていた。
 視線の先には雲が流れていた。
 まるで一枚の絵を見てる様なその姿が、カッコよくさえ思えた。
 
 仲良くなりたい…彼の世界を僕も知りたい!

 その後、僕は【彼】との距離を少しづつ縮めて行った。
 積極的に僕から動くなんて、自分でも驚いたがそんな事よりも、彼との時間は僕にとって、キラキラと輝いて、まるで異次元世界にいる様で、毎日がドキドキしてワクワクして、スリルと興奮の日々だった。
 教師に反抗する態度も、クラス委員長を威圧する態度も、周りがドン引きする中で、僕の【彼】に対する憧れはどんどん膨れ上がるばかりだった。
 
 そう…【彼】は僕のヒーローだった。

 「お前さぁ…俺といたら、そのうちハジかれるぞ。
 俺はずっと、そうだったから平気だけど。」
「僕だって平気だよ。
 周りに合わせて首振るのが、嫌で嫌でたまらなかったんだ。
 見えない檻の中にいるようでさ。
 君といると自由になった気がする。
 自分が行動してないのに…スカッとする!」
「あははは~マジか?
 武本の頭もヤベ~な。ははは。
 俺はもっと、もっと自由になりてぇ!
 世界をぶっ壊して、全く新しくしたい!」
「壊すの!?スゴい!
 君の考える世界の話しを聞かせてよ!」

 裏山の秘密基地で、僕等は語り合った。
 2人だけの世界は自由で、破天荒で、毎日がドキドキとワクワクの連続で…。
 時間も忘れて思わず、帰宅時間もしばしば遅くなるようになっていた。

「何処に行ってたの?
こんな遅くまで!母さん、心配で先生に電話を掛けたのよ!」
 母子家庭のウチでは、母親の帰宅時に間に合わないと大騒ぎになってしまう。
母1人子1人だから、余計に事故や事件に敏感になるのだ。
「ゴメンなさい。
 友達と遊んでるのが楽しくて…つい。」
「ねぇ正輝。
 母さんはあなたに、多くを望んでいないわ。
 勉強の成績にしろ、運動能力にしろ、ある程度あればそれでいいと思ってる。
 けどね、人の道を外れるのは辞めてちょうだい。
 最低限度、守らなきゃならない約束は守って。
 母さんの希望は、貴方がちゃんとした普通の成人に成長してくれる事だけよ。
 言ってる意味、わかるわよね。」
「はい…ゴメンなさい。」

 怒鳴るでもなく、怒るでもなく、悲しい表情でそう言われるのは辛かった。
 あれだけ、笑って楽しんだ事が…まるで罪かのようにさえ思えて、帰宅後の僕は自分を責めた。
 
 けど…【彼】との時間は僕にとって、生きる糧にさえ思えるほどの充実感なのだ。
 失いたくないし、邪魔されたくない…。
 やっと…見つけた僕の場所…。
 心の何処かで、ダメだとわかっていても…僕は【彼】の世界に浸っていたかった。
 きっと…周りの人間には危険としか思えない、彼の破滅的な思想も、僕にとっては夢の世界だったのだ。

【彼】と遊ぶようになっても、クラスの人間は僕を以前と同じ、空気のように扱った。
 ただし、【彼】は月日が経つにつれ、クラスでは汚い物でも見てるかのような視線を浴びせられるようになっていた。
 どうやら、僕は強制的に【彼】の隣の席になった、貧乏くじを引いた、可哀想なクラスの仲間の1人という位置付けみたいだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

降っても晴れても

凛子
恋愛
もう、限界なんです……

処理中です...