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第四章
国境越え、いざアルバ国入国へ④
しおりを挟む炎、暗闇を瞬時に打ち消した聖なる炎。
私が生まれてから、初めて炎を恐ろしいと思った。
まるで、地下のマグマが怒りに達して私に制裁を下しにきた様な感覚。
どんなに力を得たとしても、この大地、この空、この空気のエネルギーには到底かなう事がないのだ。
魔法もまたそのエネルギーの恩恵を受けているに過ぎない。
まるで魔法を己の力だと勘違いしていた愚かな私を、あの時の炎は嘲笑っていたのだ。
私の罪の足枷はこの先ずっと外れる事はない。
あの時、この炎の中に溶け込んでいれば…私達は…お前達と共に…。
「ナナシ、泣いてるだか?
大丈夫だへか?
腹でもこわしたのか?
だいぶ汗かいてるべ。」
心配そうに私の顔を覗き込むアルの瞳が眩しい。
どうやら思った以上に眠り込んでしまったらしい。
これから先の事を考えると、かなりのストレスだった様だ。
私は瞼から流れ出る涙を、上を向いて乾かした。
「乾燥地帯はキツいですね。
目が乾いてしまって。
大丈夫です。
心配かけてすみません。」
赤く腫れ上がった瞼を隠す様にしてマントを羽織りフードを目深に被った。
「そーだ。
店のおばさんから子守りの御礼にパンを貰ったんだ。
もう陽も落ちたし、夕飯に食べるべな。」
「いや、アル1人で食べて下さい。
私は昼に沢山食べましたし、これから交渉で緊張感で食べ物を戻してしまっては元も子もない。」
「そうか。
わかったべ。
パンは明日も食べられるし、半分はとっておくべ。」
さて、どんなに嫌な事でも時間は勝手に刻々と進んでくれる。
逃げようは無い。
腹を決めよう、あの日に比べればこんな事、大した事ないはずだ。
あの夢も、それを私に伝える為に仲間が見せてくれたのかもしれない。
私はアルが食事を終えて一眠りに入るのを待ってから、サーカスのテントへと再度向かった。
テントの灯りもまばらで、月も雲に隠れて辺りは闇と静けさを増していた。
狼と思われし遠吠えが遠くに響く。
サーカスのテントの周りには昼間いなかった馬などの草食動物達が身体を休めていた。
昼間は散歩にでも行って体力を消耗させていたのだろう。
しかしながら、動物の危険察知能力はすごいもので、なるべく気配を隠して近寄って行ったのに、3メートルくらいまで近くと、一斉に起き上がり視線を私に向けた。
「しーっ。
驚かす気はないんだよ。
大人しくしてくれるかい。」
ゆっくりなだめる様に馬の頬に優しく手を添えた。
馬がとてつもなく緊張しているのが伝わって来る。
羊達も身体を硬直して微動だにしていない。
私の圧が強いのは自分でもわかっている。
けれど、今現在のそれは他の生物を傷つけるものでは決してない。
30秒ほどして、動物達の緊張が急速にほぐれ、彼らは再び頭を下げて落ち着く様に眠りについた。
「ありがとう。
わかってくれて。」
闇がジワジワと深くなり、私の瞳は魔力を増して、金色と変わっていった。
全く、我がツノと我が名を封印しただけでは、全ての魔力を抑える事は出来なかった。
お陰で今は役に立つのだが、私は出来るならもう、魔力は極力使いたくないのだ。
しかし、いざ使うのがこういう状況下になろうとは。
まあ、後々笑い話にでもなるだろう。
「では、戦地へ出兵しましょう。」
私は深呼吸して、団長のいるテントに向かった。
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