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Side - 15 - 68 - むねがきゅんってなる -(挿絵あり)

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Side - 15 - 68 - むねがきゅんってなる -


「ラングレー王国到着!」

「これ以上転移するには魔力が不安定過ぎるから今日はここで泊まりだ」

私達はセルボ聖公国の南にあるラングレー王国に転移したのです。

「ラングレー王国は丘陵地帯と港街、2か所を経由する予定だ、ここは国土が広いからな、明日港の方に転移してもう1泊、それからいよいよギャラン大陸だ・・・そんなに嫌そうな顔するなよ・・・、まだ夕飯には時間があるからその辺歩いてみるか」

「・・・イタリアのトスカーナっぽいのです、丘の方に糸杉があって・・・葡萄畑や小麦畑・・・オリーブ」

「地球と似てるところがあるのか」

「うん、もしかしてここってワインが美味しいとか?」

「正解だ、ワインが特産品でピザも美味いぞ、俺はここのワインが好きでな、よく飲みに来る、前は遠かったから年に1回、収穫祭の時期に来てたが転移できるようになってからは結構な頻度で来てるな、例によって拠点から少しズレた、ここから歩いて少しの距離だから行こうか」

「うん、景色が綺麗だね・・・コルトの街とは雰囲気の違う田舎だぁ・・・」





しばらく歩いていると可愛いお家や小さな飲食店が点在する集落に到着したのです。

「ここだ、入るぞ」

周りの景色によく調和した煉瓦造りの2階建てレストランの前で博士に促されて中に入ります。

「いらっしゃいませ・・・あれ、オーナーじゃないですか、その子は?」

「店長、今日は俺の友人を連れて来た、美味いもん食わせてくれ、それから1泊・・・2人部屋で頼む」

「はい、ご用意しますね」

「嬢ちゃん、このレストランは俺の店でな、こいつはここで働いてもらってる店長兼シェフのディアズ・オーケー、料理の腕は確かで食材の知識も豊富だ、2階に宿泊施設もあるぞ」

「・・・よろしくです・・・」

「おや可愛らしいお嬢ちゃんだ、・・・オーナーのご友人という事は、もしかしてリーゼロッテ様ですか?」

「うん・・・そうだよ」

「初めまして、オーナーから話はよく聞いていますよ、どうぞゆっくりとお寛ぎ下さいね」

「ありがとう・・・」

「博士ぇ、ここに来る途中で服を着た奴隷が何人か居たね、あれはどうしたの?」

「あぁ、ここはデボネア帝国に近いだろ、だから向こうで貴族だった人間が皇帝から逃れて船でこの沿岸部に流れて来てるんだ、この大陸では奴隷は重犯罪人で首輪を嵌めて服を着る事は許されてないだろ、向こうは貴族全員に同じような奴隷の首輪が嵌められてる、だから首輪をして服を着ている奴は向こうの元貴族だな、紛らわしいし奴隷と間違えられたら困るからこの大陸の国々が何とかしようと話し合ってるんだが、まだ意見が纏まらない」

「そうなんだ、でも貴族に奴隷の首輪・・・」

「それに頬や肩、背中にでかい焼き印を押されてる、皇帝陛下に絶対の忠誠を誓った証らしいな」

「酷いね」

「あぁ、そうだな」

「でもこの大陸じゃ首輪は慈悲の星が3つ全部無くなった犯罪者だけに付ける事ができるんだよね、向こうの首輪は違うのかな」

「俺も見せて貰ったんだがどうやら違うらしいな、こっちの首輪は奴隷を苦しめる為の魔力を流せる人間を区別してないだろ、向こうのは皇帝とその血筋・・・あらかじめ登録している人間だけが魔力を流せるらしい、建国の大魔導士がこっちの大陸の首輪に何か改造を施したって話もあるが・・・隠蔽の偽装が凄過ぎてまだよく分かってない」

「そんなに凄いんだ、気になるなぁ、・・・アメリア様に聞いてみようか?」

「そうか、知り合いだったんだな」

「こっちの世界にも時々来てるみたいだよ、ちょっと待ってね」

「もしもしアメリア様、私、理世だよ、ちょっと聞きたい事があるんだぁ、時間いいかな?」

「・・・やぁ理世ちゃん、久しぶり、大丈夫だよ、今私はローゼリアに居るのだ、理世ちゃんはどこに居るんだい」

「ラングレー王国のレストランだよ、アップルツリーっていうお店・・・」

「あぁ!、あのワインが美味しい店だね!、私も飲みたくなったな、今からそちらに行くね!」

「わぁぁ、アメリア様!、来ちゃダメ!」

「え、何で来ちゃダメなの?、・・・のわぁぁぁ!、ドック・フューチャ居るし!」

「俺が居ちゃダメなのか・・・っていうか片目が隠れた長くて白い前髪・・・お前さん、あの時の女の子?」

「わぁぁ・・・アメリア様ごめんなさい、博士が居るって言うの間に合わなかった!」

「い・・・いや私が確認せずに転移して来たのが悪いのだ・・・まだ心の準備ができていないが仕方ない、覚悟を決めよう・・・」

「おい、待て、お前さんが建国の・・・」

「お久しぶりですドック・フューチャ、あの時は私を地獄から救い出して頂き感謝しています、あなたは命の恩人です」

「やはりあの時の嬢ちゃんか」

「そうです、そして建国の大魔導士、厄災の悪魔・・・色々な顔がありますが、宰相の側近、ターレ・パンダァとして何回かお会いしていますね」

「あいつか、宰相の関係者の中で唯一行方が分からなくなっていた男・・・だが今みたいに魔力を感じなかったぞ」

「形代・・・人形を遠隔で動かしていたのですよ、私が側に近付くと膨大な魔力がバレるので・・・ほら」

ぽん

「あ、紙人形が男の人の姿に」

「解除・・・」

シュッ・・・

「紙に戻ったのです・・・」

「凄いな・・・まぁ座れ、お前さんとは楽しい話ができそうだ、一緒に飯を食うだろ、あと酒も」

「ええ、いただきますね」

それから私達はレストランの個室で美味しいピザとパスタを食べ、ワインを飲みながらお話をしました、あ、この国では未成年でも保護者の許可があればお酒を飲めるのです・・・久々のワイン・・・美味しいのです!。

「そうか・・・そんな理由で俺との接触を避けてたのか」

「えぇ、私を助けた事で歴史が激変した、それを知ってあなたが心を痛めるのではないかと・・・だからこの事は貴方に生涯話す機会は無いだろうと思っていました」

「俺は気にしない、お前さんが人を沢山殺したとしてもそれは建国のために必要だったからだろう、俺だって今まで人を殺してきた、善人ぶる気はないしお前さんを責めたりもしない」

「感謝します」

「堅苦しい喋り方はやめよう、俺にも嬢ちゃんと話す時と同じ口調でいい」

「では、これからは博士と呼ばせてほしい・・・私は博士に救われて・・・、あれが初恋だったのだ、遠い昔の事だが思い出すと今でも胸がキュンってなる、だから今とても緊張している」

「ははは、俺が初恋か、こんな爺さんに恋しても仕方ないだろう」

「あれから私は成長して・・・身体は成長してないが・・・、長い人生の途中で愛する旦那が2人できたのだ、旦那達の最期を看取る事も出来た、でも博士にはいつか恩を返したいと思っているのだ」

「俺の気まぐれで助けたんだ、恩なんて返さなくていいさ、そういえばお前さんを預けた街の近くに石碑があっただろう、建国の大魔導士、ここに生まれる・・・ってやつ、知ってるか?」

「あぁ、あれは孤児院で一緒に生活していた友人達が金を出し合って建てたようだね、あの街は生まれ故郷ではないのだが・・・例の魔力量に関する秘密を知っているのは私と友人4人だけだった、その4人も私がやっている事を見ていただけで理解はできなかったようだ、ただ毎日魔法の練習を繰り返して大魔導士になった・・・みたいな感じでね、私には一度見たものは決して忘れない能力があった、そして博士があの時使った転移魔法陣を起動させたくて毎日魔力が切れて気絶するまで何度も練習していた」

「そうか・・・、建国の大魔導士の謎が解けたな」

「理世ちゃんが質問していた奴隷の首輪は私が始祖王エルヴィスと作ったものだ、元はギャラン大陸の古代遺跡から出土した隷属の首輪、当初それは誰にでも装着できるものでね、どこかから無理やり連れて来られた人間が奴隷にされて大問題になったのだ、だから私は首輪からの魔力を弾く慈悲の3つ星を国民全員に与えて、奴隷の首輪を装着できないようにした、装着できる条件は星が3つ全て消えている人間・・・」

「そうだったのか!、首輪を改造したんじゃなくて、国民に無効化する星を与えていたのか・・・これは盲点だった!」

「ふふふ、何日も寝ずに考えたのだ、我ながら良くできた仕様だと思う、だから星を与えられていないギャラン大陸の人間には奴隷の首輪が装着できるのだ、魔力を流せる人間についても装着させた人間の血族だけという条件を首輪から外して、そこに魔力を封印する機能を加えただけだ、特に難しい事はしていない、ギャラン大陸の首輪は皇帝の血族が貴族全員に装着させる事で初めて意味を持つ、今は一族全員死んでいるだろうから外せないただの飾りになっている筈だ、私は首輪の本当の意味をうまく隠すことに専念したのだよ」

「アメリア様凄いのです!、よくそんな事思いついたね」

「私は凄くないよ、出土した古代遺物を研究して改造しただけだ、理世ちゃんも失われた古代魔法を極めたら私より凄い事ができるだろう」

「今までどれだけ考えても解けなかった謎が解けていくぞ・・・」

「喜んでもらえて私も嬉しい、少しは恩返しになったかな、今後も質問には可能な限り答えよう、流石に始祖王と秘匿を約束した国家最高機密は話せないがね」

「そんなものがあるのです?」

「あぁ、ローゼリアの建国には色々と表に出せない闇がある、それは私が墓まで持っていくよ」

「あ、それからアメリア様から出された宿題の時間停止魔法陣なんだけどね」

「実現不可能と言われた時間停止魔法陣だと!」

「理世ちゃんごめんね、質問は後にしよう、先に博士に説明しておかないと目がキラキラしている、知りたくて今にも暴れそうだよ」

「あ、そうだよね、私もあれを実際に見た時興奮して倒れそうだったのです」

「時間停止魔法陣・・・実演して見せよう、理世ちゃんへの宿題の事があるから種明かしをしないように魔法陣は見えないように隠す・・・そこのピザの入っていたお皿をよく見ていて・・・」

「消えた・・・いや、俺の横に移動した・・・のか」

「そう、この大陸の時間を止めて・・・私がお皿を持ち上げて、博士の横に置いた、そして再び時間を動かしたのだ、地球は世界標準時間があるから世界中の時間を止めないといけなかったが、この世界にはそんなもの無いからこの大陸だけ止めた、この魔法陣は対象の範囲指定も可能なのだ、理世ちゃんには古代魔法の勉強の為にこの魔法陣を10年で完成させるように言ってある、今言っていた宿題だね」

「俺も古代魔法は文献を集めて勉強していた、だが文献が失われているものがあってな、全貌を知る事は出来なかった」

「私は一度でも見たものは正確に覚えていられる、建国前からの文献や今では失われた古代の魔導書も全てこの頭の中に入っているよ」

「だが・・・今の魔力の流れから察してなんとなく分かったぞ・・・時間停止の魔法陣があるらしいという古い文献を読んで試してみたが実現できなくてな、俺の中では不可能だと結論付けた・・・アメリア嬢ちゃんは・・・もしかしてこうしたのかな」

「あ、お皿が元の場所に戻ったのです!、博士・・・」

「あぁ、今アメリア嬢ちゃんがやって見せてくれたものと魔力の流れを推測して、俺が考えている魔法陣を少し変えたら出来た、やったぞ、200年以上考え続けていたパズルが解けた気分だ」

「博士ぇ!、酷いのです!、私の方が先に宿題を出されたのに・・・、まだ出来なくて悩んでるのに・・・ぐす・・・」

「古代魔法陣に不慣れな嬢ちゃんには少し難しかったか・・・だが嬢ちゃんなら5年もあれば完成させられるだろう」

「凄い、正解だ、一度見ただけで起動できるとはさすが博士だ、後で私の魔法陣を見せるから答え合わせをしよう、理世ちゃんに魔法陣が見えないように隠蔽しているところまで完璧に再現されている・・・ははは、参ったな・・・、おそらく博士は魔法陣に対して魔力を内から外に流して失敗していたのではないかと思う、古代魔法陣の中には外から内に向かって流さないと起動しないものがあるのだ」

「私も頑張って魔法陣を構築するのです!、負けないのです!」

「おっと、それから一つだけ注意事項・・・この魔法は他言してはいけない、今の国王陛下にも・・・誰にもだ、今この魔法陣の存在を知っているのは私と博士と理世ちゃんだけだ、この魔法陣がどれだけ危険か・・・分かるよね、建国前の時代でもこの魔法陣は禁術として魔導書や文献は全て禁書庫に厳重に保管されていたのだ」

「そりゃそうだ、これが悪用されたら窃盗や暗殺もやり放題だからな、大国を潰せるだろう」

「王族も信用してはいけない、「今」の王族や権力者と友好的であっても、その子や孫の世代が友好的だとは限らない、一度王家に知られたら文献として残される、それを見た子孫が悪用するかもしれない、私は長い人生の中で何度も何度も・・・そう言った裏切りや非道を経験してきた、それから私が生きている事もこれ以上他言しないで欲しい」

「そうだね、知ってるのは私と博士と、他にはリィンちゃんやシャルロットさんか、あの2人は他言しないだろうけど念のためにもう一度言っておくよ」

「ありがとう、私はこの力のせいで歴代の権力者に散々利用されて・・・面倒になって日本に逃げた、・・・長い時間をかけて博士の魔法陣を改造して、どこか遠くへ!って適当に起動させたら異世界の日本に転移したのには驚いたが・・・それから日本で陰陽師としての生活基盤を築いたからローゼリアでは死んだ事にして身を隠したのだ」

この後も夜遅くまでアメリア様とお話しして、博士は通信の指輪にアメリア様の連絡先も刻んでもらってました、アメリア様はギャラン大陸へ行くのなら転移で送ろうかって言ってくれたけど、博士が、明日行くラングレー王国の港街は素晴らしいって言っていたから丁寧にお断りしたのです。

「それにしても嬢ちゃんの前世の祖先がアメリア嬢ちゃんだったとはな」

「うん、まだ日本からこっちの世界に転生してきた人がいるかもしれないの、でも日本の知識を隠して生きてたら見つけようが無いからね」

「アメリア嬢ちゃんはその服を作っていた商会・・・会社を辞めたそうだが」

「うん、会社の経営が厳しいらしくて辞める人を募集してたみたいだね、退職する時お金いっぱいあげるから辞めたい人居ませんかって、それに手を挙げたみたい、でもアメリア様まだ2つの身分を持ってるし、そのうちの一つは会社の代表だからね、あ、元勤めてた会社をアメリア様が経営してるスポーツ用品の会社で買収しようかなって言ってたね」



世界地図(リーゼロッテさんの移動ルート)
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