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3章 まきしまのまち〜まじょさまのでし〜

Side LE - 15 - 26 - ふぁるこ -

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俺の名はファルコ・ウミヴォウズ、ここエスティマの街でハンターギルドのギルド長をやってる。

昨日の朝、この街の町長が急ぎの用だと俺を尋ねて来た、なんでもここら辺を治める領主様からの依頼であるハンターの情報が欲しいとの事だった。

当然俺は断った、ハンターやってる奴の中には後ろ暗い過去を持ってるのが沢山居る、基本的にギルドはハンターの素性や過去には不干渉だ、ハンターギルドの規約にもそう書いてある、どこの誰が問い合わせて来てもギルドはハンターに関する情報を売らない、これは所属するハンターを守るために必要な事だ。

だが俺が断って暫くしてまた町長が青い顔をして書類を持ってきた、ここの領主のサイン入り情報提供命令だ、領主様は遠方に住んでるのにこんな田舎に開発されたばかりの書類転移魔法陣を持ち込んでまで命令書を送って来やがった。

そのハンターは一体何をやったんだ!、俺は不安になった、領主からギルドへの命令書なんてここ数10年出た事が無い、明らかに異常な事態だった。

渋々命令書を読んだ俺は目を見開いた、レイア・ルミナスに関する情報を全て寄越せと書いてあったからだ、あの嬢ちゃんはオースター帝国のマキシマの街に行った筈だ、だが街でシェムニのクソガキと鉢合わせて契約不履行で左手が吹き飛んだって話を聞いた。

片手ではハンターは続けられないだろう、だからマキシマの街には行かず実家に帰ったと思っていたが・・・さてどうする・・・俺はどこまで話せばいいんだ、あのお嬢ちゃんは実家に帰るのには消極的だった、いじめられていたのか?、それとも無理に結婚させられそうになったのか・・・。

俺は町長に知っている事を話した、俺が話さなくても調べれば分かる事から先に・・・そして俺や限られた人間だけが知る情報も・・・。

「・・・ここまでがレイア嬢ちゃんがこの街に来てからの生活、そしてあのパーティにされた仕打ちについてだ、・・・パーティの奴らは釈放されてからまた懲りずに新人ハンターを契約で縛ろうと物色していたから俺の権限で1年間街への出入り禁止処分にしてやった、永久に入れたくなかったんだが規約違反の罰則では最長が1年だから仕方ない」

「そうですか・・・レイア様はそのような酷い扱いを・・・全て領主様に報告しましょう」

「それから彼女はここを出発する前、どこに行くのか聞いたら答えてくれたが、それは俺を信頼して教えてくれたものだ、行き先だけは本人の了承なしには明かせない、それにあくまでも予定だ、左手を失って予定を変更しているかもしれないからな」

「分かりました、改めて問い合わせがあるかもしれませんが・・・」

「向かう予定だった行き先のギルドから本人に連絡が付くか確認しておこう、そこで本人の了解が得られたら町長に連絡する」

「はい、よろしくお願いします」

「それにしても領主様は何でレイア嬢ちゃんの情報を欲しがるんだ?、俺はギルドの規約を曲げてここまで話したんだ、知っておいてもいいと思わないか?」

「それが・・・知りたいのはここの領主様ではなく、もっと上・・・彼女の実家が探しているのです」

「ルミナス家か」

「はい、当初はルミナス領の南の森でハンターの登録をする予定だったようで、でもレイア様は南行きの魔導列車に乗るべきところを間違えて北行きに・・・」

「ハハハ・・・嬢ちゃんらしいな・・・」

「それで行方が分からなくなったレイア様を心配してご家族が探しているようです」

「そうか、なら行き先を教えてもいいが、やはり本人の了解が必要だろう、その話が本当かどうか怪しいからな」

「はい、そうですね・・・では私はこれで、領主様に報告して来ます」





町長が来て3日ほど経った頃、再び面倒事がやって来た。

「なっ・・・俺に召集令状・・・だと・・・差出人は国王陛下・・・」

俺は膝から崩れ落ちそうになるのをやっとの思いで耐えた。

「明日国王陛下の使者が街に来るから町長の屋敷まで出頭の事・・・なんだ・・・王城まで来いって言うのかと思ったぞ・・・マキシマのギルド長からの連絡はまだだろう・・・距離があるからすぐに返事をくれたとしても明後日になるか、うちのギルドも早く書類転移魔法陣導入しないと不便だな・・・」





そして翌日、俺は町長の屋敷の客間に座っている。

「ご足労いただき感謝します、私、国王陛下よりの使者、シシャー・ツタエルヨーと申します」

「ご丁寧にどうも、俺は貴族では無いから礼儀に欠けるところはあると思うが許して欲しい」

「はい、問題ありませんよ、私も一介の役人でございますのでお気になさらず」

「助かる、さて俺に話とはなんだろう、レイア嬢ちゃんの事かな」

「はい、とある事情により至急行方を探す様にと陛下から厳命されております」

「町長には言ったから伝わっていると思うが、嬢ちゃんは俺を信用して行き先を教えてくれた、それに実家には帰りたくないって感じだったぞ、だから本人の了解がないと俺の口からは教えられない、他に街で仲良くしてた人間が居るだろ、そいつらには聞いたのか?」

「えぇ・・・宿の主人や仲が良いと言われていた衣料品店の娘にも聞いたのですが・・・自分の口からは教えられないと・・・」

「人徳があるな、あの嬢ちゃん、確かに人当たりも良かったし皆から好かれてた・・・」

「それで、強制ではありませんが・・・、どうか行き先を教えていただきたいのです、これは国王陛下から直々にあなたへの「お願い」だと思って下さい」

「・・・今、向かった先のギルド長に本人と連絡が取れないか問い合わせてる、もうすぐ返事が来るだろう、それまで待てないか?」

「はい・・・実は・・・これは秘密にしておいて欲しいのですが、レイア・ルミナス様はこの国の王太子殿下との婚約が内定しておりまして、本人にはまだこの事は知らされておりません、なので・・・その・・・軽はずみな行動は控えてほしいのです、例えば誰かと恋に落ちて妊娠・・・のような事態になりますと非常にまずいのです、一刻も早く本人に伝えたいと陛下は希望しておられます」

「なん・・・だと・・・あの嬢ちゃんが将来の王妃様になるのか!、俺が心配する事じゃないが・・・あれで大丈夫なのか・・・」

「あれと言うのは・・・レイア様について調べ始めて私もなんとなく察しておりますが・・・彼女は特殊な能力を持たれておりまして、他国にそれが渡ると国際問題になる可能性があるのです」

「・・・それで国に縛り付けておこうって事だな、話がでか過ぎて俺の手に負えないのは分かった、言うよ、但し俺から聞いたとは本人には言わないでくれ、それが条件だ」

「もちろんです」

「俺が聞いた時には・・・オースター帝国のマキシマの街に長く使ってないが自分の家があるって言ってたな、そこでしばらく生活するらしいが・・・左手を失って予定を変えたかもしれないから確実に居るかどうかは分からない」

「なんと・・・オースター帝国・・・」

「あぁ、そう言ってた、それに少し妙なんだが、パーティに囮に使われた後な、嬢ちゃんは普通に一人で街まで帰って来たんだよ、どう考えてもおかしいだろ、帰り道で襲ってきた魔物の魔石を沢山持って帰って来たが嬢ちゃん一人で対応できる数じゃなかった、俺は誰かと一緒に居るんじゃないか・・・しかもとてつもなく強い奴と・・・そう思った」

「・・・」

「彼女はまだ駆け出しのハンターだ、普通なら薬草の採集や雑用から始めて少しずつ経験を積んで強くなっていく、1年前まで特殊な訓練も受けてない貴族の令嬢だったんだろ、何で巨大な肉食の植物や狼型の魔物をホイホイ狩れるんだ?」

「確かに・・・妙ですね」

「あぁ、だから誰かに助けられて、そいつは表に出て来なかったが・・・一緒にオースター帝国にあるそいつの家で暮らすのかな・・・って思ってた」

ガタッ・・・

「ご・・・ご協力感謝します・・・こ・・・これは謝礼と、口止め料と思って下さい、では私はこれで失礼します!」





「やぁ、お帰り、部屋の鍵だね」

「えぇ・・・」

「レイアちゃんの情報誰かから聞けたかい?」

「いえ、皆口が固く、自分の口からは言えないと・・・もういい加減諦めようかと思っているのです、依頼主にも適当な理由を付けて報告するつもりです」

「そうかい、あのお嬢ちゃんは明るくて働き者でね、街のみんなから好かれてた、だからあの子の不利益になるような事は喋らないと思うよ」

「そうですね」

ガチャ・・・

「早く陛下に報告しないと・・・」

「報告書確認、誤字なし・・・書類転移魔法陣に乗せて・・・これでよし」

私の名前はシシャー・ツタエルヨー・・・これは偽名で本名は別にある、レオーネ王国騎士団、特殊諜報部隊の隊長を務めさせてもらっている、どこにでも居るような印象に残らない平凡な顔、平均的な体格・・・諜報員としては恵まれた身体といえるな。

私の仕事は諜報活動、そして情報操作に隠蔽工作・・・部隊を率いる長だが特に重要な任務では単独で動く、今回もそうだ、末端の諜報員は上からの指示を受け、指示された仕事だけを忠実に全うするが私は違う、陛下から直接命を受け、自分で考え、最善の行動を取る、必要であれば暗殺や破壊工作も厭わない、今回の件も突然陛下に呼び出され任務を与えられた。

エスティマの街から姿を消した貴族令嬢、レイア・ルミナスを探し、保護せよ・・・。

命令はこれだけだ、陛下から経緯は全て説明を受けている、彼女は将来の王妃だ、事は一刻を争う、私は最後にレイア嬢が目撃されたエスティマの街に向かった、エスティマの街ははっきり言って辺境の田舎だ、軍用の馬型魔道具・・・四足歩行の乗り物・・・に跨り街道を昼夜問わず駆け抜けた。

そして関係者に聞き込みをし、結果を全て陛下に報告した、予想以上に彼女は所属するパーティメンバーから酷い扱いを受けていたらしい、そして彼女の行方を知っている可能性のあるハンターギルドのギルド長を権限を与えられている陛下の名を借りて呼び出し、面会した。

「オースター帝国・・・」

ギルド長の話では彼女はオースター帝国に向かったらしい、街道に出現する魔物を殺せる力量のある誰かと一緒に・・・。

「まずいな、国外に出られてしまったか・・・」

ここからオースター帝国に行くなら一度南に向かってコルサの街、そして国境を越えてオースター帝国のシーマ・・・だろうな、それが一番無難な経路か。

彼女と一緒に居る誰かが男で、彼女に恋心が芽生えたら・・・危ないところを救われて恋に落ちる・・・私の姪が読んでいた恋愛小説の定番だ・・・。

もしその男が他国の工作員で、彼女の能力を狙っているのだとしたら・・・オースター帝国は友好国だがあの国も難民対策で頭を抱えている、当然彼女の能力を欲しがるだろう、一度保護されたら取り戻すのに苦労するぞ・・・。

私は翌日の日程を考えながら浅い眠りについた。
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