理衣さんは異世界に召喚されましたぁ!。〜病弱な僕だけが魔王を倒せるらしい〜

柚亜紫翼

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003 - あらん・ろーずまりーさんのゆううつ -

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「・・・」

「陛下・・・」

「・・・皆に見苦しい姿を晒してまったな、私は疲れたから自室に戻って休む・・・勇者殿の事は宰相とスチールに任せて良いか?」

「はい」





・・・

「はぁ・・・嫌われてしまったかな」

私の名前はアラン・ローズマリー三世、このローズマリー王国の王だ。

ここは私と妻が普段過ごしている私室・・・壁には大型のモニターを備え白黒の家具で統一された心落ち着く場所だ、隣は2人の寝室になっている、私はため息をつき中央に置かれた座り心地の良いソファに身体を沈めた。

子供達は今ごろ自室に戻っているだろうし妻はまだ仕事が残っていると言って執務室の前で別れた、今この部屋の中には私一人だ。

今日は80日前に我が国が召喚した勇者を目覚めさせ王である私から直接魔王討伐を依頼する予定だった。

「果たして我々の頼みを聞いて貰えるだろうか・・・絶対に許さない・・・か、説得するのは難しいかもしれないな」

私は最悪の手段を選ばなければならない事態を想像して頭を抱えた。







この一連の騒動は今から90日ほど前、執務室の扉を荒々しくノックし辺境に領地を持つ貴族家当主が入って来たところから始まった。

「アラン・・・いや陛下、大変だ!魔王が産まれた」

「何・・・だと、それは本当なのか!」

「国境付近で魔界からのでかい波動が観測された、過去に起きた魔王誕生時のものと酷似しているからほぼ確定だろう」

私はちょうど執務を終えて一休みしていたところだ、突然やって来た悪夢のような報告を聞いて手からカップが滑り床で砕けた、隣に居た宰相も呆然としている」

魔王の誕生・・・それはおよそ100年から150年周期で必ずやって来る厄災のようなものだ、「それ」を経験する事なく穏やかに王位を退いた歴代の王も大勢居るのに何故よりにもよって私の在位中に起きるのだ!。

「どうする?」

私に問いかける男の名はダニー・オルネン、辺境を守る大貴族オルネン家の当主で私の親友だ。

彼は王都に住み領地に戻るのは年に数回・・・25年ほど前に超高速通信網が辺境の地方都市にも整備された為、この王都に住み遠隔で領地の執務を行っている、今は貴族家当主が領地で生活しなければならない時代では無いのだ。

「王国に伝わる秘術を使い勇者を召喚するしか無いだろう」

魔王・・・文明が発展した今なお謎に包まれた存在であり、この世界に住む者には決して倒せない厄災だ。

我が国は大都市を一瞬で灰にする兵器や遠く離れた敵を正確に撃ち抜く武器も持っている、だがそれらの兵器を使っても魔王に傷一つ付ける事は出来なかった・・・私は直接見た訳ではないが王家に残る文献にそう記されている。

「魔王を倒せるのは勇者のみ・・・この世界のいかなる武力を用いても倒す事は出来ない」

これは王家に代々伝わる戒め、過去幾度となく勇者召喚を行う事なく魔王を倒そうと挑み、甚大な被害を経て学んだ教訓だ。

魔王は誕生後1年ほどで幼生期を経て成人となり人々に牙を剥く、人や動物を食らい破壊の限りを尽くしておよそ3年で消滅する、その間の被害は凄まじい、実際に過去国が幾つも滅んでいる。

文明が発展し我々人類は賢くなった、今は古代人のように気軽に勇者召喚は行えない・・・。

召喚といえば聞こえがいいがこれは誘拐だ、平穏に暮らしている勇者が何の前触れもなく知らない国に連れて来られ怪物と戦う事を強要される。

歴代の王はそのような非人道的な犯罪を「国のため」という言葉を盾に何度も行って来たのだ。

「せめて家族のいない者であって欲しいな・・・」

もちろん我々は勇者を選べないし召喚された者が善人であるとも限らない、私はこれからしなければならない事を頭の中で整理し、宰相に指示を出した。

「今から国家非常事態会議を開く、魔術師団長と騎士団長を呼んでくれ」

私は自分が落としてしまったカップの破片を掃除する執務室付きのメイドに礼を言い部屋を出た。






・・・

「報告を受けて先ほど見て来たのですが、まさかあのような子供とは・・・」

「そうじゃの、まだ子供じゃ・・・それに召喚魔法陣の肉体修復履歴を解読したところ病を患うておったようでな・・・」

「何と・・・そのような者が魔王と戦えるのでしょうか・・・」

「・・・心の臓に手術の形跡もあったのぅ、「向こう」の医学で対処はしておったようじゃ、だがあの様子では今までろくに運動もしておらぬじゃろう・・・剣すら重くて持てぬだろうよ」

「最悪だ・・・」

非常事態会議から10日後、勇者召喚が行われ無事に成功したのだが・・・報告を受けた私は膝から崩れそうになった、召喚された勇者はまだ幼い子供だったのだ。

今私は召喚を行った魔術師団長が治療を受けている医務室に来ている、召喚の「代償」を受けた師団長が倒れたのだ。

容態は不明で精密検査が必要らしくベッドに引かれたカーテン越しの会話になった、命に別状は無いが他人に姿を見せる心の準備が出来ていないらしい・・・何があった?。

「それから・・・陛下に謝らねばならぬ、当初の予定通り睡眠の魔法を使うたのじゃが、成人男性を想定しておったから効き過ぎておる、しばらく目を覚まさぬじゃろうな」

「そんな・・・」

先代の勇者召喚の時にちょっとした事故があった、召喚した勇者が武器を持っていたのだ、混乱した勇者が武器を使用して魔術師が2名負傷したと記録にあった。

だから今回は召喚場所から武器を持ち込ませないようにした、細かな調整は不可能だと師団長が言うので衣服や所持品を元の場所に残し身体だけを召喚したのだ。

「これまで数人続けて男だったので油断していました、多感な少女の裸体を魔術師団員に晒してしまったようですね・・・これは私が一発殴られて怒りを収めて貰うしか・・・」

「・・・可哀想にのぅ、あの年頃の娘ならまだ親元から引き離すべきではなかろう、それなのに有無を言わさずこの世界に連れて来てしもうた、我々は彼女に一生かけて償わねばならぬな」

魔術師団長・・・シーオ・カツドゥーンが私を諭すような口調で言った、彼女は脳を電脳化しているだけだが寿命は魔法で極限まで伸ばしている、外見は初老の女性だが今年で確か392歳になる筈だ。

それに・・・私の教育係として幼い頃から厳しく躾けられた恐ろしい家庭教師でもある、だから私は王に即位した今でも彼女に頭が上がらない。








「勇者様の身体のスキャンは終了しています、部品の製作も急ぎ進めており明後日には全て完成予定です、あとは手術開始の命令を待っている状態で・・・」

「そうか・・・」

機械化手術を担当する主任エンジニアのスチールが私に報告する、続いて宰相が口を開いた。

「この数日のうちに手術を開始しないと魔王討伐の難易度が高くなり相討ちか最悪敗北する可能性がありますな・・・」

魔王は誕生から時間の経過と共に強くなりおよそ1年で勇者耐性という特殊能力が芽生える、そうなれば討伐難易度は非常に高くなる、誕生から既に40日、我々に残された時間は少ない。

「私は手術に賛成です、この世界に住む10億の命と異世界から招いた少女一人の尊厳・・・比べるまでも無いでしょう、手術を受けて死ぬ訳ではないのですから慰謝料を支払い討伐後の生活を保証すれば問題無いのでは?」

「うむ・・・」

宰相は手術に賛成のようだ、賛成とは言っても彼には同じような年頃の娘が居る、苦渋の決断というやつだろう。

「私も賛成です、少女には気の毒ですが魔王を放置した場合に予想される被害があまりにも大きい」

騎士団長も賛成のようだ、私も既に結論は出している、だが私の言葉で一人の少女の人生が台無しになってしまう・・・辛い決断だな。

「アラン坊・・・いや、陛下の心はもう決まっておるのじゃろう、早う我らに手術を決行せよと命ずるが良い・・・もちろん陛下一人には背負わせぬ、我らも共に責任を取ろうぞ」

勇者召喚の「代償」で愉快な姿になってしまった魔術師団長が私の背を押してくれた・・・私は深呼吸し、そして声を出した。

「勇者の機械化改造手術を許可する!」








「準備が整いました」

主任エンジニアのスチールが私を見て言った。

「・・・やってくれ」

「はい、では勇者様の意識を覚醒させます」

ピッ・・・ぶぅぅぅぅん・・・。

「んぅ?」

車椅子に拘束されたまま眠っていた勇者が目を覚まし顔を上げた、10代半ばくらいだろうか・・・まだ幼さの残る少女だ。

「目が覚めたかね?」

「ここはどこ?、何で僕は縛られてるの!」

がちゃがちゃっ・・・

少女の顔に不安と恐怖の色が見える、知らない世界に連れて来られ大勢に囲まれているのだから当然だろう・・・少女の気持ちを思うと胸が締め付けられるほど辛い。

私は子供と小動物に弱いのだ!、特に小さな子供が可哀想な目に遭う映画を見ると涙と鼻水が止まらなくなるし、兄からもお前は優し過ぎるから王には向かないと言われた事がある。

「落ち着いて聞いて欲しい勇者殿、私はローズマリー王国の王、アラン・ローズマリー三世だ」

・・・自己紹介の後も少女との会話は続き一通りの説明が終わった、少女は途中で泣きそうになっていたが気丈にも我々に対し怒りを露わにした。

泣かれるよりは怒って貰った方が気が楽だ・・・。

「・・・手術したの?・・・僕に一言の相談も無く?」

少女が呟いた・・・声が震えている、私は罪悪感で涙と鼻水が出るのを我慢できなかった・・・臣下の前で泣いたのは初めてだ・・・。

「ほ・・・本当に悪かったと思っている・・・我が国では機械化改造は広く普及している技術で副作用もほとんど・・・頼む勇者殿!、我が国に力を貸して欲しい!」

「ふっ・・・ふざけるなぁ!」

少女との会話はエンジニアのスチールを交えて更に続く。

察しのいい彼女は自分の身体に何かが仕掛けられているのを見抜いた、これはかつて奴隷が存在していた時代に使われた隷属魔法・・・魔王討伐を拒否された時の為に仕込んでいた最終手段だ。

私が魔力を浴びせると少女は酷く苦しみ始めた、幼い少女にこんな虐待紛いの事をするのは心が痛む、だが仕掛けが起動するとどうなるのか知っておきたいと彼女が強く主張したので仕方なくやった。

「わぁぁぁん!、もう無理っ!お願いやめて痛いよぅ!」

私は魔力の放出を止め、倒れて泣いている彼女に声をかけた。

「大丈夫か?」

「うぐっ・・・大丈夫・・・これじゃぁ命令には逆らえないね・・・まるで奴隷だ・・・」

・・・今私達は彼女にとても酷い事をしている、どうか魔王討伐だけは拒否しないで欲しい、私だって痛めつけて従わせるような事はしたくない。







・・・

私は手元に置いてある端末を操作し小型モニターを起動させた、これで勇者の部屋に設置してある監視カメラの映像が確認できるのだ。

べ・・・別にいやらしい目的で見ているのではないぞ!、あの少女の様子が気になるだけだっ!。

少女はベッドの上に仰向けで寝かされている、目を瞑っているから寝ているのかもしれない・・・よく見ると目元から涙が流れているではないか!・・・。

フルフル・・・

「うあぁぁぁ!、なんて可哀想なんだぁぁぁ、私は!・・・私はどうすればぁぁぁ!」

ピッ・・・

プシュー

「・・・何をしているのです?」

私が立ち上がり涙と鼻水を流しながら天を仰いで悶絶しているところに妻が入って来た・・・。
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