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第一章
第一話 何一つ変わらない日常
しおりを挟む「うーん……」
少し伸びをすれば、寝方が悪かったのか、ぽきぽきと音がなる。
あの火事の日から数年。
隣町に避難した俺たちは、町の人たちに村が火事になったことを伝えれば、町の自警団の人たちからも事情を聞かれ、一度村へと戻ることとなった。
燃え尽きた家や人は黒く染まっており、一部の場所からはまだ黒煙が立ち上ぼり、心のどこかで夢か何かであることを願っていた『それ』が現実であることを、いやでも理解させられた。
『フレイヤ、強くなろう。強くなって、お母さんたちを安心させよう』
守ろうと決意したきっかけが、あの晩泣いていたルーナリアだったのだとしても、強くなるための道を決意したのは、この日が最初だった。
『そうだね』
今はまだ子供だけど、大人になってからも少しぐらいは戦えるように。
『私も一緒に強くなるから』
そして、俺は剣を、ルーナリアは魔法を、町や自警団の人たちに教えてもらったり、団員相手に練習したり、模擬戦したりしながら、そんな生活を続けていき……今現在。いつもと何一つ変わらない朝が来た。
「おはよー」
さっさと着替えて、愛用の剣を手に部屋を出て、旅の相方――ルーナリアに声を掛ければ、「おはよう」と返ってくる。
「今から朝練?」
「ああ……しなきゃその分、腕が落ちるし鈍るからな。それに、俺が弱いせいで、お前にも負担かけてばかりなのもな」
「気にしなくてもいいのに」
「そっちが気にしなくても、俺が気にするんだよ」
せめて、身近にいる奴らぐらいは守れるようにはなっておきたい。
「そっか。いつものことだけど、終わったら声掛けて。ご飯用意するから」
「んー」
そう返して、庭に出る。
まだ早朝だからか、ほとんど人気も無く静かで、空気も澄んでいる。
鞘から剣を抜き、まずは普通に軽く振ってみる。
そして、そのまま袈裟、逆袈裟と様々な角度で振ったり、持ち方を変えたりしながらも振っていく。
「そういや、こいつとはもう長い付き合いか」
愛用の剣に目を向ける。
初心者用の剣を手放してから手に入れた、最初の剣。
結局、相性が良かったのか、初心者用と同じ種類の剣を選んでしまった。
「まあ、あまり大きいものを選んでも、今のお前には使えんから、それぐらいの大きさの方が良いかもしれんなぁ!」
がっはっはは! と隣で大声で笑いながらそう言っていたが、うるさかったのだろう。一緒に見に来てくれた自警団の幹部であるおっさんは、「うるせぇぞ、ウルグ!」と鍛冶屋のおっさんに、さらに大きい声で怒られていた。おかげで耳が痛い。
一方のルーナリアは、というと自警団に常駐している魔導師のお姉さん――年齢不詳、見た目からしてもう『お姉さん』という言い方しか合わないような人――から魔法を教えてもらい、俺が剣を選びに行った日にルーナリアたちも魔導師用の道具をいくつか見てきたらしい。
「買わなかったのか?」と聞けば、魔導師専用のタクトは買ったらしく、「別に杖でも良かったんだけど、管理や持ち運びとか諸々を考慮して、こっちにした」と返された。
「そろそろ終わりにするか」
中に戻って、ルーナリアに声を掛ければ、「んー。それじゃ、こっちはご飯作っておくから、早くシャワー浴びておいでー」と返事をもらったので、部屋に付いている簡易シャワー室に向かう。
「今日は何なんだろうなぁ……」
ルーナリアが作る食事は、その時その時で変化するから、その時になるまでどんなものが並べられるのかは分からない。
一つだけ分かっているのは、俺がアレルギーなどで食べられないものは、絶対に出してこないことだ。いやまあ、俺にアレルギーなんて無いんだけどさ。
シャワー室を出て、タオルで水滴を拭き取った後、ささっと着替えて、再びルーナリアの元へと向かう。
「お、今日は卵ありか」
「昼の分の残りだけどね」
そう言って、ルーナリアが弁当を指し示す。
「弁当か」
「今日からはもう、遠出になるでしょ? なら、お弁当の方が良いかと思って」
なるほど。
「じゃあ、昼の楽しみは後に取っておくとして、食べるかな」
そして、胸の前で軽く手を組み祈った後、朝食に取り掛かる。
ただ、この食前に祈るという、この行為。ルーナリアの場合は、手を組むというよりは、手を合わせてると言った方が正しい。
以前にその理由を聞いたとき、「特に意味はないよ」とか言ってたけど、ルーナリアの性格上、意味が無いことはやらないので、きっと俺には分からないような意味があるのかもしれない。
「んー、上手い」
「そりゃどうも」
「これなら、いつ嫁に行っても大丈夫だな」
俺がそう言えば、ルーナリアが持っていたフォークをそっと置く。
「それじゃ、フレイヤは頑張って家事を覚えないとねぇ。私がどこかのお嫁さんに行ったら、フレイヤは一人で全部やらないといけないわけだし」
「あ、いや、それはその……モウスコシダケ、イッショニイテクダサイ……」
まるで微笑むかのように告げられたルーナリアの言葉に、俺は目を逸らしながら、そう言うのが精一杯だった。
思わず片言になったのは、気のせいだと思いたい。
「分かりましたよ。幼馴染からの頼みですからね」
そして、ルーナリアはくすくすと笑いながら、何も無かったかのように食べるのを再開しているのだから、動揺している俺の方がバカバカらしくなってくる。
「でも、大丈夫だよ。嫁入り前には、ちゃんと教えてあげるから」
「誰もそんなこと、心配してねぇよ!?」
つか、まだその話してたのかよ!
食事を終えれば、旅支度の時間である。
今回は一度戻ってきただけなので、数日振りに旅を再開させることとなる。
「「それじゃ、行ってきます」」
しっかりと戸締まりなどをして、二人して誰もいない家に向かって、そう告げる。
誰が何て言おうと、『ここ』が俺たちが帰ってくるための『家』なのだ。
この先、何が待ち受けているのかは分からないけど――それでも、ルーナリアと一緒なら大丈夫だと思うから。
「ほら、早く行くぞ!」
「そんなに慌てなくても、大丈夫だよ。追われてるわけでもあるまいし」
そう返しながらも、彼女も何だかんだで楽しそうにしながら、追いかけてくる。
世界は広いのだ。一体これから、どんな奴らやモンスターに会えるのか、今から楽しみだ。
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