現れた運命の番(Ω)がガチムチイケメンなのだが、私は一体どうすればいい!?

桃田産

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検査

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 病院の検診の予約が取れたので、久保田さんがいるホテルを訪ねた。もちろん、横には芳喜はいない。わざわざ元カレに付き添ってもらうのは、どう考えたっておかしいだろう。後で拗ねるのは分かっていたが、仕方がない。

 私はホテルに着くと、部屋番号を伝えて呼び出してもらった。

「久保田さん」
「……」

 手を振って合図を送ると、コクリと頷かれる。悠々としなやかな体で歩く姿は、まるでクロヒョウのようであった。通り過ぎる男女が横目でチラチラ見て、久保田さんの首に嵌っているネックガードを見て驚いている。
 ネックガードは項を噛まれないようにするため、Ωが着用するものだ。αと番になって逃げることを恐れた叔父が、久保田さんに着用を義務付けていたらしい。どこまでも不快な人だが、久保田さんの項が守れたのは良かったというべきか。


「それじゃあ、行きましょうか」
「ああ」

 私たちはタクシーに乗って、病院へと移動した。久保田さんはあまり話さない人なので、車内はとても静かだ。

 病院に辿り着くと受付を済ませ、問診票を書くことになった。
 私は手早く済ませ、横をちらりと見た。いびつな字で「久保田」と書かれている。字を書くことも、どうやら苦手なようだ。もしかしたら、勉強も満足にさせてもらえなかったのかもしれない。
 久保田さんが記入するのを待って、受付に提出をした。すぐに名前が呼ばれ、検査が始まる。
 
「それじゃあ、またあとで」
 
 コクリと頷く久保田さんに別れを告げ、検査室①に向かった。

 久保田さんが今日行うのは、運命の番に関する検査だけではなかった。
 この間倒れて救急車で運ばれたのは、突発的な発情期に襲われたせいなのだが、その原因を探るために詳しく検査する必要があるそうだ。後日来るように言われていたらしく、ついでに検査を行うことにした。

「いたっ!」

 私は久しぶりに血を抜かれたことに、眉を顰めた。大人になっても、やっぱり注射は嫌いだ。看護師は私の様子なんて気にせず、テキパキと血を保管している。真似できない凄い仕事だなと思う。


 痛む腕にしょんもりとした気持ちになりながら、支払いを済ませて受付で久保田さんが来るのを待った。

 二時間ほどして、ぐったりとした様子の久保田さんがやってきた。慣れない検査で、疲れてしまったようだ。雨に濡れてしょぼくれたシェパードの幻影が見える。

「お疲れ様です」
「疲れた……」

 心からの声に、私は苦笑いした。
 久保田さんの代わりに支払いを済ませ、検査結果が分かるまで時間を潰すことにした。

「金、いくらだ?」

 ポケットからボロボロの財布を取り出して、尋ねられる。私はそれをお尻のポケットに、押し戻した。

「今回は私が支払います。仕事が決まったら、返してください」

 鞄二つ分のお金がいくらかは分からないが、生活費で使えばあっという間になくなってしまうだろう。戸籍を取得するまでに時間がかかるだろうし、あまり使わないにこしたことはない。

「けど、あんたの金が減るだろ?」
「そりゃあ、使えば減りますよ」
「減るの、嫌じゃないのか?」

 独特な聞き方だなと思った。例のロクでもない叔父が、金が減るのは嫌だとでも言っていたのだろうか。

「私は身近な人に使うのは、嫌じゃないですよ」
「俺は身近な人か?」
「だって、『運命の番』なんでしょ?」
 
 今まで話してみて、この人は人を騙せるほど器用なタイプではないなと感じた。もちろん100%の信頼を置くことはまだできないが、『運命の番』だと主張しているのは本当なんだろうなと思っている。

「でも、お前は感じないんだろう?」
「お前じゃなくて、名前で呼んでください」

 久保田さんは一瞬口籠ると、ぼそっと小さな声で囁いた。

「……奈穂」
「はい」

 にっこりと笑うと、久保田さんの耳の先が赤くなった。
 この人も可愛い系男子なのかと、私は天を仰いだ。母性本能がくすぐられて、なんでもしてあげたくなってしまうから困る。


「そう言えば、『運命の番』ってどんな風に感じるんですか?」

 この頃になれば、お金の話はうやむやになった。私は心の中でガッツポーズをする。

「あー……、そうだな。不安感がなくなって、傍に居れば幸せな気持ちで頭の中がいっぱいになる」
「へー」

 なんだか、違法な薬でもキめたような感じなんだなと思った。だから、『運命の番』と出会ったら、みんな離れられないのかもしれない。


 私たちは近くのファミレスに入った。

「こういったところは来たことがありますか?」
「おっさんに連れられて何回か」
「おっさん?」
「俺をここまで連れ出してくれた、元ヤクザのおやじだ」


 『oh!』と私は心の中で呟いた。元ヤクザまで登場するとは思わなかった。でも、連れ出してくれたということは、久保田さんにとっては良い人だったのかな?

「そのおじさんは?」
「男の人んとこ行った」
「へ、へぇ」

 恋人なのかな?ここまで一緒に来たということは、遠距離をしていたのか?それともその男性も訳ありか?なんていろんな考えが、一瞬で頭の中を駆け巡る。
 しかし、見知らぬ人相手に、そんな無粋なことを考えていても仕方がない。変に首を突っ込むのも良くないと、頭を振ってかき消した。

 ぽつぽつと二人で話していると、頼んでいた料理が届いた。

 久保田さんは猫舌なようだ。大きな体で、チマチマとグラタンを食べている様子はプ〇さんのようで可愛かった。私は『尊い……』と思いながら、小さく切ったハンバーグを口に運んだ。

「そういえば、これ良かったら使ってください」

 私が渡したのは携帯電話だ。格安の携帯会社を利用したので、月額500円も満たない。動画とかは利用量がすぐにいっぱいになるのであまり見られないが、電話連絡をする分にはこれで十分だ。これから久保田さんと直接連絡を取れないのは不便だと思って、事前に契約を結んでおいた。

「私の番号は登録してあるので、ここから電話をしてください。あと、こっちではスタンプを送ったりして、メッセージのやり取りをすることができます」
「電話してもいいのか?」
「仕事中はとれないですけどね」

 久保田さんは慎重に携帯を触っていた。

「そんなに丁寧に触らなくても、壊れませんよ?」
「でも、俺は力が強いから。……万が一壊れたら、奈穂の声が聞こえなくなる」
「ぐっ!」

 私は心臓を押さえて蹲った。心配する声が聞こえるが、返事ができない。なんでこんなに男らしい見た目なのに、可愛いことを言うのか。

「いや、すみません。大丈夫です」
「本当か?」

 久保田さんは心配そうな表情を浮かべていた。いけないけないと、自重する。

「はい。とりあえず、熱いうちに食べてしまいましょ」

 私は不審な行動を誤魔化すように、フォークを動かした。




 病院に戻ると、検査の結果がすでに出ていた。便利な世の中になったものだ。

 私たちは二人そろって、医師の話を聞くことになった。

「『運命の番』で間違いありません」

 やっぱりそうかと思ったので、特別驚くことはなかった。私はちらりと視線を横に向ける。ガタイの良いこのイケメン男性がΩで、自分の運命の番だなんて、結果が出ても不思議でしょうがなかった。

「大西さんはフェロモンを感じることができないんでしたね?」
「はい。そうです」

 私が頷くと、医師は複雑そうな顔をした。

「正直『運命の番』がいると分かっているのに番えないとなると、Ωの体調面が心配です」
「本当にそういうことってあるんですか?」

 噂話程度には聞いたことがあった。
 番になった後、αに冷たくされたΩが入院したりとか、Ωに浮気されたαが誰に対しても暴力的になったりとか。

「はい。一番大きな特徴としては、ホルモンバランスが乱れて精神が不安定になりやすくなります」

 医師は神妙な顔で、他の症状について詳しく説明した。

「……」

 どうしようと困った。
 医師の言い分は理解できるが、今すぐに番になるのは流石に無理だ。久保田さんがどうこうではなく、自分の中でまだそれだけの覚悟がなかった。今は久保田さんに対して、どちらかといえば義務感や境遇への同情心が強い。

「別に無理に番にならなくてもいい。……傍に居てくれたら、それでいい」
「久保田さん……」

 久保田さんの細やかな願いに、心がぎゅっとなった。
 きっと私の気持ちなんて、口にしなくても伝わっているのだろう。申し訳なく思うが、だからと言って訂正するような言葉を、今は何も持ち合わせていなかった。

「それなら、たくさんお二人で交流を持って、一日でも早く番になってもいいと思える日が来るよう努力するのが良いと思います」
「……分かりました」

 私は医師の言葉に頷いた。思っているよりも、状況は切羽詰まっていた。


「それから久保田さんの検査の結果ですが」
「はい」
「数値があまりよくありません」

 この間マンションの前で倒れて救急車で運ばれたのは、突発的な発情期が起きたことが原因だった。粗悪な抑制剤を使っていたことで、体内のバランスが崩れているそうだ。

「より詳しく検査をしてみないと分かりませんが、Ωにしては体格が良いのも、ホルモンバランスが乱れていることが原因だと思います」
「え!?そうなんですか?」

 遺伝的ななにかで生まれつき体格が良いのだとばかり思っていたが、そうではないらしい。

「じゃあ、体の中の調子が整えば、体は細くなるんですか?」

 医師は首を横に振った。

「今よりかは少しだけ筋肉が付きにくくなるかもしれませんが、成長期も終わっているので、完全には細くはならないと思います」
「そうなんですね……」

 人の体というのは不思議なものだなと思う。

「嫌か?」
「え?」

 横を向くと、久保田さんの眉が若干下がっていた。

「体格が良いのは」

 思わず、シャツをパツパツにしている筋肉に視線を向けてしまう。

「ううん!別に嫌いじゃないよ」

 といったところで、変態みたいに聞こえないかなと心配になった。

「そうか」

 私の心配をよそに、久保田さんは僅かに口角を上げて嬉しそうにしていた。

 


 
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