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私は天才すぎる

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「…………」

ちょ……何がどうなったか謎だけど、助かったー!!
私だけでなくその場の全員、そしてシャロンとその従者もホッと息を吐いた。

「怪我はないか」
「あ、はい」
「気分が悪いということは?」
「いや、そりゃまあキモチワルイもの見たし恐怖だし気分良くはないですけど。大丈夫です」
「そうか」

シャロンが屈んで割れた鉢の欠片を拾う。何かの模様が描かれているのが見えた。どうもそれが暴走の原因になった呪いらしい。「魔法陣だ」とカレンの記憶が閃いた

 *

先生が帰ってこなかったので、授業は中止となった。普通にダメ教師だったっぽいな。
教室に戻る時、エミリアが近づいてきた。

「カレンちゃん、大丈夫? さっきは大変だったね」
「ああ、うん。でもま、結果的には無事だったからよかったよ」
「そうだよね。……シャロン様が、助けてくれたもんね」
「そうだね」

俯いたエミリアが物憂げな溜息をつく。

「カレンちゃん、いいなあ……シャロン様に何度も話しかけてもらえて」
「え」

今回はやや命の危険を感じたしキモかったし、まったくいいことはない。
それなのにエミリアは、えへっ、と照れくさそうに笑う。

「あのね、誰にも言わないでほしいんだけど……私、シャロン様のこと、ちょっと気になってるの。かっこいいよね。勿論、庶民の私なんかが想うのも失礼な方なのはわかってるんだけど……」

シャロンは第何王子とかだったっけ?
脳裏に、冬のパーティーシーンが蘇る。
エミリアにドレスを贈るシャロン。
送り主を察して胸をときめかせるエミリア。
嫌がらせが発覚して断罪されるカレン。

――なるほど。私はピーンときた。
これは、エミリアとシャロンの恋路を邪魔したら断罪される、の法則では。

私は嫌がらせなんてするつもりは微塵もないし、カレンだってそのつもりだっただろう。張り合わず地味キャラに徹していたくらいだ。

「私も、カレンちゃんみたいに貴族だったらお近づきになれたのかな……」
「平民と王子様の方がドラマティックで王道だから大丈夫!」
「えっ?」

私の言葉に、エミリアが目を丸くする。

「私実はシャロン様ってちょっと苦手なんだよね、眩しすぎるっていうか? 私は付き合うならもっと地味めで競争率低くて安定しそうな相手がいいんだ」
「そうなの……? カレンちゃんって地味好みなんだ。あ、だから前は服装もなるべく地味にしてたとか?」
「まあね」

カレンが地味好みかはわからないけど、関わると嫌がらせされるわ、下手したら退学フラグ立つような相手を避けたいのは確実だ。

「そうだったんだ! よかった~。ねえ、それじゃあ私、シャロン様のこと……」
「うんうんいいと思うよお似合いだし。もしまたシャロン様が私に話しかけてくれることがあったら、エミリアも参加しにおいでよ。あ、ただし他の女子に睨まれるかもしれないけど」
「えっ! 怖いな……でも私、愛のためなら頑張る!」

エミリアが虐められたらと思うと心配だけど、多分シャロンが助けてくれるだろう。それらは多分、そういうイベントなので。私も目を光らせておいて、あんまり大変なことになりそうだったら助けてあげればいいや。

……それにしても
カレンは、エミリアとシャロンの邪魔をすると退学になって破滅する。
ということは、つまり。
裏を返せば、エミリアと仲良くしつつシャロンとくっつくのを応援すれば、カレンは安泰ということである。
うーむ、我ながらすばらしい推理。信憑性。説得力!
幸いエミリアと友達になるのは既に達成済み、あとはキューピットをしつつ地味めの彼氏でも作ってやれば、カレンに「楽しく学園生活を送れて且つ未来の不安も解消される」と納得してもらえるだろう。

「よっしゃー私も頑張るぞ!」
「?」

たった数日で最適解にたどり着く私って天才だったのか! テストの点と頭の出来は関係ないのだ!
作戦を伝えれば、早ければ明日にでもカレンに交換してもらえるかもしれない。
私はその夜、意気込んでベッドで目を閉じた。

……期待に反して、カレンには会えなかったんだけどね。
ガランとした部屋に私一人だけがいた。

「カレーン! ねえ、話を聞いてよ!」

呼んだって出てこない。
もう、あの強情め!
みてろー、すぐに戻って来たいと思わせてやるんだから!
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