狼騎士と初恋王子

柚杏

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 ゆっくりと指が抜かれるとクレエの腰を掴んで自分の方に引き寄せ、下ろしたままだったクレエの右足も持ち上げ肩にかける。その顔に余裕はなく、口からは荒い息が吐かれ、アンバー色の目は鋭く獲物を捕らえるようにクレエの全てを見澄ましていた。
「クレエ……」
 後孔に熱く硬いモノが触れた。
 早く欲しいと思っていたのに、触れた瞬間、緊張で身体が固まってしまった。そんなクレエを宥めるようにレストの鼻先が口付けのようにクレエの顔のあちこちに降ってくる。
 ペロ、と唇を舐められ自然とクレエも舌を差し出し狼の鋭い牙や長い舌を舐め返す。舌と舌が絡まり合う頃には緊張も解け、身体の力も抜けた。
 その瞬間をじっと待っていたレストの雄の部分がグッとクレエの後孔を押し広げ、裂くようにして入ってきた。
「う、あっ……あ、あ……」
 他と比べたことなどないが獣人のソレは人間のモノよりも大きくて太いと聞いたことがある。受け入れる方は大変だと。
 今まさにクレエの後孔に差し込まれた熱は暴力的で、いくらΩの身体が受け入れるように出来ていても最後まで入れるのは不可能に思えた。
 内襞がレストの熱にまとわりついているのが自分でもわかる。蠢いて熱を奥へと誘導している。もう十分、苦しいのにクレエの本能はレストを離そうとしない。もっと、もっとと激しく求め、それのせいで壊れてもいいとさえ思う。
 圧迫される感覚に窒息するのではないかと短い息を何度もして、額に浮かぶ汗が横に流れていく。
 ゆっくりと、ほんの少しずつ奥へと進む熱の塊。内臓が押し上げられていく感覚にギュッと目を閉じる。
「クレエ……息して……ゆっくり、深呼吸して」
 閉じていた目を開けてみるとレストの表情も苦しそうだった。気が付かないまま、レストのモノを締め付けていたらしく、クレエは何とか深呼吸をして身体から力を抜いた。レストも同じように深呼吸をする。ポタポタとレストの汗がクレエに落ちていく。
「ん……クレエ、大丈夫か……?」
 声を出して返事をする余裕はなく、小さく頷いて返す。
「最後まで、入ったけど……痛くはないか?」
 時間をかけてくれたおかげで幸い痛みはなかった。圧迫される感じや違和感はかなりあったけれど、自分の中にレストが全部入っていることの方が嬉しい。
「大丈夫、だから……レスト……気持ちいいか?」
「ああ……お前の中は温かくて、最高に気持ちいいよ」
「ん、良かった……」
 微笑むと中の熱がさらに大きくなった気がした。クレエの頭を掻き抱いてレストの腰がそっと動き出した。
「あ、はっ……」
 ほんの少し動くだけでビリビリと全身が痺れた。
 額から汗が出るたびにレストの舌がそれを舐めとってくれる。舌はクレエの身体のあちこちを舐め、その独特の柔らかな感触に肌が粟立った。
「は……匂いが、強くなった」
 知らないうちに身体から出ているフェロモンに、レストの鼻が敏感に反応を示す。この部屋の中を充満するΩの匂いに理性の強い狼の騎士も限界がきた。
「クレエ……もう……我慢出来ない……」
「レス、ト……」
 奥でゆっくりと動いていた性器が抜けるギリギリの箇所まで引いていく。急に中が空っぽになった気がしてクレエは思わず抜けないようにと腰を振った。
 その瞬間、一気に最奥までレストの楔で貫かれクレエは全身をわななかせ声にならない声で鳴いた。
「っ……!!」
 それまで揺蕩うような快感をじんわりと味わっていたクレエの奥に強烈な刺激が加えられ、中心から呆気なく白濁が弾き出された。ドロリと自らの腹の上に飛んだ欲の飛沫をレストの長い指が掬う。
「イッたのにまた匂いが強くなったな……」
 白濁を長い舌で味わうと挑戦的な目でクレエを見下ろし、妖しげに笑む。
「は……そっちこそ……αのフェロモンだだ漏れ……」
 お互いの発情した甘い匂いが充満して混ざり合う。達したばかりの敏感な身体を指でなぞり、両の胸の粒を少しだけ尖らせた爪の先で引っ掻くとビクビクと身体を痙攣させて、それでも視線だけはレストから逸らさないクレエ。
 その視線にゾクゾクと銀の毛が逆立つ。それは戦場に一人、敵に立ち向かう感覚に似ていた。
 今までどんな相手でも騎士団隊長として攻略し打ち負かしてきた。しかし目の前のこの相手だけは攻略出来そうにない。どんなに鳴かせても、抱き潰しても、精を全て注いでも、きっと飽きることなく何度も抱いてしまうだろう。
 クレエのことは剣の相手をするようになってから、騎士団隊長としての誇り高い騎士としてというよりも、話しやすい友達として接していた。何故だか彼はとても話しやすく、難しいことなど考えずにいられた。心地良い、春の陽気のような存在に思えた。
 いつしかその思いは膨らみ、会える日は楽しみになり、会えない日は寂しいと思うようになった。
 どこの誰かも知らない。知っているのはΩであることと、城内で何か下働きをしているということだけ。それで良かった。それだけで良かった。
 何もいらない。名誉も賞賛も領地も肩書きも。
 欲しいのは彼の楽しそうに笑う姿。地位も大金も必要は無い。
 幼い頃から周りの大人達に自分の使命は騎士団をやめた後、北の領地に戻り妻を娶り子を成して国のために尽くすことだと教えられてきた。だからその時が来るまでは磨き上げた剣の腕を使って国を守る騎士として精進していくと誓っていた。そこに疑問など感じたことも無かった。――クレエに出会うまでは。
 初めてこの手で、持てる力全てで、守りたいと思った相手。自分の事は自分で守ると豪語した強気な彼に、己の道は自分で選ぶことが出来ると気付かされた。
「クレエ」
「ん……?」
 火照る身体からΩのフェロモンがどんどん溢れて濃くなる。それにつられてαのフェロモンが漏れていく。Ωと違い、αのフェロモンは自分の意思でコントロール出来るのに、クレエの中にいることでとっくにコントロールは不能になっていた。
「……クレエ」
 愛しくてたまらない。
 強気で負けず嫌いで素直じゃない、そのくせ不意に見せる寂し気な横顔や心の底から可笑しくて大笑いする明るい顔。どれもがレストを夢中にさせる。
 優しく抱きたいのに劣情がクレエを求めてやまない。
 腰を揺らしてクレエの敏感になった肌に舌を這わせる。クレエの中は繊細に蠢いてレストを離さない。
「んっ、あっ……ふっ、うんっ、ああっ……」
 クレエが喘ぐたびに腰が勝手に動いて中を抉る。
 何も考えられなくなる。気持ちがいい。もっともっと気持ち良くなりたい。クレエをもっとめちゃくちゃにしたい。この腕の中で乱れて淫らに快楽に溺れてしまえばいい。
「クレエ……クレエ……」
「んっ、レスっ……はっ、あっ……」
 夢中になって腰を振った。この中の、更に奥に精を流し込んで孕ませてしまいたい。白い項を噛んで番にしてしまいたい。今すぐ、早く。
「ああっ……!!」
 グリ、と中で何かにぶつかったと思うとクレエが身体を跳ねさせ大きく仰け反った。
「そこっ……」
 もう一度そこを突くと激しく痙攣しだしたクレエ。一番気持ちのいい場所を見つけて、レストは舌で自分の乾いた唇を舐めた。
「あっ! やっ……」
 そこを何度も突くと、首を横に振りながら「だめ」と繰り返すクレエ。言葉とは裏腹にフェロモンは更に濃くなり、その目にはうっすらと涙がたまり今にも零れ落ちそうでレストはその目の涙を舐めた。
「レストっ……ダメ、ダメっ……そこっ、ああっ、そこ、はっ……」
「気持ちいい? もっと?」
 涙を舐め続けながら囁く。クレエの中がギュッと締め付けてきて、それが答えだった。
「可愛い……クレエ、可愛い……もっと顔を見せて」
 言われるままに恍惚とした顔をレストに向ける。頬を擦り付けて全身で愛しさを表現して、また腰を振り始める。
 水音と腰を打ち付ける音、ベッドが軋む音が部屋の中に響くけれどそんなことは気にしていられないくらいに気持ち良くて、下半身は溶けて境界線がなくなり一つになった。
「クレエ……っ」
 切ない声で名前を呼ばれると後孔に異物が入った感覚があった。それは中で膨らみまるで蓋をするかのようにそこから抜けなかった。同時に奥の方にレストの欲が弾け出された。ドクドクと脈を打ち大量に出された熱にクレエも昂りを止められず吐精した。
 しばらくレストに身体を抱きしめられたまま、精が中に注がれるのを感じていた。レストの背中に腕を回し、人間とは違う毛の感触に背中を上下に撫でた。
「レスト……」
 まだ足りないと、本能が求めていた。初めて身体を開くというのに、一度出されただけでは満足しない性欲にはしたなく思う反面、これが本来のΩの性なのだから仕方ないとも思う。
「レスト……オレ……まだ……」
「ああ……まだ、匂いもおさまってない……まだ……」
 中に入ったままのレストの熱はおさまることなく硬く、達して敏感な中を堪能している。
 どちらから出されたフェロモンなのかももう嗅ぎ分ける事は出来なくなっていた。一つになった匂いが互いの思いを膨らませ、離れたくないと爪をたてて掻き抱き口付け合う。
 ずっと一つになったままで朝など来なければいいのにと祈る。
 後ろから突かれて背を弓なりに反らしている時も、膝の上に座らされ胸の粒を攻められながら下から突かれている時も、快感で意識が朦朧として射精した直後に意識が真っ白になった時も。
 その狼の獣人は疲れなど微塵も感じさせないで、理性を飛ばしてクレエを求め続けた。達する度に脱力していくのに、身体は回数を重ねる毎に敏感になり意識を失うまで声をからしながらイき続けた。最後の方は出すものもなくなって身体だけがビクビクと痙攣していた。
 これが発情したΩと、人間よりも性欲の強い獣人との営みなのだと散々記憶にも身体にも刻みつけられた。
 意識がなくなる間際、早く番になってこの獣人を自分一人だけのαにしたいと強く思った。
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