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見たことない結婚相手*1

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私は本日、バスチアン辺境伯の元へ嫁ぎます。
顔も見たことがないお方の元へ。



オレール伯爵令嬢の私は、父母、兄と弟がいます。
ある日父から突然の縁談話をされました。
私は婚約者などもいないまま近々20歳となります。
行き遅れを案じた両親が持ってきた縁談はバスチアン辺境伯の妻でした。


なんでも、他国との国境での軍事指揮官で領地から殆ど出る事がない方だそうです。
父は数度王宮でお会いした事がある程度だったそうですが、何故そんな縁も薄い方が私との縁談を了承したのか。
いえ、政略結婚とはそんなもの。
貴族の娘として生まれたのであれば、恋愛結婚など許されません。
行きたくない。等言ってはいけないのです。



両親・兄弟とお別れしてもうずっと馬車での移動です。
「お嬢様、お疲れではないですか?」
「大丈夫よ。」
「かれこれ1週間、馬車の旅も疲れますね。」
私が10歳の頃から仕えてくれている侍女のメリーが気遣ってくれる。
メリーは私より5歳年上で、今回の縁談話が出たときに絶対に私について行く!と言ってくれた。
メリーがいてくれて心強いけれど、私はメリーにも幸せになってほしいし、辺境の地では縁もなかなかないのでは。と不安になる。


メリーは私の幸せを見届けてから結婚するので大丈夫です!と言ってくれた。
本当に感謝しても感謝しても足りないわ。



「お嬢様、そろそろ辺境伯領に着きますね。」
「ええ、そうね。」

どんな方だろうか。
そう言えば、辺境伯様のお年を聞きそびれた。
お父様よりお年が上だったらどうしよう。
不安からか視界が歪む。
泣いてはいけない。私はグッと我慢した。




馬車が止まり扉が開く。
私は馬車から降りて周りを見渡す。
辺境の地といえども、草木も生えているし市井も賑わっているようだ。
まぁ、我が国は長いこと国同士のいざこざもなく良好な関係だからかも知れない。
「草原が、とても気持ちいいわね。」
「ありがとうございます。」
突然後ろから話しかけられて、とっても驚いた
慌てて振り返ると、とても背がとても高い男性が立っていた

「レネ嬢。ようこそ。私は貴女の夫となるクレール・バスチアンだ。」
「あ、貴方がバスチアン辺境伯様」
「どうかこれからはクレールと読んでくれ。私もレネと呼ばせてもらう。」
急に名前で呼ばれて頬が熱くなる。

もっとお年を召した方かと思っていたから、なんだかホッとした。
今年32歳になるクレール様は、とても背が高くスラリとした体型
切れ長の深緑の瞳
瞳と同じ深緑のショートヘアの片側だけを後ろに流している。
とても軍事指揮官とは思えないけれど、人は見かけによらないものね
言葉が少し、キツく感じるけれど。


「長旅で疲れただろう。 部屋を用意してあるからそちらを使いなさい。」
「は、はい。」
スタスタと歩くクレール様に送れないようついて行く。

「レネは今日からこの部屋を使うと良い。」
ガチャリと開けられた先には・・・
えらくファンシーな部屋が。

「えっ・・・こちらですか。」
薄ピンクの壁紙にはレースの模様が描かれ
白のベッドはネコ脚で上は白のレースの天蓋。

白のソファーにはテディーベアやウサギのぬいぐるみ
調度品も白が基調だが全部可愛らしい。


「・・・もしや、気に入らなかったか。」
「えっ!いえ!そんな!、可愛らしいのは大好きです。 その、、こんなに可愛いお部屋だと思わず驚いただけです。」
しゅんとする目の前の身体の大きな男性に慌てて返事を返すと、とっても嬉しそうな顔をした。


そのお顔を見て、私の頬が熱くなった。
「そうか、レネの年齢を聞いて、きっと可愛いものが好きだろうと思って用意したんだが、こういった物には縁がなかったものでな。 気に入ってくれるか心配だったんだ」
先程まで無表情だったのに、今はニコニコと笑うクレール様

「クレール様が、、選んで下さったのですか?」
「? 妻の部屋を整えるのは夫の務めだろう?」
当たり前だろうと言いながらコテンと首を傾げる
少なくとも、お父様がお母様の身の回りを整えているのを見た事がない。

なんだか・・・可愛いひと

私がクスクスと笑うのを不思議そうにみるクレール様
思っていたよりもずっと、良い結婚生活になりそう。
そう思うとこれからの生活が楽しみになった。


それからひと月が経った。
クレール様のお父様やお母様が王都でのお仕事をして下さっているらしく、クレール様は領地での仕事に精を出している。
基本的には領地の兵士達を鍛える事。
領地経営。
朝は早くから出て、夜は夕食だけは私と取る約束をしているので帰ってきます。
その後用事があればまたお出掛けになる生活です。


私がこの領地に慣れるまでは、と。私に触れる事もしません。
有り難い反面、私は妻としての仕事を何一つしていない気がします。
クレール様に、その事を話すとお顔を真っ赤にして
「お前はそんな事を考えなくていい!レネは、私のそばに居てくれるだけでいいんだ。」
とおっしゃってくれます。

優しいクレール様。
最近、クレール様が帰ってくるのが待ち遠しいんです。
あんなに不安だった結婚生活でしたが、今は実家にいた頃を忘れてしまうくらい貴方のことばかり考えてしまうのです。



「レネ。次の休みに市場へ行こうか。」
「え?」
夕食を一緒にとっていると、クレール様が突然言いました
「3ヶ月に一度だけ、隣国や遠い国の商人がやってくるんだ。 辺境の地といえどここは他国と繋がっているからな。面白い物が見られるぞ」
「!・・・ぜひ!!クレール様と一緒に市場へ行きたいです!」
クレール様と市場。
とってもとっても楽しみ!




あっという間に明日がクレール様のお休みの日。
うきうきする私にメリーも喜んでくれた。
「良かったですね!これを機会にぜひ今以上に仲良く出来ると良いですね!」
「ありがとう、メリー。 明日はクレール様と手を繋ぐことが出来れば、と思っているのよ!」
そう、少しずつでも私を妻として、女として見て頂けると嬉しいな。
きっとクレール様は私が12も歳が下だから妹のように感じていらっしゃる気がするのよね。


はぁ、今日は寝られるかしら。
そんな事を考えながらメリーと談笑していると
コンコンッ

ノック音が。
「レネ、開けても良いか?」
!?クレール様?
慌てて身嗜みを整えて扉を開ける。
「クレール様、どうなさったんですか?」
すごく申し訳なさそうなお顔をしているクレール様
「すまない、レネ。 明日の市場へ行く約束なんだが、急遽無理になってしまったんだ。」
「・・・ぇ。」
「市場へ来ている他国の者の中で良からぬ事をする輩がー・・・・」

クレール様の声が遠くに聞こえる。
仕方がないとわかっているのに、なんだかすごくガッカリしてしまった
「レネ?レネ?」
「ぁ。 はい、大丈夫です!お仕事なので仕方がないです。 わ、私そろそろ寝ますね、、 お休みなさいませ」
慌ててペコリも頭を下げてパタンと扉を閉めた。
扉の向こうで「レネ!」と聞こえたが、無視してベッドに飛び込んだ。

「お嬢様、宜しいんですか?」
「・・・・・・・・・」
心配してくれたメリーも無視して頭までシーツをかぶる。
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