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6:市井での出会い
しおりを挟むあのお茶会から数日後
雲ひとつない快晴の日
ダリルは市井調査という名目で、平民が多く集まる市場に来ていた
もちろんお忍びでのことなので、伯爵貴族に見える程度の姿でお付きもマルコとジャンだけだ
活気づいた商店が建ち並び、あちらこちらからいろんな声や音、良い匂いが漂ってくる
右を見れば焼きたてのパンの香ばしい匂い
左を見れば肉や魚を店先で見事な手さばきでさばき売り、切れ端は隣の店で調理した物を売り、それを買って食べ歩いている者もいる
楽しそうな声、大きな声で呼び込みをしている店主の声が至る所から聞こえてきて
ダリルはキョロキョロと周りを見渡しながら歩く
その姿にマルコは少しおかしく笑みが溢れる
こんな風に目を輝かせながらあちらこちらに目移りして歩く姿を見る事など成人してからはほとんどない
まるで幼い子のようだ。と同じ年頃にもかかわらず思ってしまう
それほどまでに王太子という立場は、辛く厳しく誰にでもできる立場ではないと感じていた
「なるほど、父上との外出時にはこれほどの活気があるように見えなかったが皆こうやって毎日の必要な物を買い求めに来ているんだな。」
王様とダリルが来るときは皆頭を下げ通り過ぎるのを静かに見守るためこのような活気がある姿を見たのは初めてなのだ
「左様でございます。本日はお金も持って参りました。ダリル様も何か買い求められてはどうでしょうか?」
「ふむ、何か・・・」
マルコの言葉に目の前の雑貨店に入り品物に目を配る
羽根ペンや羊皮紙などどれも王宮で使っているものに劣る品ばかり、こういった所に自分は非常に恵まれた生まれなのだと感じてしまう。
それと同時に、民にも当たり前に質の良い物が手に取れる国にしたいとも感じた。
その時雑貨屋の見えにくい位置に美しい青の小さな石が入ったネックレスを見つけた
「あれを買うとしよう」
そう言うとそっとそのネックレスに手を伸ばす
するとほぼ同時に自分よりもずっと小さく細い手が隣から出てきた
避けることもできずそのまま細い手の上にダリルの手が重なる
「「あ・・・」」
お互い同じように言葉を発して手をサッと退ける
細い手の持ち主はダリルの姿を一度見ると視線を下に下げ一歩後ろに下がり謝罪の言葉を述べながら頭を下げた
「貴族様のお手を汚してしまい申し訳ございません。」
平民が貴族の身体に触れることがあれば怒られることが多いからだろう
少女は
下を向いたまま謝罪の言葉を述べる
そんな少女の姿をダリルは見る
グリーンのワンピースに腰にフリルの付いたエプロンをしていてブラウンの髪を後ろで結んでいる。
結んだ毛先の肩より下の髪が前に垂れていて、顔は前髪で見えない
汚れた着衣ではなく比較的綺麗な服装をしている事から平民以下の身分ではないと感じた。
この国自体は隣国と比べても比較的豊かで貧困層が少ないと言えども、商店が並ぶ裏路地を入ってしまえば治安がいいとは言えない
ゆえに今日の腹を満たすために盗みを働く者も少なくないのが現実だ
ものの数秒程度の時間だったがダリルは目の前の少女がどの程度の暮らしぶりかを考え、盗みを働く為に取ろうとしたわけではないだろうと判断して声をかけた
「気にせずとも良い。 これはそなたの方が早かった」
そう言って先ほど取ろうとした小振りの青い石が入ったネックレスの箱を目の前の少女に取ってネックレスが落ちないように差し出す
「いえ・・・私のような平民が貴族様が手に取ろうとしたものに触れるなど・・・」
「気にするな、こういうものは早い者勝ちだ。」
いまだに下を向いたままの少女の手首を取りその手にネックレスの箱を握らせる
「あ・・・ありがとうございますっ!」
その時パッと顔を上げてダリルの目を見てお礼を伝える少女のグリーンの瞳は嬉しそうにキラキラと輝いていた
その少女の嬉しそうな顔を見た瞬間ドキッとダリルの心臓が跳ねる
こんなに純粋に嬉しいという感情の瞳を向けられた事が殆どなかったダリルは心の奥がスッと爽快感で包まれる
人が自分がした事に喜ぶというのはこんなにも気持ちが良いのかと嬉しくなった。
だから跳ねた心臓の音の理由はきっと少女の純粋な感謝に共感したからだろう
そう思っても、胸の奥の高揚感はすぐには消えなかった。
「気にしなくて良い。 では。」
「はい、本当にありがとうございます!」
少女は大切そうにネックレスの箱を持つと店主のもとに行く
ダリルはそんな後ろ姿を見ながらまた店内をゆっくり眺めていると店主と少女の話し声が聞こえてきた
「おはようさん、セラ。 お、とうとうそのネックレスを買うのか?」
「おはようおじさん! そうなの!父さんの仕事の手伝いをしてやっとこれが買えるくらい貯まったのよ!」
「お前の母さんの明日の誕生日に間に合ってよかったな。本当だったらとっくに貯まっていただろうに家にも入れてるからなかなか苦労しただろう」
「食べ盛りの弟や妹がいるんだからお金なんていくらあっても良いのよ! でも本当に良かった。」
「セラは本当に良い娘だよ。 よし、俺からの祝いに一番良いラッピング紙で包んでやるから待ってな!」
「本当?!ありがとう!」
とても嬉しそうに話す少女の弾んだ声に、思わず笑みが溢れるダリル
人がウキウキとした気持ちとは聞いてるこちらも耳心地の良いものなのか。とただ自分が買おうとした物を譲っただけのダリルですらこんな気持ちになるんだ、きっと明日あの少女の母親は娘の真心に心が暖かくなるだろう。
そんな風に思ったダリルは幸せそうに店内を見て回る。
そんなダリルを見たマルコは、あぁ、今日は王太子にとって良い日になった。と感じた。
「ダリル様、他の店にも参りましょうか?」
「あぁ、そうだな」
マルコが店の外へ促すと、満足げな顔をしたダリルが外へと歩を進める
「あ!!貴族様!!」
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