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7:また会えるように
しおりを挟む「貴族様!!」
店から出た途端、店の中から先ほどの少女が声をかけながらこちらにパタパタと駆け寄ってくる
するとダリルと少女の前にジャンが入る
「あ・・・申し訳ございません。」
大柄なジャンが間に入ってきたため少女は一歩下がり不安そうに眉を下げた
「ジャン、大丈夫だ。」
ダリルは護衛騎士としての仕事を全うしているジャンの肩に手を置く
ジャンはそれを合図にしてダリルと少女の間からずれる
「どうした?」
「あ、先ほどは本当にありがとうございました。」
律儀にお礼を言う為に来た少女に思わず口角が上がる
「先ほども言ったが、あれは君の方が早かった。だから気にすることはない。」
何でもないように伝えるダリルに少女は嬉しそうに笑う
「ありがとうございます。」
その柔らかな笑顔にダリルはキュンと心の奥が疼く
そのうずきが何なのかわからないがきっと悪い気持ちではない事がわかる。
そんな気持ちを隠すように目の前の少女に話しかける
「良いんだ。・・・ところで、聞くつもりはなかったが明日は君の母上の誕生日なのか?」
「はい!昨年の流行病にかかってから寝込む事が増えた母に先ほど譲って頂いた青い石が入ったネックレスを付けてもらって元気になって欲しくて」
「あの石には何かそんな効果があるのか?」
この国に病に伏した人が元気になる石があるなんて聞いた事がなく、純粋に気になり少女に聞く
「いえ、迷信みたいなものなんです。 ここから遥か遠い他国の青い石に幸せになってもらいたい人への願いを込めて渡すと、その人は天に召されるその時まで幸福が続くって言う。」
「なるほど。」
「あの石はその遠い国から海を渡りここに来た石なので、どうしても欲しかったんです」
なかなか高価でやっと買えたんですけどね。と照れたように頭を掻いて笑う少女に思わず顔がほころぶ
「君のその真心はきっとその石が叶えてくれるだろう。 親孝行な娘を育てたご両親はきっと素晴らしい方なんだろう。」
ダリルは心の底からそう思った。
少なからずこの目の前の少女が母を想う気持ちは本物だ。
父からの愛情は厳しいながらも感じているが、母とはなかなか親子と思えるくらいの関係を築けていない自分には眩しく羨ましい
「ありがとうございます。」
照れた顔で笑う少女は少し焦ったような顔に変わる
そのコロコロと変わる姿に思わず笑いそうになる
「あ・・・貴族様のお時間をとってしまい申し訳ございません!!」
「いや、特に予定もない市井巡りだ。君が気にすることはない」
本当に心からそう思ったから口から出た言葉だ。
だが少女はそわそわとしている。
「あ、そうです!こちらをお納めください」
そう言って思い出したようにエプロンのポケットから一枚の細長い紙を取り出してダリルに渡す。
「これは?」
生成りがかった紙に【セラ書房割引券】と書かれていた。
「私の父のお店の割引券です。この国以外のあらゆる本を取り扱っています!本日と明日は休みなんですが、ぜひまたお立ち寄りください!」
にっこりと笑った少女の顔を見て、また紙に視線を落とす
「セラ書房・・・」
「あ、書店の名前は私の名前なんです!私が生まれた年に開店したので私の名前をそのまま店の名前にしたらしいです」
そう言う少女、セラの表情は嬉しそうだった。
「そうか、ではセラ。私は・・・スミス伯爵だ。また店が開いている時に寄らせてもらう」
「スミス伯爵様。 はい!ご来店お待ちしております!」
そう言って深々と頭を下げるセラを見て、「では」とまた商店街を歩いた。
「ダリル様、良いのですか?あんな偽名など・・・」
マルコは心配そうにダリルに小さな声で話しかける
「ありとあらゆる国の本なんて気になるだろ?王宮の図書室にはないような本もあるかもしれないし、これも市井を知る為の良い機会じゃないか」
そうマルコに言うと、それはそうですが・・・とあまり納得のいかないような顔をしていた。
「ジャンもそう思うだろ?」
ダリルがジャンに話を振ると、ジャンは真っ直ぐ前を見ながら
「俺はダリル様が良いと思われるのなら間違っていないと思います」
そう言うとマルコが
「ジャン!お前は!」
と声をあげる。
「ほら、ジャンがそう言ってるんだ、また3人で行けばマルコも俺を監視出来るだろ」
あははと笑いながら言うダリルに困ったように笑うマルコ。
また来よう・・・。
それにまたセラに会えるかもしれない。彼女とまた話をしてみたい
これはきっと平民と話すことなどなかった新鮮さがまた彼女に会いたいと思わせているんだ。とダリルは感じていた。
「セラ、お母さんへのプレゼント包装出来たぞ」
スミス伯爵と従者2人の後ろ姿を見ていたセラの後ろから、店の店主の声が聞こえてくる
慌てて店主のもとに駆け寄り嬉しそうに丁寧にラッピングされたプレゼントを受け取る
「おじさんありがとう!」
嬉しそうにお礼を伝えるセラに店主もまた嬉しそうに笑う
「いいってことよ。 それにしても見かけない貴族様だったな?」
店主は先ほどダリル達がいた場所を顎でクイッと指すとセラに知り合いかと尋ねる
「私も初めて見た方だったよ。スミス伯爵様だって」
「普段来るような傲慢な伯爵達と違って、平民にも気さくに話しかけてくれるなんて、品のあるお方だぜ」
貴族がみんなあーだったら良いのにな。とこぼす店主にセラはそうだね。と困ったように笑う
「私さっきの伯爵様にうちのお店の割引券渡したよ!」
「お、なかなかやるなぁ。 見目麗しい若い貴族だったし、あの方が未婚なら将来セラは伯爵夫人か?」
ニヤニヤとしながら笑う店主にセラは噴き出して笑う
「やだぁ~おじさん!そんなラブロマンス小説じゃあるまいし!あはは!!」
バンバンと店主の肩を叩いて笑うセラ
「いてて、痛い痛いっセラ!」
「あ、ごめん、つい・・・」
えへへ、、とセラは笑って店主の肩をさする
「私もいつか、ラブロマンスみたいな事があるかしら」
セラはそんな事をほのかに考えた
活気あふれる楽しかった時間はあっという間に過ぎ去りダリル達はまた静かな王宮の王太子専用の自室に戻ってきた
「ふぅ・・・」
「ダリル様、本日はお疲れでしょう」
「あぁ・・・だが、とても充実した疲れでむしろ心地よい」
「左様でございますか。では湯浴みの支度をして参りますのでそれまでゆったりとお待ちください。 後ほど侍女にお茶を持って来させます。」
「あぁ頼んだ。あとは別の者に任せるからマルコとジャンももう休め」
「ありがとうございます。ジャンにも伝えておきます。」
マルコはダリルからの言葉を聞き、頭を下げると静かに部屋を出て行った。
誰もいなくなった部屋で、着ていた服の首元を少しはだけさせる。
着ていたベストのポケットに手を入れるとカサリと紙の音がする。
それを取り出すと『セラ書房割引券』が出てくる。
「セラ・・・か。コロコロと表情が変わるあの少女にまた会えるだろうか。」
割引券を見て自然と笑みがこぼれた。
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