恋と愛を知ったのは、陰謀だらけの王宮でした。

みるく

文字の大きさ
8 / 44

8:朝会ーなくなった古文書

しおりを挟む
「「「王様、王太子様おはようございます」」」
「うむ、皆揃っておるな。」

まだ朝日も昇っていない薄明るい早朝、
王様とこの国の重鎮である貴族たちは毎日朝早くから朝会(午前会議)を行っている。

広い会議室にはとても長いテーブルが置いてあり、入り口付近に立つ者がこの会議に参加できる末端貴族で序列順に貴族たちが並び王様と王太子に深々と頭を下げる。

しんと静まり返る室内に王様と王太子の歩く音と王様の軽い咳払いだけが響く。
王様は一番奥に置かれた立派な椅子に座り、王太子はその隣で貴族たちと同じ椅子に座る。
王様と王太子が座ったのを確認して貴族たちは順番に着席する。

王太子であるダリルも最近は王様の命で週に2度の朝会へ参加している。
ダリル自身早起きには自信があったが、少しずつ政務の任される量が増えてきて、睡眠時間が削られるようになってからというもの、これを毎日やっている父王には心の底から尊敬するし、
王太子たる者眠い目を擦り隙を見せてはいけないと思い、さりげなく目頭を指で軽く揉んで眠気を解消する。


「では、今日の朝会を始めようか。」
王様の凛とした声が室内に響き緊張感が漂う
この緊張感は何度経験しても慣れないが、将来は自分がその責務をやり遂げなければいけないのだと責任感という重圧が感じられてとても良い勉強になる。


「なんでも良い、気になった事や進言したいものは手をあげなさい」
王様の声が静かな部屋に響くと1人の貴族がそっと手を挙げる

そちらに目をやると、普段はほとんど座っているだけの図書室管理の司書長だ、薄い緑の瞳に光に透けるような美しい銀の長髪を後ろで軽くまとめ、細身で背が高く、猫背気味の彼が今日は顔色も良くなく何か問題があった事が伺える

王様はスッと手のひらを前に出しその貴族を立たせる
「申してみよ」
「ありがとうございます。 図書室管理司書長ハリス伯爵でございます。 先ほど図書室内の清掃をしていた者からの報告で普段閉じられている他国戦利品古書の鍵が何者かに破壊され、2冊ほど盗まれていることがわかりました。」

周囲がざわめく
皆隣とコソコソと会話をし出すと王様がオホンと咳払いをする
するとピタリとざわめきが止まりハリス伯爵の方に注目が集まる

「他国戦利品古書とは、歴代の王が他国との戦争で勝利した際に敵国から押収していた古書の事だな?」
「左様でございます。」
「ふむ・・・あれは建国時から勝利の証として回収していた言わば王の強さを表すコレクションのようなもの・・・」
「はい・・・特に古書自体は文字の形式も現在常用している物ではない国も多く、既に読める者がいないと言われております」

普段進言などしないからか、緊張した面持ちだ。
しかし、その手つきや姿勢からは“司書長としての責務”をしっかりと負っていることが伝わる。
ハリス伯爵は、どうすべきかと王様に視線を送った。


「盗まれた古書は読めたりするのか?」
「いえ、2冊どちらも解読不可能な古文書でして、この宮中と城下周辺には読める物もおりません。 ですので内容もどんなものか全くわからない本となっております」
「なるほど・・・何故複数ある古書の中でそんな読めない本を・・・鍵を破壊してまで盗まなければならないような機密文書だったのか・・・」
「恐れながら申し上げますと、前司書長から以前聞いていた話ですが、盗まれた本は王様の3代前の拳王様の時に敗戦国からとった戦利品の中に入っていたものらしく、その時点で既に宮中内では読める者がいないと言われておりました。」
「そうか。」

王様は顎に手を当てうーんと考える仕草を見せる
その時別の貴族が手を挙げる
「陛下、よろしいでしょうか?」
「申してみよ」
「ありがとうございます。警備部隊管理担当のカート伯爵です。 恐れながら申し上げますと、機密文書も多い王宮の図書室に侵入し鍵を破壊してまで盗んだ本が、長らく読める人間がいないと言われている古文書で良かったと私は思っております。 ですが侵入と破壊をされた事は事実。読めぬ古文書の行方も気にはなりますが、それよりも王宮内の警備と秘蔵書物や国庫の鍵の見直しを優先させる方が良いのではと愚考いたします。」

そう言ってカート伯爵は胸に手を当て頭を下げる
赤い短髪のカート伯爵はハリス伯爵とは違い大柄で王宮内の警備部隊をまとめ上げる真面目な人だ。
鋭い眼光で誰に対しても恐れを見せることなく物を言う姿勢はダリルが1番見習いたいと思っている。
そしてそれは自分の担当している王宮内での騒動に責任を感じての進言だろう。
ハリス伯爵よりも警備部隊管理者として他の貴族とも良く関わるからか周りの空気もカート伯爵の意見に頷いている者が多い。
「・・・なるほど」
王様もその意見も一理あると言った声を出すと、ハリス伯爵が慌てて声を発する
「ちょ、ちょっとお待ちください!」
「ハリス伯爵、陛下から発言のお許しが出ていないだろう」
カート伯爵が窘める
「よいよい、ハリス伯爵・・・申してみよ」
「恐れ入ります。 カート伯爵がおっしゃる事もわかりますし、警備は強化していただきたいですが、盗難された書物も大変貴重なものです。 先代のこの国の王が勝利の証として保管していた蔵書が盗まれたのです。どうか書物の捜索もしてください!」
よろしくお願いしますと深々と頭を下げるハリス伯爵に周りの貴族たちの空気も揺らぐ

「ふむ・・・ダリルよ」
「はい。」
貴族たちを見渡している時に王様から声をかけられドキリと心臓が跳ね、背筋が伸びる
驚いたことに気付かれないように平静を装い返事をすると、王様は琥珀色の瞳でじっとこちらを見ている
「ダリルはどう思う?」
「・・・私は、どちらも重要だと思います。」
「今日の朝会の問題はこれだけではないかもしれんぞ? これよりも更に急を要する事柄もあるかもしれぬ」
「もちろん、この問題よりも重要度の高い事柄もあるかもしれません。その時は更に優先度の高いものから処理するべきです。ですが、王宮内に不審者が侵入した可能性があるとすれば、本の内容は重要ではなく王族への危害が本来の目的の可能性も出てきます。」
「本は、これが目的で入ったと見せかける為のカモフラージュか?」
「左様でございます。真の目的は王族への謀反の可能性もあります。本に関しても、万が一読める者がいた場合、もしも機密性の高い蔵書だった場合のことも考え、捜索をするべきかと・・・」
同じ瞳で王様をじっと見るダリルの眼差しに、王様は言葉を続ける

「ではダリル、この問題の処理はどうすれば良い?お前に任せてみよう。」
ダリルがどれだけ出来るのかをまるで試すように言う王様の言葉に身が引き締まり、ダリルはハリス伯爵に視線を向けた

「ハリス伯爵には保管されている本を全て確認し、他になくなった物がないかの確認。もちろん配属されている部下達の身辺調査も行ってください。」
「承知いたしました」
ハリス伯爵は希望が通り満足そうな顔をして頭を下げる
「では、私は早々に捜索を開始したいと思いますのでこれにてお先に失礼致します」
そう言って深々と礼をして会議室から出ていった

「カート伯爵には警備部隊強化と王宮内の巡回強化をしてください。かならず信頼に足る部下をつけるように。そして侵入経路の捜索を護衛部隊隊長と共に進めてください。 犯行現場の確保もしてください。まだ何か残っている可能性もあります。」
「承知いたしました」
カート伯爵もそう言うと一礼してから会議室を後にした

そこまでの指示をした後ダリルは王様の方を見ると非常に満足げな顔をしている
「なかなか的確な指示ができておった。」
「ありがとうございます」
「では、この問題は王太子に任せることにする。皆王太子の言葉は余の言葉と思い協力を惜しまぬように」
「「「承知いたしました」」」

貴族達は一斉に返事をする

「ダリルよ、そなたは盗まれた古文書の捜索を進めるのだ。ハリス伯爵やカート伯爵の協力を仰ぎこの問題を解決せよ」
「はっ・・・必ずや解決させます」
そう言うと深々と礼をしてダリルも会議室を後にした

その後ろ姿を眺め、王様は息子の王太子としての成長を感じた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

あなたのためなら

天海月
恋愛
エルランド国の王であるセルヴィスは、禁忌魔術を使って偽の番を騙った女レクシアと婚約したが、嘘は露見し婚約破棄後に彼女は処刑となった。 その後、セルヴィスの真の番だという侯爵令嬢アメリアが現れ、二人は婚姻を結んだ。 アメリアは心からセルヴィスを愛し、彼からの愛を求めた。 しかし、今のセルヴィスは彼女に愛を返すことが出来なくなっていた。 理由も分からないアメリアは、セルヴィスが愛してくれないのは自分の行いが悪いからに違いないと自らを責めはじめ、次第に歯車が狂っていく。 全ては偽の番に過度のショックを受けたセルヴィスが、衝動的に行ってしまった或ることが原因だった・・・。

実家に帰ったら平民の子供に家を乗っ取られていた!両親も言いなりで欲しい物を何でも買い与える。

佐藤 美奈
恋愛
リディア・ウィナードは上品で気高い公爵令嬢。現在16歳で学園で寮生活している。 そんな中、学園が夏休みに入り、久しぶりに生まれ育った故郷に帰ることに。リディアは尊敬する大好きな両親に会うのを楽しみにしていた。 しかし実家に帰ると家の様子がおかしい……?いつものように使用人達の出迎えがない。家に入ると正面に飾ってあったはずの大切な家族の肖像画がなくなっている。 不安な顔でリビングに入って行くと、知らない少女が高級なお菓子を行儀悪くガツガツ食べていた。 「私が好んで食べているスイーツをあんなに下品に……」 リディアの大好物でよく召し上がっているケーキにシュークリームにチョコレート。 幼く見えるので、おそらく年齢はリディアよりも少し年下だろう。驚いて思わず目を丸くしているとメイドに名前を呼ばれる。 平民に好き放題に家を引っかき回されて、遂にはリディアが変わり果てた姿で花と散る。

乙女ゲームは見守るだけで良かったのに

冬野月子
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した私。 ゲームにはほとんど出ないモブ。 でもモブだから、純粋に楽しめる。 リアルに推しを拝める喜びを噛みしめながら、目の前で繰り広げられている悪役令嬢の断罪劇を観客として見守っていたのに。 ———どうして『彼』はこちらへ向かってくるの?! 全三話。 「小説家になろう」にも投稿しています。

【完結】消された第二王女は隣国の王妃に熱望される

風子
恋愛
ブルボマーナ国の第二王女アリアンは絶世の美女だった。 しかし側妃の娘だと嫌われて、正妃とその娘の第一王女から虐げられていた。 そんな時、隣国から王太子がやって来た。 王太子ヴィルドルフは、アリアンの美しさに一目惚れをしてしまう。 すぐに婚約を結び、結婚の準備を進める為に帰国したヴィルドルフに、突然の婚約解消の連絡が入る。 アリアンが王宮を追放され、修道院に送られたと知らされた。 そして、新しい婚約者に第一王女のローズが決まったと聞かされるのである。 アリアンを諦めきれないヴィルドルフは、お忍びでアリアンを探しにブルボマーナに乗り込んだ。 そしてある夜、2人は運命の再会を果たすのである。

お飾りの妃なんて可哀想だと思ったら

mios
恋愛
妃を亡くした国王には愛妾が一人いる。 新しく迎えた若い王妃は、そんな愛妾に見向きもしない。

結婚5年目のお飾り妻は、空のかなたに消えることにした

三崎こはく
恋愛
ラフィーナはカールトン家のお飾り妻だ。 書類上の夫であるジャンからは大量の仕事を押しつけられ、ジャンの愛人であるリリアからは見下され、つらい毎日を送っていた。 ある日、ラフィーナは森の中で傷ついたドラゴンの子どもを拾った。 屋敷に連れ帰って介抱すると、驚いたことにドラゴンは人の言葉をしゃべった。『俺の名前はギドだ!』 ギドとの出会いにより、ラフィーナの生活は少しずつ変わっていく―― ※他サイトにも掲載 ※女性向けHOT1位感謝!7/25完結しました!

【完結】1王妃は、幸せになれる?

華蓮
恋愛
サウジランド王国のルーセント王太子とクレスタ王太子妃が政略結婚だった。 側妃は、学生の頃の付き合いのマリーン。 ルーセントとマリーンは、仲が良い。ひとりぼっちのクレスタ。 そこへ、隣国の皇太子が、視察にきた。 王太子妃の進み道は、王妃?それとも、、、、?

【完結】花冠をあなたに ―信じ尽くした彼女の、最期の言葉―

桜野なつみ
恋愛
病弱な婚約者を支え続けた令嬢ミリアーナ。 幼いころから彼を想い、薬草を学び、研究し、元気になったら花畑で花冠を編ごう」と約束していた。 けれど、叔母と従妹の影がその誓いをゆがめ、やがて誤解と病に蝕まれていく。 最期に彼女が残したのは――ただ一つの言葉。 全十話 完結予定です。 (最初は全四話と言っていました。どんどん長くなってしまい、申し訳ありません。)

処理中です...