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10:ハリス回想と盗品の行方
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朝会に参加する一時間ほど前。
いつものように、すでに図書室の清掃に取りかかっているであろう部下たちに挨拶をするため、私は図書室へ向かっていた。
本来なら私こそが一番乗りで登城し、古書の手入れをするのが日課だった。だが、
「自分たちがやりますから、司書長さまはもっと遅く来てください!」
と部下たちに口を揃えて言われてから、少し遅れて登城するようになったのだ。
彼ら曰く、私は“働きすぎ”らしい。
睡眠欲よりも、食欲よりも――なによりも。
本に囲まれ、この宮中図書室で古い紙の匂いに包まれている時間が好きなだけなのに。
そう思うと、少しだけ寂しさもある。
けれど私ばかりが働けば、部下たちは気を遣い、必要以上に動かざるをえない。
そしていずれは、この中から私の後を継ぐ者を選び、育てていかなければならない。
……そう考えると、少しずつ仕事を任せていくのは悪くないだろう。
そう自分に言い聞かせながら、
「もうすぐ図書室だ」と思ったその瞬間だった。
図書室の前に、数名の部下が青ざめた顔で立ちすくんでいた。
嫌な予感が背筋を冷たくする。
「君たち。どうした?」
思わず小走りで近づくと、彼らはまるですがりつくように私へ身を寄せた。
その顔は今にも泣き出しそうだ。
「司書長さま! な、な、な……!」
「な?」
震える唇で、必死に言葉を絞り出す。
「何者かに・・・侵入され・・・本が盗まれました!!」
「な、なんだって!!」
心臓が大きく跳ねた。
図書室の本に手を出すなど、この宮中で最もやってはならない禁忌だ。
「何故私を呼びにこなかった?」
「私たちも気が付いたのが遅く・・・司書長をお呼びするよりもまず、破壊された本棚の状態と盗まれた本の数の把握を優先いたしました」
そう言って部下たちは頭を下げ、私の言葉を待つ。
なるほど、それは一理あると思った。
彼らなりに自分がすべき事を考え行動したのだ。
「そうか・・・君たちの判断が正しい。
それでは現状を教えてくれ。 私はこの状況をこれから参加する朝会で王様にお話しする。」
そう言って詳細を聞き私は朝会に参加した。
他の貴族から書物は後回しにするべきというような発言を受け、周りの私よりも位の高い方々からもそんな空気が出され、
まるで図書室の書物の中でも、盗まれた物は大したことがないと言われたような気持ちになり腹が立った。
爪が食い込むくらいギュッと拳を握る
王様からのお言葉を待っていたその時、王様から王太子へと意見が求められた
王太子は王様を見てから静かに立ち上がると
室内に静寂が広がる
『ハリス伯爵には保管されている本を全て確認し、他になくなった物がないかの確認。
・・・もちろん配属されている部下達の身辺調査も行ってください。』
迷いのない声色で
真っ直ぐと私を見る琥珀色の瞳は、この事件を必ず解決してみせるという強い決意の色が見えた。
「承知いたしました」
私のような爵位だけ立派な貴族の話も真剣に耳を傾けてくださる
そんな王太子を見て、このお方に必ずこの国の王となっていただきたい
そう強く感じた
朝会で途中退席したハリスは、ダリルに指示された通り図書室での書物の捜索と、
昨日の図書室利用者の記録や、図書室内で仕事をしていた部下の身辺調査を開始の指示を出した
その時入口にダリルを見つけた。
「これがハリス伯爵が言っていた本棚か」
「左様でございます」
ダリルは目の前のガラスが割られた古い鍵付きの本棚を見る
長く読まれることのない本が保管されていると聞いて、王宮内といえど埃がかぶっているような本棚かと思っていたが、年期が入った木目は飴色で、多くの歴史を見てきたような深みと温かみがある
本棚を見て、ダリルは思わずため息が出た
「書物はもちろんだが、本棚がきちんと手入れされていて素晴らしい」
まさに歴史の記録を大切だと言っていたハリスの言葉通りの行き届いた手入れに感心すると同時に嬉しくなった
「恐れ入ります。 読めないと周りからは言われておりますが、大切な貴重な書物をしまう棚も清潔に整えるのは私たち図書室を任される者の使命でございます。」
ハリスは当たり前の事だといった風に答えて深々と頭を下げる
「うむ・・・せっかくこのように大切に保管していたのに・・・」
ダリルは割られたガラスの破片が床に散らばっているのを見てハリスに視線を戻す
ハリスは強い怒りの目をして本棚を見ていた
「はい。 この図書室を任された者としてこのような事あってはなりませんでした・・・」
ハリスはダリルの方を向き跪いた
「本当に申し訳ございません、殿下・・・どうか私に罰をお与えください」
その姿を見てダリルは慌てて立ち上がらせる
「立ってくれ、ハリス伯爵。そなたに責を問うつもりはない。」
ダリルの言葉を聞きハリスは立ち上がる
その姿を見てダリルは続ける
「責任を感じて立場がないというのならば・・・この問題を私と必ず解決するぞ」
責める気などない。ダリルの琥珀色の瞳はハリスにそう言っていた
それを見たハリスは目が熱くなる
呼吸を忘れてしまうかと思う位に感極まったが涙など見せるわけにはいかないとグッと堪えた
「殿下!!もちろんです! この問題。必ず解決して見せます!!!」
「うむ・・・頑張ろう・・・」
そう言ってダリルとハリスは固い握手をした
「王太子様・・・よろしいですか?」
遠慮がちに後ろから声がかかる
「!・・・マルコ?
・・・と、カート伯爵。どうした?」
振り返るとそこには申し訳なさそうな顔のマルコとその後ろにはカート伯爵が立っていた
カート伯爵はマルコの前に立ち出るとダリルを真っ直ぐと見る
「殿下、ご挨拶申し上げます」
姿勢を正し、気持ちのいい位の角度のあるお辞儀をするカート伯爵に彼の真面目さが窺える
「うむ・・・何かあったか?」
わざわざ来ると言う事は何かあったのだろう、そう思いカートの方を向く
「はい、警備部隊と護衛部隊で王宮内を調べましたが、侵入されたような形跡はありませんでした。」
「そうか・・・では内部者の可能性があると言う事か。」
ダリルは顎に手を当て考える仕草をする
「はい、ですが。王宮内の中でもこの図書室は外から出入りする者が前を通る事が出来る場所にあります。」
「なるほど・・・ハリス伯爵。外からの出入りの者もこの図書室は利用できるのか?」
隣にいるハリスに視線を向けると、ハリスは目を伏せて答える
「恐れながら申し上げます。この図書室は王宮勤めの者であれば、王宮で暮らしていなくとも利用は可能です。ですが、必ず入室時に名前を記入する決まりとなっております。その入室記録には直近で利用した者はおりません。」
「そうか・・・」
どうしたものか・・・と頭を悩ませていたとき、いつの間にか図書室内に入っていたジャンが話しかけてきた
いつものように、すでに図書室の清掃に取りかかっているであろう部下たちに挨拶をするため、私は図書室へ向かっていた。
本来なら私こそが一番乗りで登城し、古書の手入れをするのが日課だった。だが、
「自分たちがやりますから、司書長さまはもっと遅く来てください!」
と部下たちに口を揃えて言われてから、少し遅れて登城するようになったのだ。
彼ら曰く、私は“働きすぎ”らしい。
睡眠欲よりも、食欲よりも――なによりも。
本に囲まれ、この宮中図書室で古い紙の匂いに包まれている時間が好きなだけなのに。
そう思うと、少しだけ寂しさもある。
けれど私ばかりが働けば、部下たちは気を遣い、必要以上に動かざるをえない。
そしていずれは、この中から私の後を継ぐ者を選び、育てていかなければならない。
……そう考えると、少しずつ仕事を任せていくのは悪くないだろう。
そう自分に言い聞かせながら、
「もうすぐ図書室だ」と思ったその瞬間だった。
図書室の前に、数名の部下が青ざめた顔で立ちすくんでいた。
嫌な予感が背筋を冷たくする。
「君たち。どうした?」
思わず小走りで近づくと、彼らはまるですがりつくように私へ身を寄せた。
その顔は今にも泣き出しそうだ。
「司書長さま! な、な、な……!」
「な?」
震える唇で、必死に言葉を絞り出す。
「何者かに・・・侵入され・・・本が盗まれました!!」
「な、なんだって!!」
心臓が大きく跳ねた。
図書室の本に手を出すなど、この宮中で最もやってはならない禁忌だ。
「何故私を呼びにこなかった?」
「私たちも気が付いたのが遅く・・・司書長をお呼びするよりもまず、破壊された本棚の状態と盗まれた本の数の把握を優先いたしました」
そう言って部下たちは頭を下げ、私の言葉を待つ。
なるほど、それは一理あると思った。
彼らなりに自分がすべき事を考え行動したのだ。
「そうか・・・君たちの判断が正しい。
それでは現状を教えてくれ。 私はこの状況をこれから参加する朝会で王様にお話しする。」
そう言って詳細を聞き私は朝会に参加した。
他の貴族から書物は後回しにするべきというような発言を受け、周りの私よりも位の高い方々からもそんな空気が出され、
まるで図書室の書物の中でも、盗まれた物は大したことがないと言われたような気持ちになり腹が立った。
爪が食い込むくらいギュッと拳を握る
王様からのお言葉を待っていたその時、王様から王太子へと意見が求められた
王太子は王様を見てから静かに立ち上がると
室内に静寂が広がる
『ハリス伯爵には保管されている本を全て確認し、他になくなった物がないかの確認。
・・・もちろん配属されている部下達の身辺調査も行ってください。』
迷いのない声色で
真っ直ぐと私を見る琥珀色の瞳は、この事件を必ず解決してみせるという強い決意の色が見えた。
「承知いたしました」
私のような爵位だけ立派な貴族の話も真剣に耳を傾けてくださる
そんな王太子を見て、このお方に必ずこの国の王となっていただきたい
そう強く感じた
朝会で途中退席したハリスは、ダリルに指示された通り図書室での書物の捜索と、
昨日の図書室利用者の記録や、図書室内で仕事をしていた部下の身辺調査を開始の指示を出した
その時入口にダリルを見つけた。
「これがハリス伯爵が言っていた本棚か」
「左様でございます」
ダリルは目の前のガラスが割られた古い鍵付きの本棚を見る
長く読まれることのない本が保管されていると聞いて、王宮内といえど埃がかぶっているような本棚かと思っていたが、年期が入った木目は飴色で、多くの歴史を見てきたような深みと温かみがある
本棚を見て、ダリルは思わずため息が出た
「書物はもちろんだが、本棚がきちんと手入れされていて素晴らしい」
まさに歴史の記録を大切だと言っていたハリスの言葉通りの行き届いた手入れに感心すると同時に嬉しくなった
「恐れ入ります。 読めないと周りからは言われておりますが、大切な貴重な書物をしまう棚も清潔に整えるのは私たち図書室を任される者の使命でございます。」
ハリスは当たり前の事だといった風に答えて深々と頭を下げる
「うむ・・・せっかくこのように大切に保管していたのに・・・」
ダリルは割られたガラスの破片が床に散らばっているのを見てハリスに視線を戻す
ハリスは強い怒りの目をして本棚を見ていた
「はい。 この図書室を任された者としてこのような事あってはなりませんでした・・・」
ハリスはダリルの方を向き跪いた
「本当に申し訳ございません、殿下・・・どうか私に罰をお与えください」
その姿を見てダリルは慌てて立ち上がらせる
「立ってくれ、ハリス伯爵。そなたに責を問うつもりはない。」
ダリルの言葉を聞きハリスは立ち上がる
その姿を見てダリルは続ける
「責任を感じて立場がないというのならば・・・この問題を私と必ず解決するぞ」
責める気などない。ダリルの琥珀色の瞳はハリスにそう言っていた
それを見たハリスは目が熱くなる
呼吸を忘れてしまうかと思う位に感極まったが涙など見せるわけにはいかないとグッと堪えた
「殿下!!もちろんです! この問題。必ず解決して見せます!!!」
「うむ・・・頑張ろう・・・」
そう言ってダリルとハリスは固い握手をした
「王太子様・・・よろしいですか?」
遠慮がちに後ろから声がかかる
「!・・・マルコ?
・・・と、カート伯爵。どうした?」
振り返るとそこには申し訳なさそうな顔のマルコとその後ろにはカート伯爵が立っていた
カート伯爵はマルコの前に立ち出るとダリルを真っ直ぐと見る
「殿下、ご挨拶申し上げます」
姿勢を正し、気持ちのいい位の角度のあるお辞儀をするカート伯爵に彼の真面目さが窺える
「うむ・・・何かあったか?」
わざわざ来ると言う事は何かあったのだろう、そう思いカートの方を向く
「はい、警備部隊と護衛部隊で王宮内を調べましたが、侵入されたような形跡はありませんでした。」
「そうか・・・では内部者の可能性があると言う事か。」
ダリルは顎に手を当て考える仕草をする
「はい、ですが。王宮内の中でもこの図書室は外から出入りする者が前を通る事が出来る場所にあります。」
「なるほど・・・ハリス伯爵。外からの出入りの者もこの図書室は利用できるのか?」
隣にいるハリスに視線を向けると、ハリスは目を伏せて答える
「恐れながら申し上げます。この図書室は王宮勤めの者であれば、王宮で暮らしていなくとも利用は可能です。ですが、必ず入室時に名前を記入する決まりとなっております。その入室記録には直近で利用した者はおりません。」
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