恋と愛を知ったのは、陰謀だらけの王宮でした。

みるく

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12:市井再訪

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「ダリル様、お足元お気をつけください」
マルコは馬車から出てくるダリルにそう声をかける。


前回市井にお忍びで来たのは二週間前。
以前と変わらず店主の呼び込みの声、親に物をねだる子どもの声。
風に乗ってふわりと香る焼きたてのパンの匂いや肉・魚の香り。

あちらこちらから音や匂いが流れてくると自然とダリルの心が浮かれてしまう。
無意識に口角が上がってきて仕事を忘れそうになるが、やるべきことをやらなければと気持ちを引き締める。

「では、手分けしてまずは本屋から探していこうと思う。」
そう言うと馬車から降りてきていたハリスがダリルに話しかける。
「殿・・・いえ、ダリル様。」
「なんだ?」
「この一帯の本屋は私も休みを使ってほぼ捜索しました。」
そう言うハリスにダリルは真っ直ぐ見る

「何故また同じ場所へ行くのか?・・・と聞きたいのか?」
「左様でございます。一度調べた場所に行くのは時間も手間もかかるのでは・・・と。」
ハリスは、もしや出過ぎた事を進言したのではと、少し震える手をバレないように握る
「うむ、ハリス伯爵の言うことは間違いではない。」
その言葉を聞きホッと胸をなで下ろす。
「だが。」
安心したのも束の間、ダリルのその言葉にまた心臓がドクリと跳ねる。

「一度行ったところにもしかしたら現れるかもしれない。・・・前回はいなかった。だが今回は居た。そんな事もあるだろう?」
ダリルはハリスに向かって爽やかに微笑みかけた。
まるでハリスの進言がなんでもないことのように。


その姿にハリスはようやく高鳴っていた心臓が穏やかになった。
「なるほど・・・確かにそうですね」
「この辺りにある本屋を見つけて翻訳師の捜索。それ以外にも歩いている人々にも何か知っている者がいるかもしれない」
そう言ってダリルは辺りを見回す。
「こうやって歩いている中に、いるかもしれない。だからこそ同じ場所だとわかっていても探すのだ」

ダリルの言葉にみんな姿勢が正される。
同じ気持ちという一体感は、どんな状況でも士気が上がるものだ。
「「「はい!」」」
活気づいた市井の中に、民に紛れ込んだ護衛数名
ハリス伯爵とその従者
伯爵に扮したダリルに従者のマルコとジャン

そんな人数が市井で勢いよく声を上げるものだから周りはギョッとしてダリル達を見る
そんな状況にダリルはゴホンッと咳払いをする
その咳払いで周りの民はそそくさと去っていった。

ダリルはその様子を確認してから、小さな声でみんなに言う
「・・・では、伯爵と従者、私とマルコ、ジャンと護衛1名、他は各自で捜索開始だ。」

「「「はい」」」
次はみんな囁くように返事をして各々散らばっていく







ダリルとマルコはその姿を見た後、前回来た時と同じ道を歩く。
マルコはどんどん先に進むダリルの後ろをはぐれないようについていく。
「ダリル様、どちらに向かわれるのですか?」
ダリルが市井を回るのは今回で2度目
それなのに迷いなく進んでいくダリルにアテでもあるのか?と疑問が出る。

その時、ダリルはピタリと止まり、後ろを歩いていたマルコはいきなり止まったダリルにぶつかる。
「ブッ!!!」
服の上からでもわかる固い筋肉にぶつけた鼻を摩っていると、ダリルはマルコの方を向く。
「マルコ・・・先日行った雑貨店はどこだ?」
低く抑えた声だが、ほんのわずかに探るような間があった。

「・・・え?」

痛みで涙目になったのがあっという間に乾く。
この人・・・行きたい店がわからなくなったんだ・・・
そうわかったら腹の底から笑いが込み上げる。
「ブフッ・・・ダリル様、迷子になられたんですか?あんなに自信満々に先を進んでいらしたのに?・・・プッ」
あの威厳たっぷりのダリルが場所がわからず困っている。
笑ってはいけないのに我慢が出来ず肩が震え、涙が出てくる

当の本人は恥ずかしさからか膨れっ面でマルコを睨んでくる
その姿すらおかしくて、後でジャンに絶対話そうと誓う
あいつはほとんど感情を出したりしないが、実は笑いのツボが浅い
きっと大爆笑間違いない
そう思いつつ呼吸を整える


「はぁ~・・・先日の雑貨店とは、あのネックレスのあった店ですか?」
涙目になった目をこすりながら聞くと腕を組んで膨れっ面になっていたダリルがこちらを向く

「そうだ。あの店はどこにあった?」
辺りを見回しても店先だけを見ると似たような雰囲気の所は多い
確かに迷っても仕方がないだろう。

マルコはそう納得してダリルの後ろ側を見る
「・・・ダリル様。後ろにある店がおっしゃっている店ではないですか?」
マルコの手のひらがダリルの後ろを指す、その仕草と言葉にダリルはゆっくりと後ろを向く


「・・・あそこだ」
ダリルはその言葉と共に2週間前の記憶が蘇る

青いネックレスと明るい少女
そしてその少女に渡された割引券

「ダリル様、何故本屋ではなく雑貨店なのですか?」
マルコは疑問に思ったことを聞く
ダリルの顔を覗くように見ると、ダリルの顔は嬉しそうに輝いていた

そして、その顔のままマルコの方を見る
「先日あの店に来た際、あそこで出会った少女がいたであろう?」
「そうですね。」
「あの少女・・・セラが渡してきた割引券はどこの割引券だった?」
そう言われてマルコは思い出そうと顎に手をやる。
「割引券・・・あ!」
「そうだ。」

「「セラ書房割引券」」

2人の声が重なる

「あの店の店主はセラの事をよく知っていた。」
「我々があちこちその書房を探し回るより、聞いた方が早いと言う事ですね。」
「ああ。」
2人は迷わずまっすぐ店へ向かう

前回来た時と同じくたくさんの雑貨が並んでいる。
以前は全てが初めてのことでよく見ていなかったが、棚の上の方は少し埃っぽい。
古い物の匂いや紙の匂いが色々混ざっているが、嫌いではない。
むしろどことなく懐かしいような気すらする。
きっと幼い頃、マルコとジャンとした城の中のかくれんぼで入り込んだ古い物置きの中の匂いと少し似ているからだろう。

そんな事を考えながら広くない店の奥に入り先日店主が座っていたところまで向かう。


「誰も居ませんね」
「あぁ・・・」
前回店主が座っていた場所には誰も居ない
店主が座っていた後ろには1段高い段差があり、その奥には部屋がある。
おそらくその部屋から奥は、店主の家になっているんだろう



「誰かー、誰も居ないのか?」
ダリルとマルコは奥の部屋を覗き込むようにしながら大きめの声で人を呼ぶ



「はーい!」
すると奥から女性の声が聞こえてきた

「娘さんですかね?」
マルコはそう言うと、人がいて良かったとホッとした表情をする
「ああ、店番してるのかもな。」
ダリルがマルコにそう言っていると、奥からパタパタと足音がする


「お待たせしました!いらっしゃい・・・あ!」
明るい声と共に出てきたのは、先日あった少女
は驚いた表情になる

ダリルもまた驚く
胸のポケットに入れている『セラ書房割引券』の存在が大きく感じる

「・・・君は・・・セラ」
そうダリルが呟くと、驚き固まったままだったセラも言葉を発する



「スミス・・・伯爵様・・・」
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